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駒澤研究員が研究プロジェクト「ウガンダの若者の望まない妊娠に関する介入研究」による社会実装の成果を現地で調査

2024.10.29

若者の望まない妊娠を防ぐモバイルショップを活用したアプローチ

サブサハラアフリカ地域では、20歳以下の人口が全人口の約半数を占めます(国連人口統計、2022年)。これらの国々では、次世代を担う思春期の若者の望まない妊娠が増加し、その結果、周産期の健康異常や学業からのドロップアウトなどにより、生涯にわたる健康や幸福に悪影響がもたらされています。JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の駒澤牧子研究員 らは研究プロジェクト「ウガンダの若者の望まない妊娠に関する介入研究」 を現地のNGO「ブソガヘルスフォーラム」と連携して実施しています。

同研究プロジェクトでは、思春期の若者の高い妊娠率に直面している同国を対象に、地域の若者にとって身近な“モバイルマネーショップ(以下、ベンダー)”を介して、性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights: SRHR)についての情報とコンドームの提供、さらに必要なサービスを提供できる保健施設への紹介といったアプローチを通じて、未婚の10代の若者のSRHRに関する意識の向上と避妊実行率の上昇を目指しています。2024年2~3月にはベースライン調査を実施し、現在の若者のSRHRに関する知識、意識、行動を把握しました。その後、約4ヵ月の社会実装試験を実施し、その成果の確認とエンドライン調査の準備のため、駒澤研究員が2024年9月にウガンダを訪問しました。

性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights: SRHR)についての情報を若者に提供する女性ベンダー

保健サービスの提供に大きな役割を担うベンダーたち

社会実装試験の実施に協力した30のベンダーを集めたワークショップでは、成果や地域の変化などについて意見を収集しました。駒澤研究員は「次第に地域の人々にとっては、ベンダーたちが“モバイルショップの店員”という認識ではなくなり、彼らを“保健サービスを提供する人=ムサオ”と呼ぶようになった。それにより、ベンダーたちが自信と誇りをもってサービスを提供していたことが最も印象深かった。近隣の学校の教員もベンダーを訪れて説明を受け、教材を分けてもらって自分たちの学校でSRHR教育を始めるなど、その連鎖が広がっているという報告もあった」と振り返りました。

また、10代の若者のコンドーム利用率は確実に増え、地域の中で望まない妊娠が見られなくなったという報告もありました。実際、ベンダーたちが毎日記録したデータによると、4ヵ月で30ベンダーにおいて10代の若者顧客数は延べ約11万人、そのうちSRHR情報を得た人は延べ約4万人、コンドームの配布数は総計9万個に達しました(いずれも速報値)。ウガンダでは、無料で避妊サービスを受けられる公的保健施設の数が少なくアクセスが難しいことに加え、保健施設でSRHRを受ける際には詳細な問診やカウンセリングを経なければならず、未婚の10代には心理的ハードルが高く敬遠されがちです。駒澤研究員は、「自宅から徒歩圏内で顔見知りのベンダーからプライバシーを担保され、欲しい情報やコンドームを入手できるこのアプローチは若者たちに大好評だった。最初は難色を示していた親世代の住民も、最後には本サービスに感謝してくれるようになった」と述べています。

地域に根差したアプローチを広く展開へ

駒澤研究員は今回の成果について、ウガンダ保健省リプロダクティブ・子ども健康局のリチャード・ムガヒ局長に報告。ウガンダ保健省では「思春期の健康を県開発計画の中心に据えるためのガイドライン(仮称)」を策定中であることから、本研究プロジェクトのアプローチに大きな関心を寄せています。地域資源に着目し、民間セクターとともに展開するこの新しい試みは、同ガイドラインの理念に沿うものだからです。ウガンダ保健省とJICA緒方研究所の研究プロジェクトチームは、本アプローチを他地域にも拡大できるよう、引き続き緊密なコミュニケーションの下、実装研究を進めていくことになりました。

ウガンダ保健省リプロダクティブ・子ども健康局のリチャード・ムガヒ局長に介入の成果を報告した駒澤牧子研究員(右)

2024年9月から開始したエンドライン調査を若者に対して行う調査員(右)

駒澤研究員は、「本アプローチの有効性の量的検証については、2024年9月下旬に開始したエンドライン調査の結果を待つ必要があるが、手ごたえは十分。本アプローチをウガンダの他地域にも広く展開し、2030年までの持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の目標3(健康と福祉)、目標4(教育)、目標5(ジェンダー平等)の進展に貢献したい」と抱負を述べています。本研究プロジェクトの成果は、政策提言としてウガンダ政府に提出されるとともに、国際学会での発表、学術誌への投稿が予定されています。

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