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後発国が外来の経済発展モデルを効果的に学ぶ方法とは?書籍発刊セミナーで議論

2024.06.25

2024年4月22日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、新刊書籍『Introducing Foreign Models for Development: Japanese Experience and Cooperation in the Age of New Technology』の発刊セミナーを開催しました。

経済発展には外来の知識や技術を学ぶことは不可欠であり、その学習は現地の実情に合わせて行われる必要があります。本書は「翻訳的適応」を鍵概念とし、日本の産業開発と開発協力の経験を考察したものです。このセミナーは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)とデジタル化の時代がもたらす課題について考え、経済発展に向けた学習と知識共創に関する新たな視座を提示することを目指したものです。

自国に適した戦略策定のための「翻訳的適応」とは

JICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーは開会のあいさつで、「翻訳的適応」の観点から同書の重要な側面を取り上げました。1点目は、世界的な潮流の影響を色濃く受けながらも、現地社会ならではの状況に則しながら外来の知識と技術を意図的に選択し、調整する「翻訳的適応」の必要性を説いていることです。2点目は、グローバル化やデジタルトランスフォーメーション、包摂的かつ持続可能でレジリエントな開発といった産業開発を取り巻く状況の急速な変化を考慮に入れていることです。また、産業化に関する既存の研究に同書がもたらす新たな価値として、どうすれば各国が外来の知識・技術から学ぶ能力を高め、それらを現地の文脈に効果的に適応させられるのかという課題に取り組んでいること、日本の過去の開発経験や広範な開発協力の取り組みから得られた知見を提供していること、理論的な視座を具体的なケーススタディーと融合させていることを強調しました。

JICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー

政策を学び、社会が学ぶために開発協力が果たす役割

続いて、同書の編者を務めたJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学名誉教授)が書籍の概要を紹介し、鍵概念や分析枠組みを解説した上で、事例も取り上げました。「翻訳的適応」は筑波大学の前川啓治名誉教授の文化人類学理論に由来し、近代化プロセスにおける国内外のシステムのダイナミックな相互作用を説明する概念であること、また「翻訳的適応」と現地化された学習の3段階のプロセスを示して、これがどのように開発の文脈に適用され得るのかを論じました。開発途上国は外来の知識を継続的に吸収し、自国の事情に適応させる国内のメカニズムを構築することが極めて重要と指摘。さらに、明治時代の近代化や第二次世界大戦後の高度経済成長期といった過去の日本の学習経験を含む事例のほか、二国間政策対話や産業人材の育成など、日本の開発協力の事例も説明しました。ケーススタディーで示された研究成果もふまえ、開発途上国の政府が政策を学び、さらに社会が学んでいくためには官民連携が重要である点も強調しました。

JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

アフリカでのカイゼン普及に向けた日本の協力

次に、JICAが南アフリカ共和国で実施中の「品質・生産性向上(カイゼン、QPI)プロジェクト」の神公明チーフアドバイザーが発表。「アフリカ・カイゼン・イニシアチブ」を紹介し、アフリカ地域でのJICAのカイゼン促進への取り組みを概説し、近年カイゼンがどのように進化を遂げてきたか、また、アフリカでの民間セクターの発展についても、2000年代初めのアフリカ諸国で見られた経済発展を例に紹介しました。さらに、日本の開発協力の特徴である「実践を通じた学び(learning by doing)」の理念を詳しく取り上げつつ、品質・生産性の向上に向けて全国的な取り組みを成功させるには、国の関与、組織的な基盤、標準化が重要だと結論づけました。

JICA南アフリカ共和国QPI(カイゼン)プロジェクトの神公明チーフアドバイザー

続いて、エチオピアの認定主席カイゼンコンサルタントであるゲタフン・T・メコネン氏のビデオメッセージが上映されました。ゲタフン氏は、エチオピアが「試す(Testing)」「制度化する(Institutionalizing)」「実行する(Implementing)」「自らのものとする(Owning)」「持続させる(Sustaining)」の5段階からなる「TISSOモデル」に基づき、日本のカイゼンを自国に適応させたことを説明し、国際協力機関は開発協力プログラムを策定する際にパートナー国の状況を考慮すべきだと強調しました。

エチオピアの認定主席カイゼンコンサルタントであるゲタフン・T・メコネン氏

知識協力における新たな課題に立ち向かう

韓国開発研究院(Korea Development Institute: KDI)のソ・ジュンヘ名誉シニアフェローは、日本式の生産性向上の手法は、韓国を含めさまざまな文脈で適用されてきたと述べました。そしてエチオピアの取り組みを称賛し、開発途上国では民間企業の能力が低い場合もあり、国際協力機関のパートナーとして公的機関が果たす役割を強調しました。さらに、近年ではデジタルトランスフォーメーションと人工知能がもたらす新たな課題が生じていることから、市民団体や大学など、幅広いアクターを巻き込む必要があると指摘しました。

韓国開発研究院のソ・ジュンヘ名誉シニアフェロー

続いてドイツ開発・持続可能性研究所(German Institute of Development and Sustainability: IDOS)で国家間・トランスナショナル協力研究プログラムを主導するステファン・クリンゲビール氏(トリノ大学客員教授、梨花女子大学校客員教授)は、知識は産業開発の基盤だと指摘した上で、ルワンダによる南南協力が卓越している理由として、「暗黙知」の概念と関係づけながら、開発協力の実施アプローチに着目する意義に言及しました。また、知識協力の形成においてパートナー国間の力関係を考慮することの重要性を強調しました。

ドイツ開発・持続可能性研究所(German Institute of Development and Sustainability)のステファン・クリンゲビール氏

続いて、国際労働機関(ILO)「東南アジアの繁栄のためのスキル―マレーシア」プロジェクトの元チーフテクニカルアドバイザーの森純一氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションが行われ、同書の執筆者でもある本間徹JICA国際協力専門員(民間セクター開発担当)/アフリカ連合開発庁CEOシニア・アドバイザーと、JICA九州センター市民参加協力課の天津邦明課長がキックオフ・コメントを寄せました。

発刊セミナーの動画は、以下からご覧いただけます。

【開発戦略】 開発のための外来モデルの導入:翻訳的適応の視点と知識協力の国際的経験より 【JICA緒方研究所:セミナー】

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