No.16 Measuring Interregional Fund Flows in a Dollarized Economy: Evidence from Branch-level Data of Deposits and Loans in Cambodia

  • #ディスカッション・ペーパー

多くの途上国の銀行セクターにおいて、部分的なドル化(Partial Dollarization)は一般的な現象として見られる。しかし、銀行セクターを通じてドル化がどのように国内に広がるのかに関する実証的なエビデンスは少ない。また、銀行セクターは通常、複数の銀行がもつ支店ネットワークが重なり複雑に構成されているため、銀行セクター内での資金移動を分析するには詳細なデータが必要となる。本論文では、複数の通貨が金融システム内で共存するカンボジアを対象に、銀行支店レベルの預金と融資データを用いて、銀行支店ネットワーク内での地域間資金移動を実証的に明らかにした。本論文では、地域間の資金移動を定量化するために、開発途上国の銀行セクターの実態に合わせ、植杉他(2023)によって提案された計量分析手法を発展させた。そして、その手法を用いて、カンボジアにおける通貨別の地域間資金移動のパターンを記述し、銀行を通じて資金がどのように流れているのか、さらに通貨別の資金移動のパターンが2013年から2017年にかけてどのように変化したか分析する。分析の結果、地方では融資の大きい割合が、プノンペンでの預金から集められた余剰資金や、ホールセール借入あるいは親会社からの資金で調達されていることが明らかになった。そして、この結果は米ドルとクメール・リエルの両方で見られた。ただし、クメール・リエルにおいては、預金額は年々増加しているにも関わらず、米ドルと比較して余剰資金の再配分が積極的に行われていないことが観察された。さらに、一部の地域間では、クメール・リエルの資金移動と米ドルの資金移動が逆向きであることも観察された。これは、通貨間の融資需要や預金需要に地域間での差異があることを意味する。これらの結果は、部分的なドル化経済においては通貨固有の資金移動のトレンドを分析する必要性、さらに現地通貨を促進するうえでは金融機関の余剰資金の再配分の効率性を改善していく必要性があることを示唆するものである。

キーワード:ドル化、バンキング、金融仲介、効率的な信用の資源配分

著者
相場 大樹、 You Vithyea
発行年月
2024年1月
言語
英語
ページ
34
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #経済政策
研究領域
経済成長と貧困削減
研究プロジェクト