No.13 最も脆弱な気候変動避難民 ― インドにおける現況と教育的観点からの考察
JICA緒方研究所について
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世界の各地で、気候変動により自然災害による影響が拡大、強大化している。2022年、気象に関連した自然災害により避難を余儀なくされた気候変動避難民と呼ばれる人びとが、世界に3184万人いると推計されている(IDMC 2023)。しかしこの数字には、急激な変化を伴う自然災害で政府等による公式ルートを通じて国内避難をする人びとのみが含まれ、関連の国際枠組みにおいて定義も確立されていないために認知されず、公的支援から取りこぼされている人びとが含まれていない。例えば、①季節労働者の形態をとって避難する人、②避難をせずに、同じ地域にとどまる人びと(Trapped population取り残された)人びと、③国際的な越境避難民といった「気候変動避難民の最も脆弱な層」とも呼べる人びとがそうである。
これらの人びとの現況を把握するため、2020-2021年、自然災害の頻度が増え、規模や被災地域が拡大し、世界でも有数の高気候リスク国の一つであるインドにおいて、初期的な調査を実施した。調査の結果、気候変動起因の自然災害が、上記①~③の人びとがもともと抱える経済・社会・文化・教育面など多岐にわたる問題をさらに悪化させ、季節労働者の形態をとって移住をする人(主に男性の家長や年長の男子)、地域に残される人びと(主に家長の妻や高齢者、幼い子どもなど)の双方がより困難な状況へと陥っている様子がうかがえた。移住先での文化・民族背景の違いによる差別や無理解、孤立、インフォーマルセクターでの経済的な搾取、災害に伴う頻繁な転居による居住環境の不安定さが、家族に精神的なダメージを与え、弱い立場にいる子どもの生活や教育ニーズが後回しとなり、人身売買や教育機会の喪失につながる悪循環があった。「気候変動避難民のさらなる脆弱層」の子どもの教育課題と地域課題は不可分であり、これらの人びとや支援者のエンパワメントにつながる、生涯教育を含む地域への包括的な教育機会とそれを支える支援策が必要であると推測される。
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