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プロジェクト・ヒストリー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ—途上国支援の新たな可能性「一村一品プロジェクト」』出版記念セミナー開催

2025.04.10

2025年3月7日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ—途上国支援の新たな可能性「一村一品プロジェクト」 』出版記念セミナーを開催しました。

現地の人々が自力で稼ぐ持続可能なビジネスを目指して

開会のあいさつでJICA経済開発部の下川貴生部長は、「JICAは2007年から日本発祥の地域振興運動『一村一品運動(One Village One Product:OVOP)』アプローチを用いてキルギスで地域振興に携わり、同国はいまやOVOPアプローチでリードする存在。この取り組みは民間セクターとの共創によるグッドプラクティスでもある」と述べました。

写真:開会のあいさつを述べたJICA経済開発部の下川貴生部長

開会のあいさつを述べたJICA経済開発部の下川貴生部長

次に同書の著者である原口明久JICA専門家がキルギスでの取り組みを紹介しました。「商品を作り、それを販売し続けられるように支援する、つまり“商品を地域開発の中心に置く”という考え方は、開発協力の中で意外と抜け落ちている」と指摘し、マーケットにない新しい商品を生み出す、失われた伝統的な文化をよみがえらせる、藍染など伝統文化と日本の技術を融合させるといった商品開発の工夫を説明しました。また、生産者グループと国内外の企業をつなぐ役割も持つ「OVOP+1」という団体を立ち上げたことも挙げ、ドナーがいなくなっても現地の人々自身でビジネスを続けられる仕組みづくりが重要だと強調しました。

写真:キルギスでの取り組みを紹介した同書の著者の原口明久JICA専門家

キルギスでの取り組みを紹介した同書の著者の原口明久JICA専門家

強みを見つけ、開発とビジネスをつなげていく

続いて、JICA経済開発部民間セクター開発グループの奥本恵世課長がモデレーターを務め、パネルディスカッションが行われました。

写真:JICA経済開発部民間セクター開発グループの奥本恵世課長(右端)がモデレーターを務めたパネルディスカッション

JICA経済開発部民間セクター開発グループの奥本恵世課長(右端)がモデレーターを務めたパネルディスカッション

無印良品ブランドのキルギス産フェルト製品の生産・販売に携わってきた株式会社良品計画の久保田裕子ハウスウエアー担当カテゴリーマネジャーは、「これまで世界各地の良いものをお客様に届けたいと商品づくりをしてきたが、残念ながら継続できなかったケースも多かった。慈善事業ではなくビジネスとして成り立つよう、品質を安定させ、また欲しいと思ってもらえる商品でなくてはいけない。その意味では、キルギスのOVOP製品は品質管理が現場できちんと行われており、また原材料から生産まで全てキルギスというオリジナリティーもあることがビジネスの継続性につながっている」と述べました。

写真:株式会社良品計画の久保田裕子ハウスウエアー担当カテゴリーマネジャー

株式会社良品計画の久保田裕子ハウスウエアー担当カテゴリーマネジャー

現在では、キルギスを代表する湖イシククリ湖にちなんで「イシククリブルー」と呼ばれるまでに藍染が広がった同国ですが、短期専門家として染色技術向上に取り組んだ四国大学の有内則子准教授は当初を振り返り、「藍染と言っても、そもそも日本の藍(タデ科)とキルギスの藍(アブラナ科)は全く異なる植物。いつ刈り取って染料化すればいいかも分からなかった」とコメント。より濃く染める、色落ちを防ぐ、年間を通して安定して染料を確保できる、という目標に向け、「日本人でも理解しにくい染色の技術を伝えながら、分からないからこそ何でもやってみよう!と、前向きに取り組むことができた」と経験を共有しました。

写真:染色技術向上に取り組んだ四国大学の有内則子准教

染色技術向上に取り組んだ四国大学の有内則子准教

JICA経済開発部の上田隆文国際協力専門員(民間セクター開発)はキルギスでのOVOPプロジェクトの特徴として、「第一に、開発の世界では“魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ”と言われるが、同プロジェクトでは魚の釣り方を一緒に考えたり、釣った魚を買って代わりに売ったりと、JICAがこれまでの枠組みを超えてビジネスにも関わってきたこと、第二に、格差社会を逆手にとってキルギス国内の中間層や富裕層も販売ターゲットにしてきたこと、第三に、『Made in Kyrgyzstan』の商品がキルギス政府や国民にも受け入れられ、彼らが自分の国に誇りを持てるようになったこと」と述べ、こうした取り組みの他地域への展開にも言及しました。

写真:JICA経済開発部の上田隆文国際協力専門員(民間セクター開発)

JICA経済開発部の上田隆文国際協力専門員(民間セクター開発)

原口専門家は、「キルギス人は遊牧民ゆえに個人主義の人が多く、一生懸命粘って話をして人間関係を築くことが難しい。OVOP+1のリーダーを任せた現地の若者も、村人や省庁とのやりとりでうまくいかず、泣いていたこともあった。それを乗り越えてこられたのは、この仕事の意義を信じてくれたから。ポテンシャルはまだまだある。開発とビジネスをつなぎながら、現地の人も儲かる、日本人も儲かる、そんな取り組みを続けていきたい」と締めくくりました。

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このセミナーの様子は、以下からご覧になれます。

動画:プロジェクト・ヒストリー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ―途上国支援の新たな可能性「一村一品プロジェクト」』出版記念セミナー

プロジェクト・ヒストリー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ―途上国支援の新たな可能性「一村一品プロジェクト」』出版記念セミナー

当日のプログラムなどは以下からご覧ください。

また、このプロジェクト・ヒストリー書籍について、著者である原口専門家が紹介するインタビュー動画も、あわせてご覧ください。

動画:JICA「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ 著者インタビュー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ』原口明久氏 【前編】

JICA「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ 著者インタビュー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ』原口明久氏 【前編】

動画:JICA「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ 著者インタビュー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ』原口明久氏 【後編】

JICA「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ 著者インタビュー『品質を追求しキルギスのブランドを世界へ』原口明久氏 【後編】

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