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ナレッジフォーラム「スティグリッツ教授(ノーベル経済学賞)講演~変わりゆく世界経済の中での雇用の未来~」開催

2024.05.30

2024年3月11日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学(米国)のジョセフ・スティグリッツ 教授、同大のアクバル・ノーマン教授、アジム・プレムジ大学(インド)のアルジュン・ジェヤデブ教養学部長を迎え、ナレッジフォーラムを開催しました。変わりゆく雇用や、アフリカ諸国をはじめとする開発途上国が直面する具体的な雇用創出の課題について議論し、現在の世界における雇用の課題について理解を深めるとともに、全ての人が尊厳を持って生きられる、より良い未来を実現するために何をすべきか考える機会となりました。

先進国と開発途上国が直面するそれぞれの課題とは

まず、田中明彦JICA理事長が開会の辞を述べ、開発途上国は増加する若年人口に十分な雇用を創出するという課題を抱える一方、先進国は人口の高齢化が進む中、労働力不足に対処しつつ持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の達成を目指さなければならないと指摘しました。近年では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに起因する経済危機が労働需要を減少させ、脆弱な層に深刻な影響を与えました。また、デジタル・トランスフォーメーションが雇用に及ぼす影響や、人工知能による雇用への脅威が課題となっているとし、JICAは開発途上国での活動において、生産的な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を重視していると説明。さらに、人間の安全保障と質の高い成長というJICAのミッションのもと、全ての人に労働の尊厳がもたらされるよう取り組んでいることを強調しました。

開会の辞を述べる田中明彦JICA理事長

開会の辞を述べる田中明彦JICA理事長

輸出主導型成長モデルからの卒業を目指して

スティグリッツ教授はまず、アフリカ諸国をはじめ開発途上国が直面する課題について説明しました。今日の世界では、グローバル経済が製造業から移行しつつあり、輸出主導型の成長には陰りが生じていることから、開発途上国の競争力に影響が及んでいます。サービス業は有望であるものの、しばしば不安定な雇用を生み出し、望ましい開発効果をもたらさない可能性があるとしました。また、農業は極めて重要な産業である一方、気候変動、先進国との競争、資源の枯渇といった要因により、長期的な成長の展望は描きにくいと指摘。こうした障害を乗り越え、各国で生じている経済開発における環境の変化を乗り切るためにも、革新的な施策が必要だと述べました。

コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授(ノーベル経済学賞受賞者)

開発途上国が直面する課題について説明するコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授(ノーベル経済学賞受賞者)

また、スティグリッツ教授は、現在の世界情勢は開発途上国にさらなる課題をもたらしていると論じました。歴史を振り返ると、経済原理は大国に有利に働き、説明責任を欠いていると述べました。グリーン産業への巨額な補助金を支給するといった米国のインフレ抑制法など、最近の動きは国際規範への挑戦となっています。開発途上国や欧州の一部の国々は、こうした不均衡にうまく対処できず苦しんでいますが、世界が新たな規範をつくるまでは不確実性が続き、開発途上国の競争力を阻害するだろうと指摘。「世界の分極化はチャンスと試練の両方をもたらす」と述べ、競争の激化によって開発途上国にメリットが生まれる可能性がある一方、国際ルールに則って活動しようとすると、発展を阻害するような厳しい決断を強いられるかもしれないとしました。問題の核心として、グリーン開発に向けた人材や資金が乏しいと言われるものの、実際には資本は余っており、ギャップの解消に効果的な政策が必要だと強調しました。

さらに、人口の急増や気候変動などによる生態系への甚大な影響や土地不足など、アフリカ諸国の開発を阻む追加的な要因もあるとし、新植民地主義とも言えるように、アフリカ諸国は一次資源の輸出が付加価値の創出を上回る歴史的な貿易パターンから脱却できないままであることにも言及しました。

そしてスティグリッツ教授は、安価な非熟練労働力や天然資源の競争優位性が低下している中、アフリカ諸国の開発を成功させるには、輸出主導型の成長モデルから脱却し、技術の進歩と産業政策に焦点を当てた新たな多面的戦略を導入することが不可欠と論じました。近代化への道のりでは、創造性、金融支援やグローバル規制を含む国際的な支援体制、グリーン社会に向けた構造変革への断固たる取り組みも求められます。気候変動や地政学的情勢の変化を乗り切るには、各国が連携することが不可欠であり、その際には日本のリーダーシップも期待されていること、また、世界共通の課題に立ち向かうために、開発途上国への支援と同時に開発途上国からのサポートも必要であり、相互支援が極めて重要であることを述べました。

登壇者のアジム・プレムジ大学のアルジュン・ジェヤデブ教養学部長、コロンビア大学のアクバル・ノーマン教授、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授

左から:アジム・プレムジ大学のアルジュン・ジェヤデブ教養学部長、コロンビア大学のアクバル・ノーマン教授、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授

アフリカの開発途上国が楽観する理由と進むべき道

次に、JICA緒方研究所の原田徹也 上席研究員がモデレーターを務めるディスカッションが行われ、「アフリカの課題をどう見るべきか?」という問いが示されました。ノーマン教授は、アフリカの開発を楽観視できる理由として、構造改革と十分な雇用機会の創出を実現したエチオピアやルワンダといった国々の成功例に言及しました。一方、ジェヤデブ教育学部長は、我々はアフリカをまるで一つの国であるかのように捉えがちだが、アフリカ諸国はそれぞれ大きく異なり、国によって楽観できるか否かは変わると指摘しました。また、JICAの武藤めぐみ上級審議役は、こうした未来志向の取り組みの一つとして「アフリカグリーン投資イニシアチブ」を挙げました。アフリカでは再生可能エネルギーや自然といった非従来型の比較優位を生かしたグリーン関連産業および雇用の潜在機会が大きいと考えられており、新たな政策による産業構造の変革とディーセント・ワークの創出が試みられています。

JICAの武藤めぐみ上級審議役

グリーン投資イニシアチブについて説明したJICAの武藤めぐみ上級審議役

一方、JICA緒方研究所の峯陽一 研究所長は、対応が必要な課題として、アフリカの人口増加は規模が大きく、2100年には世界人口の40%をアフリカの人口が占めるとの予測を示しました。また、開発モデルを外から押し付けても効果的ではないことが証明されているとし、外からの知識や技術をアフリカでの文脈に適応させることが極めて重要であること、そして、農業セクターからの労働者の流出が過度に進んでしまうと、都市部に負担を課すことになりかねないため、変化のペースのバランスをとることも重要だと述べました。

JICA緒方研究所の峯陽一研究所長

開発の成功には、外来の概念や技術をさまざまな文脈に適応させる必要があると強調したJICA緒方研究所の峯陽一研究所長

最後に、参加者からの質疑応答が行われ、「仮にトランプ氏が米国大統領に返り咲いた場合、気候変動やアフリカ開発に対する潜在的な影響にどう備えるべきか」「マダガスカルのような比較的地政学的に問題が少ないアフリカの国でも産業の発展に失敗しているが、どうすべきか?」といった質問があがりました。スティグリッツ教授は、それぞれ「米国の政策が国際目標から外れている場合、気候変動に関するルールを守るための国際協力が必要となる」、「政治と経済開発は不可分な関係にあるため、強固なガバナンスが重要である」と答えました。

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