大洋州の気候変動と人の移動の実態とは?野口研究員がツバルとフィジーで調査
2025.07.01
2025年4~5月にかけて、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の野口扶美子 研究員が、研究プロジェクト「気候変動避難民の『最も脆弱な層』の現況と持続可能な地域開発への参加とエンパワメントに関する研究 」の一環として、ツバルとフィジーで現地調査を行いました。
飛行機から見たツバルの首都フナフチがあるフォンガファレ島。環礁国であり、低地の細長い地形は、海岸浸食や高波の影響を受けやすい
人口が増加し続ける首都フナフチは、深刻なごみ問題も抱え、海や土壌への影響も大きい
オーストラリアなどによる気候変動適応のための国際協力政策の一環で、ツバルなどの大洋州の開発途上国から先進国に移住する人びとがいます。同研究プロジェクトでは、そうした移住する人びとと、祖国に残された・残る人びとやその地域社会の現況と課題について、エンパワメントの観点から分析しています。その分析結果をもとに、日本の国際協力に求められる支援の在り方を考察することを目的としています。
特に、ツバルの人びとは、伝統的な知恵を生かして、海や土地と密接に結びつく生活の中に文化的アイデンティティーの基盤があります。彼らにとって、先進国への移住はどのような経済的・社会的・精神的なインパクトがあるのかという点に着目し、移住先である先進国側と、送り出す開発途上国側の両方で調査を行います。今回の現地調査は、ツバルとフィジーという開発途上国側での調査にあたります。「移住する」「移住しない」という選択をめぐり、ツバルの人びとがどのような思いを持っているのか、また、移住者を送り出すことによって地域の構成員が変化するため、それが伝統的な知恵に根差した地域を持続していく上でどのような影響があり得るのかに関する調査を行いました。
フナフチ環礁のフナファラ島で、伝統的なマットを作る女性。離島の過疎化と都市の近代化により、このような技術を持つ人は非常に少なくなっている
インタビューに応えてくれた高校生。フィジーの大学で看護学を勉強して、ツバルの病院で働きたいと語る
今回、野口研究員は、フィジーおよびツバル両国で、インタビュー、フォーカスグループディスカッション、参与観察を組み合わせた質的調査を行いました。一般市民52人を対象にしたインタビューでは、①気候変動による影響や経験、②先進国への移住に関する希望や見解、③地域社会や自然環境とのかかわりや思い、④ツバルの社会・自然環境と今の暮らしのつながりについての質問を行いました。また、国連機関、政府、NGOなどの専門家9人へのインタビューでは、気候変動および移民関連政策の内容、移住政策の成果や課題についての専門的な見解のほか、個人として他国への移住をどう受け止めているのかについて質問しました。
フィジーのスバ市では、ツバル人コミュニティーを訪問し、地域在住のツバル系移民とフォーカスグループディスカッションを行いました。また、フィジー、ツバル両国で、地域や教会のイベントへの参加やNGOの気候適応活動の視察を行い、一般市民の地域活動への参加の様子や、伝統知の地域づくりへの活用の状況を観察しました。
フィジーのツバル人コミュニティーで、地域の女性9人が参加したフォーカスグループディスカッションを行う野口研究員(左奥)。ここでは、2、3世代目のツバル人も暮らし、今もツバルの言葉や文化、価値観が大事にされている
野口研究員は現地調査を振り返り、「先行研究からは十分な情報を得にくい移住政策に関する国内外のツバルの人びとの反応について、ある程度の傾向をつかむことができた。海と大地を中心とした自然環境、地域社会、文化が、複雑につながりあい、ツバル人の価値観やアイデンティティーを形成していることが深く理解できた。『気候変動』が移住の直接の理由にはあがってこなかったものの、話を深掘りしていくと、気候変動に関連する災害や影響について、全ての回答者が何らかの経験や不安を持っていたことが分かった。年代や家庭内での立場により、『ツバルに住み続けたいが、子どもの教育や医療などを考えると移住したい』、『移住したくない』、『教育のために移住はしたいが、将来的にはツバルに戻りたい』など、移住に対する考え方に違いがあることが分かった」と述べました。また、ツバルに残される人びとについて、「インタビューで島を離れる人を見送る気持ちを質問した際には、つらすぎて答えられない若い世代の人たちがいた。空港で見送りに来る人の中には、涙を流す人も多く見かけた。ツバルの人たちの、容易に切ることのできない地域の自然や人への強いつながり、残される人たちの言葉にならない複雑な思いを感じた」と続けました。
今回の調査の結果を踏まえ、今後は、先進国側でのツバル移民の現況調査を行い、祖国やツバルへの思い、移住先での課題、地域参画への伝統的な知恵の利活用の状況についての質問を行い、ツバルで実施した調査結果とあわせて、気候移民政策の下でのエンパワメントという観点での成果と課題、気候変動の適応策という観点から見た効果と課題を精査し、求められる支援策の検討につなげる予定です。
この研究プロジェクトでは、ナレッジ・レポートNo.13 最も脆弱な気候変動避難民 ― インドにおける現況と教育的観点からの考察 を発刊しています。自然災害の頻度が増え、規模や被災地域が拡大し、世界でも有数の高気候リスク国の一つであるインドでの調査結果として、気候変動起因の自然災害が、最も脆弱な層の人びとがもともと抱えている経済・社会・文化・教育面などの多岐にわたる問題をさらに悪化させ、季節労働者の形態をとって移住をする人と、地域に残される人びとの双方がより困難な状況へと陥っている現状を指摘しています。こちらもあわせてご覧ください。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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