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書籍発刊セミナー「国が運営する国際ボランティア事業:青年海外協力隊を事例として」開催

2025.01.09

2024年12月2日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成 」の最終成果である書籍『State-Managed International Voluntary Service: The Case of Japan Overseas Cooperation Volunteers 』の発刊セミナーを開催しました。

国際ボランティア事業の長所と短所に迫る

本書は、「国が運営する国際ボランティア事業(State-managed International Voluntary Services: SMIVS)」という概念を提示し、青年海外協力隊の受け入れ国と日本の双方に対する貢献を分析するとともに、国が運営する国際ボランティア事業の長所と短所について論じたものです。16人の著者による広い視点から、SMIVSの持つ意義と可能性を検討しています。

本セミナーでは、JICA緒方研究所の宮原千絵 副所長による開会あいさつに続き、同書の編者を務めたJICA緒方研究所の岡部恭宜 客員研究員(東北大学教授)が書籍の内容を紹介しました。まず、青年海外協力隊(Japan Overseas Cooperation Volunteers: JOCV)が“川下”と“川上”の両方に利益をもたらすという本書の一つの主張に触れ、川下の利益とはボランティアを受け入れる側の国・地域の開発、川上の利益とはボランティア自身の人間的・職業的成長、日本社会への貢献、国際友好・相互理解を指すとしました。さらに、国が運営する青年海外協力隊と、NGOによる国際ボランティア事業との比較にも言及しながら、各章の概要も紹介しました。

JICA緒方研究所の岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)が書籍の内容を紹介

JICA緒方研究所の岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)が書籍の内容を紹介

次に、東北大学の岡田彩教授が書評を述べました。JOCVが日本政府のプライオリティーに影響され得ること、JOCVが開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与だけでなく、異文化社会における相互理解の深化と共生といった複数の目的を併せ持つこと、また派遣されるボランティアの専門性が高くないという3つの特徴を挙げ、「それらはJOCVの弱さでもあるが、強さでもあることが本書から読み取れる」と評しました。その上で、国が運営する国際ボランティアの意義を問う本書には、国際協力論や開発学、市民社会論やキャリア教育など、幅広い学問分野への示唆が含まれるとし、潜在的な読者層の広さに期待を寄せました。

書評を述べた東北大学の岡田彩教授

書評を述べた東北大学の岡田彩教授

JOCVの意義をより広く発信へ

岡部客員研究員がモデレーターを務めたラウンドテーブルディスカッションでは、同書発刊の意義やターゲット、JOCVの特徴、研究の展望など、多様なトピックについて同書の執筆者と議論が行われました。

岡部客員研究員はまず「同書は英語で書かれたJOCVに関する初の書籍であり、日本人以外の読者がJOCVを知るきっかけとなるという点で意義深い」と述べ、岡田教授も「国が運営する国際ボランティアの全体像が掘り下げられている点は非常に価値が高い」と改めて評価しました。

国が運営するボランティア事業の正当性について論じた第10章を執筆したシドニー工科大学のアンソニー・フィー・シニアレクチャラーは、「川上と川下には緊張関係があるだろうが、国が運営するプログラムだからこそ、そのバランスがうまく取れるとする本書の主張は適切だ。ボランティアと現地のカウンターパートの間に真の互恵かつ平等な関係が築ける長期プログラムである点も意義深い」と述べました。

JICA在外事務所スタッフの役割についての第7章を執筆した武蔵野大学の山田浩司客員教授(元JICA職員)は、「国が運営する国際ボランティアの利点のひとつは、個々の隊員の専門性がそれほど高くなくても、さまざまな隊員が集まることで相互補完され、全体として包括的な専門性が生み出されること。例えば、障害者が利用する自助具のデザインを考えたとき、プロダクトデザイナーが一人でデザインした自助具は利用者のニーズに必ずしも合わなくても、作業療法士がデザインプロセスに加われば、より良い自助具が生まれる。このように協働はオープンイノベーションのチャンスを生む」と述べました。

元隊員に焦点を当て、帰国後10年を経てどのように日本社会に貢献しているかを分析した第5章を執筆した早稲田大学の大貫真友子講師(元JICA緒方研究所研究員)は、「JOCVは隊員の帰国後のネットワークづくりや国内の地域活動への支援が充実している。キャリアにつながる支援についても、ほかの国際ボランティア・プログラムより手厚い」とJOCVを評価しました。

左上から時計回り:東北大学の岡田彩教授、武蔵野大学の山田浩司客員教授、早稲田大学の大貫真友子講師、JICA緒方研究所の岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)、シドニー工科大学のアンソニー・フィー・シニアレクチャラー

左上から時計回り:東北大学の岡田彩教授、武蔵野大学の山田浩司客員教授、早稲田大学の大貫真友子講師、JICA緒方研究所の岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)、シドニー工科大学のアンソニー・フィー・シニアレクチャラー

最後に、JICA青年海外協力隊事務局の橘秀治事務局長が「2025年はJICA海外協力隊発足から60周年。この事業の価値を今後も発信していきたい」と閉会のあいさつを述べ、セミナーを締めくくりました。

YouTube

このセミナーの動画は以下からご覧いただけます。

国が運営する国際ボランティア事業:青年海外協力隊を事例として

国が運営する国際ボランティア事業:青年海外協力隊を事例として

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