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『今日の人間の安全保障』第3号発刊記念シンポジウム「人間の安全保障をはかる」開催

2026.07.09

2026年5月20日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のフラグシップ・レポート『今日の人間の安全保障』第3号 の発行を記念して、JICA緒方研究所と東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム(Graduate Program on Human Security: HSP)による共催シンポジウム「人間の安全保障をはかる―データを集める、くらべる、考える」 が東京大学駒場キャンパスで開催されました。

写真:登壇者たちがさまざまな視点から人間の安全保障を「はかる」ことについて議論

登壇者たちがさまざまな視点から人間の安全保障を「はかる」ことについて議論

人間の安全保障を「はかる」とは?

開会あいさつにおいて、東京大学大学院総合文化研究科HSP運営委員長の遠藤貢教授は、「衛星画像、SNS、モバイルデータなど、かつてないほど多様なデータにアクセスできる時代になり、AIなどにより社会をはかる能力は飛躍している一方、分断や暴力、不平等や排除が深まる今、人間社会をデータによってはかることが人間の尊厳や安全とどのように結びつくのか、あるいは結びつき得ないのか、本日の議論を通して深く考えたい」と期待を寄せました。

続いてあいさつに立った外務省国際協力局の大場雄一審議官は、「地球規模課題が複雑に絡み合い、重層的な危機にある現在の国際社会において、人間の安全保障の重要性はますます高まっている」と述べ、日本政府が人間の安全保障を日本の開発協力に通底する理念として、また持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)達成のための重要なアプローチとして位置付けていることを強調しました。

写真:東京大学大学院総合文化研究科HSP運営委員長の遠藤貢教授

東京大学大学院総合文化研究科HSP運営委員長の遠藤貢教授

写真:外務省国際協力局の大場雄一審議官

外務省国際協力局の大場雄一審議官

写真:JICA緒方貞子平和開発研究所の亀井温子副所長

JICA緒方貞子平和開発研究所の亀井温子副所長

次に趣旨説明を行ったJICA緒方研究所の亀井温子 副所長は、「私たちが本レポートでとりあげている『はかる』とは、単なる数値化ではなく、人間の安全保障の理論に照らして、客観的事実および個人の不安や希望などの人々の主観的な側面も含めて現状を『推しはかる』こと」だと説明。3号の概要に加え、各国の人間の安全保障の状況を可視化するためにJICA緒方研究所が開発中のツール「人間の安全保障ダッシュボード」も紹介しました。

デジタル技術の活用とともに「はかる」意味の再認識を

続いて『今日の人間の安全保障』第3号に招待論文を寄稿した2人の研究者が講演を行いました。

東京大学大学院総合文化研究科の阪本拓人教授は、デジタル手法を活用した人間の安全保障の測定に向けて、AIや大規模言語モデルを活用してさまざまなデータを取り込み、人間の安全を脅かす多様なリスク事象をリアルタイムでマッピングして可視化するシステムを紹介。阪本教授は「人間の安全保障を測定するために利用できるさまざまなオープンデータはあるが、個々の人間の状況を把握するには集約的すぎるものが多い。反対に収集データの粒度を上げようとすると手間と金銭的なコストが膨大になる」と指摘しました。その上で、東京大学デジタルオブザーバトリ研究推進機構によるグローバルサプライチェーンに対するリスク事象の把握・予測システムの手法を紹介しつつ、デジタルデータやAIなどを効果的に活用し、人間の安全保障の概念に沿った細やかでタイムリーな計測を実現していきたいと語りました。

続いて、一橋大学の後藤玲子名誉教授は、ケイパビリティ(潜在能力)の観点から、測ることの意味について論じました。アマルティア・セン氏の「ケイパビリティ・アプローチ」を紹介しつつ、日本の地方自治体で行なった高齢者・要介護・障害者を対象として行った「外出在宅ケイパビリティパネル調査」を例に、「外出したいと思わない」という答えが実は個人の自由や尊厳なども測る重要な指標になり得ることを説明。そして「個人の選択の自由は測定可能か?それを指標とすることの利点は何か?人を一つのカテゴリーに当てはめて測ることで区別や序列化、差別と能力主義をもたらさないか?」と投げかけ、測れなくても測るべきことをいかにして測るか、また測れても測ってはならないことは何か考える必要があると問題提起しました。

写真:東京大学大学院総合文化研究科の阪本拓人教授

東京大学大学院総合文化研究科の阪本拓人教授

写真:一橋大学の後藤玲子名誉教授

一橋大学の後藤玲子名誉教授

はかる上での難しさをどう乗り越えるか

JICA緒方研究所の峯陽一 研究所長がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、はかることによる可視化の弊害など、多様なテーマで議論が行われました。東京大学の佐藤仁教授は「誰が測定を必要としているのか、測定結果を用いるのは誰か、を問う必要がある。また、これまで測ったことによる結果がどうだったかを歴史的にも検証する必要があるのではないか」と指摘。ウズベキスタンやザンビアをフィールドに、開発、貧困、環境問題について研究する東京大学の樋渡雅人教授は、「AIやニュースデータの活用は有用だが、統計だけでは見えない“現場の声”を政策にどのように取り込むかが重要。はかることで複雑な現実を単純化してしまうリスクもあり、あくまでも見えにくい被害や制約を明らかにして政策や支援を改善するためにはかるべき」と述べました。災害や被災者の尊厳について研究する静岡文化芸術大学の内尾太一准教授は、能登半島地震の被災地のGoogleマップ上に投稿されたレビューの分析を紹介しつつ、フィールドワークやそれを拡張した取り組みのような人類学的なアプローチとデジタル技術を組み合わせることで研究を進展させられる可能性を示唆しました。

写真:JICA緒方研究所の峯陽一研究所長

JICA緒方研究所の峯陽一研究所長

写真:東京大学の佐藤仁教授

東京大学の佐藤仁教授

写真:東京大学の樋渡雅人教授

東京大学の樋渡雅人教授

写真:静岡文化芸術大学の内尾太一准教授

静岡文化芸術大学の内尾太一准教授

質疑応答では、東京大学大学院の金賀恩氏と杉本智美氏が「測定の対象や範囲を誰がどのように設定すべきか」「あいまいさを持つ人間の安全保障を政策的、実践的にどう使いやすくしていくか」といった質問を投げかけたほか、参加者からの質問に対しても活発な議論が続きました。

写真:閉会のあいさつを行ったJICAの田中明彦理事長

閉会のあいさつを行ったJICAの田中明彦理事長

最後にJICAの田中明彦理事長が閉会のあいさつに立ち、SDGsの達成度をより実情に合わせて示す上でも、また、日本の開発協力がどう役立っているかを示す上でも、適切に「はかる」作業は重要だと指摘し、「はかることについて今回のように議論することが一層の理解につながる」と述べてシンポジウムを締めくくりました。

このシンポジウムの動画は以下からご覧になれます。

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【セミナー】人間の安全保障をはかる――データを集める、くらべる、考える(『今日の人間の安全保障』第3号発刊記念シンポジウム)

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