先住民族と協働し持続可能な課題解決策を共創する:峯研究所長と野口研究員がGlobal Development Network(GDN)年次会合に参加
2023.12.28
JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、エクアドルで2023年10月31日~11月1日に開催されたGlobal Development Network(GDN)年次会合において、持続可能な課題解決に向けた開発の実務者と先住民の協働に関する分科会を主催し、オーストラリアとエチオピアのゲストスピーカーと議論を行いました。
会合2日目に開催された同分科会「Working with Indigenous and Local Community People for Co-creation of Solutions to Sustainability Challenges(先住民族と協働し持続可能な課題解決策を共創する)」では、JICA緒方研究所の峯陽一 研究所長がモデレーターを、野口扶美子 研究員が発表者とパネリストを務めました。
JICA緒方研究所主催セッション「先住民族と協働し持続可能な課題解決策を共創する」でモデレーターを務めた峯陽一研究所長
峯研究所長はまず、1950年代から1960年代にかけての日本の環境汚染(水俣病)と、1990年代の小規模な金の採掘によるアマゾン流域の水銀中毒について共有。このような背景からブラジルでのJICAによる技術協力プロジェクトが生まれ、日本の科学者が水銀汚染の正確な測定方法を提供し、日本とブラジル両国の人々の信頼関係を深めることができたと説明しました。
野口研究員は、「地域開発への在来知・地域知の統合」をテーマにしたプレゼンテーションを行い、2019~2020年にかけてオーストラリアで発生した大規模な山火事を例に挙げながら、気候変動による自然災害が生物多様性や人間の健康に大きな影響を与えるようになっていることを強調しました。
持続可能性の課題解決に向けて、先住民や地域の人々が持つ知を統合する必要性を強調したJICA緒方研究所の野口扶美子研究員
野口研究員は、エクアドルの先住民族、日本のアイヌ民族、オーストラリアの先住民族アボリジニとの協働から研究への示唆を受けたとし、これらの人々に謝意を表することから発表を始めました。
より頻繁に、より激しさが増している気候変動に起因する自然災害は、取り返しのつかない環境破壊をもたらし、地域社会における社会経済的、教育的、政治的、文化的格差を拡大させているとし、これは人の移動にも影響して地域の現状をより複雑にし、その発展と持続可能性に新たな課題を突きつけていると説明しました。
野口研究員は、気候変動を含む持続可能性の課題の多くは「やっかいな問題(Wicked Problems)」とも呼ばれる通り、問題の一面への解決策が、別の側面での新たな問題を生み出したり、既存の問題をさらに悪化させたりするという意図しない結果を招くこともあり、普遍的な一つの解を提供するような従来型の科学的手法は必ずしも有効ではないと指摘。地域に順応した解決策を導き出すことが有効であり、それには、専門家や先住民族、地域の人々などの多様なアクターが参加し、地域の自然や社会に関する在来知・地域知を、専門家の科学知と併せて検討し、地域開発に統合する包括的なプロセスが必要だと強調しました。
また、先住民族や地域の人々の地域開発への参加を考える際、認識論的課題と政治的課題があるとし、特に、近代的な科学知を持つ専門家と、在来知や地域の知の保有者との間には、知をめぐる認識論的な差異があると説明。科学知は、説明的、明示的、普遍的であるのに対し、在来知・地域知は、観察的、暗黙知的で地域の文脈に即しており、このような性質の違いは、前者を圧倒的に優位に立たせる一方で、後者の存在が見落とされたり、否定されたりすることさえあると述べました。
また、在来知や地域知が、近代的な科学知に比べ、「時代遅れ」や「課題解決との関連性がない」といった過小評価されるような力関係が発生することもあり、さらに、関係者間の対話や協働において使われる言語や議論の場の在りようが、対話や協働をさらに複雑にしてしまうと問題提起しました。例えば、標準語のように主流なものとして使われる言語は、往々にして、専門家が議論で使用するものと同一であり、その言語が使われることで、議論の流れや内容が、専門家の見解や理解に引き寄せられる環境を作り出してしまいます。また、ビルの会議室などのように、通常、議論が行われるような場所は、在来知や地域知をもつ人々を、彼ら・彼女らが属する場所である社会や土地、海といった環境とのつながりから切り離してしまうことにもなると警鐘を鳴らしました。
最後に野口研究員は、現在の自然災害の多くは人類にとって未曾有の規模や頻度であり、在来知や地域知の有効性が指摘されてはいても、こうした知識も現在の地域の状況に即して、見直し、再評価することが必要であると指摘しました。
このような課題を克服するために、野口研究員は専門家と先住民・地域コミュニティーとの公平で平等な協力関係を促進するための6つのステップを提案しました。①これまで当然としてきた知識や経験をいったん脇に置き、②異なる文化・社会的文脈に足を踏み入れ、③学び直し・学びほぐしをすること、④その中で、共に語ることのできる共通言語を見つけて共に議論し、⑤試験を行い、試行錯誤をすること、⑥こうしたプロセスを踏まえた上で、地域に順応した新しい知が何であるのかを共同で決定することです。さらに、このような異なる知を横断し、多様な知の保有者間の対話と協働を促進するコーディネーターの重要性も強調しました。
野口研究員の発表に続き、オーストラリアのファイヤースティックス・アライアンス共同設立者であるヴィクター・ステッファンセン氏と、オランダ・アントワープ大学博士課程に在籍するエチオピア人学生であるツィオン・アスファウ氏が登壇しました。ステッファンセン氏は、森林を健全に守るためには伝統的な知識が必要であると強調。オーストラリア先住民族が持つ、森と共に生きてきた知を統合しながら森林を再生していく取り組みを通じて、多様な背景をもつ住民間のつながりや、住民と地域の自然とのつながりが強化され、農業活動など経済的な機会が増え、生物多様性が回復している経験を共有しました。アスファウ氏は、野生生物の保護活動のあらゆる段階に先住民が参加しているエチオピアでの取り組みを紹介し、それがエチオピアで減少している大型肉食動物の増加につながっていると述べました。
最後に峯研究所長は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)と先住民の知識との関連性について触れ、「SDGsの実績は国という枠組みで議論されることが多いが、国単位で出される平均値は、地域のニュアンスを曖昧にしかねない。国のパフォーマンスは、地域がSDGsへの関与を強化することに成功して初めて向上する。そのためには、地域や先住民族の知を中心的なテーマとして活用し、開発の主流となる言説に統合する必要がある」と本セッションを締めくくりました。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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