適応的平和構築と国連システム―シリア紛争とイエメン紛争を事例に
JICA緒方研究所について
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国連総会と安全保障理事会は、紛争の発生、拡大、継続、再発を防止する国際連合の能力を強化し、紛争の根本原因と再発防止に取り組むため、2016年4月27日に「持続的な平和アジェンダ」を採択しました。本論文は適応的平和構築アプローチを分析枠組みとして、暴力的紛争が長期化しているシリアとイエメンの事例を検証し、「持続的な平和アジェンダ」の達成に適応的平和構築のアプローチが貢献し得ることを明らかにしました。
本論文で使用した適応的平和構築の概念は、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:適応的平和構築とは何か」の成果物としてSpringer社より2023年に出版された書籍『Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century』(De Coning他編)において検証したものです。同書籍では、外部の専門家がトップダウンで主導する従来の平和構築手法(例えば自由主義的平和理論)を批判的に検証し、文脈に即したボトムアップの平和構築のアプローチの有用性を説いています。
本論文では、紛争が長期化しているシリアとイエメンでの国連の活動を分析しました。シリアでは国連事務総長特使が「市民社会支援室」を設置し、支配勢力にかかわらずシリア人による和平プロセスへの貢献といった成果が生まれました。また、紛争後の復興に向け、シリア人が主導する活動も確認されています。イエメンでは、同じく国連事務総長特使が国連常駐調整官事務所と国連開発計画と共に、具体的な目標を設定しない平和支援事業を立ち上げ、紛争当事者を巻き込んだ和平プロセスに貢献しています。いずれの事例も、いまだに紛争は続いているものの、「自由主義的平和理論」が通用しない国々において、国連システムによる持続的平和アジェンダの達成に向けた適応的平和構築の実践の試みと捉えることができ、今後の国連の平和構築のアプローチに影響を与える可能性があると言えます。
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