ナレッジフォーラム「日本が選ばれる国になるために―インドネシアにおける国際労働移動のダイナミクスからひも解く―」開催

2024.02.28

日本では、出生率の低下、高齢化、労働力人口の減少による労働力不足が深刻化しています。日本における外国人労働者の数は、65万人(2011年)から172万4,000人(2020年)と、過去10年間で大幅に増加しました。しかし、日本が外国人労働者にとって魅力的な就労先となるには、依然としてさまざまな課題があります。

2023年12月8日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、日本への国際労働移動のさまざまな側面について議論するナレッジフォーラムを開催しました。同フォーラムでは、特定技能制度に基づき今後5年間に7万人の移住労働者を日本に送る目標を掲げるインドネシアを事例として取り上げ、国際労働移動メカニズムの現状と、国際労働移動を希望するインドネシアの人々にとって日本がより魅力的な国になるために必要な取り組みについて議論しました。

冒頭、開会あいさつではJICA緒方研究所の宮原千絵 副所長が、年間600万人以上の労働者がアジア諸国から海外に移住しており、国際労働移動がトレンドになっていると述べ、登壇者間の議論への期待を示しました。

国際労働移動経路と経路選択メカニズムに迫る

JICA緒方研究所の齋藤聖子 主任研究員が登壇し、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「海外労働希望者の国際移動経路と経路選択メカニズムに関する研究 」の成果を紹介しました。海外労働移動のメカニズムについて、プッシュ-プル理論では、高所得国の一部が移民労働者から希望する就労先に選ばれていない現象を説明できない点を指摘し、リスクと利益、移住ネットワーク、アスピレーションとケイパビリティーモデルなど、他の理論についても紹介しました。また、インドネシアの国際労働移動希望者、地域住民、送出機関・企業、職業訓練所・語学研修所を対象に2022年と2023年に実施された調査結果の一部を共有し、回答者の大部分が日本への移住は「夢」であると述べつつも、実際の就労先として選ぶのは避けていることを指摘しました。日本の食べ物、アニメ、安全性といった側面がアスピレーションを高める一方で、準備期間の長さ、技能および言語習得を含む厳しい研修プロセス、雇用主側の応募要項が他国に比べ多岐にわたるといった問題が、日本を就労先として選ぶことを阻んでいると説明しました。

国際労働移動のメカニズムと移住労働者の動機について説明するJICA緒方研究所の齋藤聖子主任研究員

インドネシア人国際労働移動希望者の意思決定プロセスの背景にあるもの

桜美林大学の浅井亜紀子教授による発表では、定性調査によるインドネシア人の国際労働移動希望者121人のデプスインタビューデータが示されました。この調査では、希望する移動先として挙げられた日本、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、サウジアラビアの就労先としての印象について分析を行いました。その結果、日本は安全で給与が高く、卓抜した文化があるものの、仲介手数料が高額で送出手続きが長い、香港・台湾・シンガポールは比較的給与が高く、送出手続きが短い、マレーシアは文化や言語がインドネシアと似ていて、地理的にも近いものの、労働条件が過酷で低賃金だと認識されていることが明らかになりました。浅井教授は5つの事例をもとに、アスピレーションとケイパビリティー理論に基づき、アスピレーションとケイパビリティーの変動の原因となるさまざまな要素について論じました。

定性調査によるインドネシア人海外就労希望者 121 人の研究データを示した桜美林大学の浅井亜紀子教授

熟練労働者の国際労働移動の促進

インドネシア国立研究イノベーション庁の研究者であるブディアント・フィルマン氏は、最近の移民政策に寄与した要因についての視点を示しました。インドネシア政府が同国の熟練労働者の国際労働移動を促進し、出国前、移住期間中、帰国までにわたって国際移民労働者を保護することを目的に、国際移民労働者の保護に関する2017年法律第18号を制定したことを説明しました。また、技能の習得が国際労働の求職プロセスを開始するための必須条件となってきており、このような変化は、非熟練労働者よりも熟練労働者の需要が世界的に高まっていることを示していると付け加えました。それにもかかわらず、国際労働移動者を保護するための政府の政策や措置に表れているマクロレベルの構造は、送出プロセスのさらなる複雑化を助長しており、その結果、国際労働移動希望者の積極的で自律的な意思決定が阻害されるなど、さまざまな点で問題が増加していると述べました。

インドネシア政府の移民政策の形成に寄与した背景にある要因を示すインドネシア国立研究イノベーション庁のブディアント・フィルマン氏

魅力的で安全な日本への道筋とは?

パネルディスカッションでは、齋藤主任研究員が国際労働移動に関する個人の意思決定におけるマクロ要因とメソ要因の影響について発表しました。浅井教授から示された事例をアスピレーションとケイパビリティー理論の観点から分析し、国際労働移動のための送出プロセスの複雑さが、国際労働移動希望者が適切な選択肢を自律的に検討することなく、送出機関やその関係者によって自動的にある決まった移動ルートに意図せずのせられてしまうことにつながっていると説明しました。国際労働希望者のアスピレーションとケイパビリティーを高めながら就労先を決定できる送出プロセスをつくることは、日本へのより魅力的で安全な移動ルートを整えることにつながり、より現実的なアプローチとなり得ると論じ、「このルートをつくるにはどのような方策が考えられるか?」と参加者に質問を投げかけました。

パネリストの早稲田大学のファーラー・グラシア教授は、インドネシアから日本への労働力移動の促進における問題について、情報がアスピレーションの形成要素だと主張しました。今回の発表で提示された事例などによると、日本が実現し得る就労先として広く認識されていないことが示されており、日本の魅力を関係者に伝え、ネットワークリソースを構築する必要があると指摘しました。

インドネシアから日本への労働力移動の促進における問題について述べた早稲田大学のファーラー・グラシア教授

パネリストの西田基行JICA専門家(外国人材受入・送出促進アドバイザーとしてインドネシアに派遣中)は、移民労働者の労働力を活用するためには、申請に関する情報提供、日本語教育、海外就労に必要なスキルや知識の提供、支援組織間の連携といったさまざまな課題を解決する必要があると述べました。

移民労働者の労働力活用に向けた課題を挙げた西田基行JICA専門家

質疑応答では、人権問題、移民労働者移住者のキャリアパス開発、仕事と国際労働移動希望者のマッチングなど、さまざまなテーマについて参加者と意見を交わしました。浅井教授は日本の労働環境においての心理的側面についてコメントし、誰しもが持つ「敬意を持って接してほしい」という欲求に応える必要があると述べました。グラシア教授は、一部の職業について、より透明性の高い資格基準の必要性を提起しました。フィルマン氏は、海外労働希望者の送り出し企業の質を管理するためのメカニズムが欠如している問題を指摘しました。西田JICA専門家は、安全で魅力的な移動ルートを確立するには、労働力移動の費用負担の面で、送り出し国と受け入れ国の双方が協力することが不可欠であると主張し、その後も活発な議論が続きました。

最後に、JICAの宍戸健一理事長特別補佐が閉会の言葉を述べ、日本とインドネシアが労働移動分野で協力することにより、両国の経済成長と人々の幸福が推進されるだろうと期待を示しました。

本フォーラムの動画は以下からご覧になれます。

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