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プロジェクト・ヒストリー『みんなでつなぐ子どもの未来―アフリカ「みんなの学校プロジェクト」の進化と広がり』出版記念セミナー開催

2026.07.01

2026年5月29日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリーシリーズ最新刊『みんなでつなぐ子どもの未来―アフリカ「みんなの学校プロジェクト」の進化と広がり 』の出版記念セミナーを開催しました。同書では、2004年にニジェールで始まり、地域の人々、保護者、教員が協働して学校運営や教育改善に取り組む「みんなの学校プロジェクト」がアフリカ各国に展開していった歩みが綴られています。

写真:実務や研究の立場から「みんなの学校」の取り組みについて議論

実務や研究の立場から「みんなの学校」の取り組みについて議論

進化し続ける「みんなの学校」プロジェクト

開会のあいさつに立ったJICA緒方研究所の亀井温子 副所長は、かつて自身が「みんなの学校」プロジェクト担当としてニジェールを訪れた経験を振り返り、「本当に何もない厳しい環境なのに、親たちが学校と子どもの未来について熱く語っている姿があった。『みんなの学校』は教育協力であると同時に、社会運動のように感じた」と述べ、「住民の熱意がどのように引き出され、子どもたちの学びに変化をもたらしたのか、議論を楽しみにしている」と期待を寄せました。

続いて、本書の著者の一人であり、「みんなの学校」プロジェクト総括アドバイザーを務める原雅裕氏が本書の概要を紹介。“子どもによりよい学びを与えたい”という地域住民、保護者、教員の想いを協働による改善活動に転換する、つまり“自分たちで課題を考えて、自分たちでそれを解決していく”仕組みをつくりだしたことが「みんなの学校」の大きな特徴だと述べました。学校運営委員を選挙で決めるなどして「信頼」を築き、会計を公開するなどして「透明性」を確保し、住民総会で学校の課題などを把握するなどして「情報共有」を行うことで、コミュニティーとの協働が機能すると説明。それにより学校運営委員会が活発になり、教育改善活動が広がっていった「みんなの学校」プロジェクトは、現在ではアフリカ11ヵ国7万5,000校に展開していること、そして近年では、“10歳までに簡単な文章を読んで理解できない”といったアフリカの深刻な「学習の危機」を解消するため、TaRL(Teaching at Right Level)と呼ばれる補習活動やコミュニティーとの協働を組み合わせた持続的な学力改善モデルの展開を進めていることにも言及しました。

写真:開会のあいさつを行ったJICA緒方研究所の亀井温子副所長

開会のあいさつを行ったJICA緒方研究所の亀井温子副所長

写真:「みんなの学校」プロジェクト総括アドバイザーである原雅裕氏が書籍を紹介

「みんなの学校」プロジェクト総括アドバイザーである原雅裕氏が書籍を紹介

教育改善のためになぜ「みんな」が必要なのか

本書の著者の一人でもあるJICA人間開発部の國枝信宏国際協力専門員がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、なぜ学校側だけではなく保護者や地域住民といった“みんな”をつなぐ必要があるのか、そしてその努力の前に立ちはだかる壁や乗り越え方などについて議論を進めました。

原氏は、ニジェールに赴任した際、地域住民や保護者に強い教育改善の意欲があったことを振り返り、これを砂漠の下に眠る地下水に例え、目に見えなくてもニーズやキャパシティーは確かにあり、それを掘って外に引き出すためにあるのが「みんなの学校」だと言及。初期には認知されないことが大きな壁だったとし、当初23校だったプロジェクト対象校を2年間で2,800校に拡大して成果を見えやすくし、さらに国際的な認知を得られるようインパクト評価を導入することで他ドナーの理解も獲得したことを説明しました。

国際基督教大学の西村幹子教授(教育研究所所長)は、アフリカでは歴史的に地域や教会、伝統行事といった多様な場に学びが存在してきたことから「学校=学びではない」とし、「学習者本人や保護者、コミュニティーの人々自身が相互に関わり合いながら学んでいく環境づくりが重要」だと語りました。また協働を阻む壁として、教員の職業的専門性と住民の経験値の対立、学校的な“知”と生活的な“知”の対立、情報公開と政治的な思惑の対立など、コミュニティー内部にもさまざまな分断やバイアスがあることを挙げた上で、信頼を築き、共同体の意識を持ち、責任を共有することが壁を克服する鍵になると述べました。

豊橋市立牟呂中学校の稲田恒久校長は、英語で他教科を学ぶイマージョン教育コースの立ち上げに参加した経験を紹介。当初は地域住民の不安が高まったものの、地域の人々を学校に呼ぶなどした情報公開、登下校の見守りなどといった地域の人々の参加、外部有識者による授業実践支援などを積み重ね、次第に地域の信頼を獲得したと述べ、「地域の協力なくして教育課題は解決できない」と強調しました。また、JICA教師海外研修でパプアニューギニアを視察した経験も共有し、「机もないまま授業をしている小学校がある一方、すぐ近くには豪華な高校があって衝撃を受けた。それを現地の大人がおかしいと思っていない。そういった大人のビジョンの欠如が大きな壁になる」と指摘。学校の取り組みや課題を地域に積極的に発信し、大人たちの共通理解を育てる重要性を訴えました。

本書の著者の一人であるJICA緒方研究所の丸山隆央 主任研究員(JICA人間開発部基礎教育第一チーム課長)は、研究から得たエビデンスとJICA事業の現場の両面に携わってきた経験から、低中所得国で子どもの就学を阻む要因として、貧困、家から学校までの距離、家庭環境などを挙げ、保護者や地域住民の行動を変えるためには、教育に関する情報だけではなく具体的な方策を提示することが必要だと述べました。その例として、住民集会を通じて学校と住民の間で学習危機への共通認識を形成し、関係者が共同で補習活動を行ったことで短期間に学力改善を実現したマダガスカルでの取り組みも紹介しました。また、エビデンスがあっても政策に結びつきにくいことから、政策策定に向けてアクターへの効果的な働きかけの重要性を強調したほか、学校とコミュニティーの協働が生まれるメカニズムを明らかにしていくという抱負も述べました。

写真:モデレーターを務めたJICA人間開発部の國枝信宏国際協力専門員

モデレーターを務めたJICA人間開発部の國枝信宏国際協力専門員

写真:国際基督教大学の西村幹子教授

国際基督教大学の西村幹子教授

写真:豊橋市立牟呂中学校の稲田恒久校長

豊橋市立牟呂中学校の稲田恒久校長

写真:JICA緒方研究所の丸山隆央主任研究員

JICA緒方研究所の丸山隆央主任研究員

質疑応答を経て閉会のあいさつに立ったJICA人間開発部の森下拓道部長は、「みんなの学校プロジェクト」の特徴を、①教育改善の仕組み化、②プロジェクト関係者の柔軟性、③コミュニティーの潜在能力を発揮させる発展可能性とまとめ、「『みんなの学校』プロジェクトは、目の前の子どもたちも、10年20年先の子どもたちの課題も解決し得る」と述べてセミナーを締めくくりました。

写真:閉会のあいさつに立ったJICA人間開発部の森下拓道部長

閉会のあいさつに立ったJICA人間開発部の森下拓道部長

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