AUDA-NEPADとJICA緒方研究所がウェビナー「TVETにおける産学連携:東南アジアの経験-東南アジア諸国はどのように海外の技術教育モデルを学び現地化したかー」を共催

2024.04.23

2024年1月16日、アフリカ連合開発庁(African Union Development Agency: AUDA-NEPAD)Policy Bridge TankとJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、書籍『Introducing Foreign Models for Development: Japanese Experience and Cooperation in the Age of New Technology 』の出版の機会に、産業人材育成の事例に焦点をあてたウェビナーを共催しました。

本書のキーコンセプトは、「翻訳的適応」と「ローカル・ラーニング」であり、本ウェビナーでは、東南アジア諸国が海外の技術教育モデルをどのように現地化したのか、そしてその教訓を他の文脈、特にアフリカ地域でどのように活用できるかに焦点を当てました。本書の編者の二人、森純一氏(前 国際労働機関マレーシアSkills for Prosperityプログラム・チーフテクニカルアドバイザー)と、JICA緒方研究所の大野泉 シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)が本書から得られた知見を紹介し、参加者と意見交換を行いました。

冒頭のあいさつに立ったAUDA-NEPAD Economic Analysis and Foresight Unitのパムラ・ゴパル・リードコーディネーターは、産業人材の育成は多くの国にとって極めて優先度が高く、特にアフリカでは若者の雇用への取り組みが重要な課題だと述べました。また、アフリカ連合は「教育」を2024年のテーマに掲げていることから、このウェビナーは架け橋となる重要なイベントだとも述べました。

最初に、森氏がハノイ工業大学(Hanoi University of Industry: HaUI)に対するJICAの支援事例をもとに、ベトナムにおける技術・職業教育訓練(Technical and Vocational Education and Training: TVET)について発表しました。森氏は、ベトナムでの産業人材育成の課題として、TVETの質が低いなど、産業人材の供給側に問題があるとされることが多いが、すべての企業が高度なスキルを持つ技術者・技能者を必要としているわけではないといった需要側の問題も認識し、供給・需要の双方の課題を考慮した統合的な技能形成政策が必要だと指摘。ベトナムでは、産業界の関与を促進するためのさまざまな政策が開始されているものの、政策立案者や教育機関は民間企業をTVETプログラムに参加させることに苦労しています。そのためJICAは、HaUIにおいて職業訓練の形成・実施・評価などの各段階にて産業界の参加を促進する訓練プロセスマネージメント手法の導入を支援してきており、森氏はそのモデルをHaUIが学習、適応していると説明しました。また、HaUIが「翻訳的適応」した産学連携モデルは、同校が外国のモデルをオーナーシップを持って学習し、能力開発を続ける限り、今後も変化すると予測しました。

ベトナムの事例について発表した森純一前国際労働機関マレーシアSkills for Prosperityプログラム・チーフテクニカルアドバイザー

2人目の発表者である大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、泰日経済技術振興協会(Technology Promotion Association: TPA)と泰日工業大学(Thai-Nichi Institute of Technology: TNI)の2つの事例を挙げながら、タイの技術振興と技術教育の経験を紹介し、日本式ものづくりがどのようにタイの文脈で学習され、現地化されたかを説明しました。タイの「翻訳的適応」のプロセスは、5つのステージ(技術移転、内部化と技術振興、技術普及、技術教育、海外展開とイノベーション)からなるとしました。そして、タイでの「翻訳的適応」が成功した主な要因として、タイ側に強力なオーナーシップや熱意ある中核人材の存在、自律的な財務運営があったこと、かつ、タイと日本双方で多面的な人的ネットワークとインセンティブがあったことを挙げました。アフリカについては、「産業人材育成の機会は多いが、海外で学び、技術移転において指導的役割を担う能力のある人材の動員や、開発協力の活用により、アフリカ自身による内発的なメカニズムをつくることが重要」と述べました。

タイの事例を紹介したJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

ゴパル氏と共同モデレーターを務めた本間徹氏(AUDA-NEPAD長官シニアアドバイザー兼JICA国際協力専門員)は、2つの発表から得られたポイントを強調し、長期的な発展、民間セクターのさらなる関与、技術教育の中核的なツールとしてのカイゼンの採用、デジタル化時代における産業発展への貢献、さまざまな関係者からの効果的な開発協力の必要性を強調しました。

ディスカッションに参加したAfro-Sino Centre of International RelationsのArhin Acheampong副所長は、「この議論はアフリカにとって何を意味するのか」と問いかけ、「私たちが開発の指標としている理論は、その起源も内容もアフリカの文脈ではあまりに“西洋的”であり、私たちが目指す開発は、起源も表現もアフリカのレンズを通したものであるべき」と述べました。また、その実現のためには、アフリカ側の個人的・政治的意志が必要だとし、海外パートナーと連携しても、政策、枠組み、機関を残したまま去ってしまうため、持続しないことを挙げ、だからこそ既存の組織と協力し、アフリカ側の人材の能力を高めることに目を向け、長期的な投資を行う必要があると強調しました。

ディスカッションに参加したAfro-Sino Centre of International RelationsのArhin Acheampong副所長

ディスカッサントのAUDA-NEPAD人的資本・制度開発局のUnami Dubeシニアプログラムオフィサーは、アフリカ各国の制度基盤を強化する必要があり、そうでなければ、アフリカにおいて人材の供給側(TVET機関)を十分に運営・発展させることができない、と述べました。またアフリカでは民間セクターの規模が小さくTVET機関との連携は容易でないため、公共部門がTVETを通じて技能習得のための支援を行う必要がある、との課題を挙げました。

ディスカッションに参加したAUDA-NEPAD人的資本・制度開発局のUnami Dubeシニアプログラムオフィサー

会場からは、「アジアのTVETモデルは、アフリカ諸国にとって持続可能な産業開発戦略のベンチマークとなり得るが、単に模倣するのではなく、アフリカ諸国は自分たちのコミュニティーが何をしたいのかを知ったうえで、他国から学ぶ必要がある」といった意見が出されました。また、「所得が低く、紛争に見舞われた国々では、TVETをどのように起業や若者の雇用に効果的に結びつけられるか」など、さまざまな質問が挙がりました。

最後に、JICA管理部の山田実次長(元JICA緒方研究所上席研究員)が、本ウェビナーの意義について総括し、締めくくりました。

本ウェビナーの動画(英語のみ)は以下のリンクからご覧いただけます。

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