『アフリカを緑に―ケニアと日本の森づくり40年の軌跡 半乾燥地での社会林業プロジェクト』
JICA緒方研究所について
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森林は、アフリカの多くの人々の暮らしを支える重要な基盤の一つです。薪や炭は日々のエネルギーとなり、果樹や薬用植物は食料や健康を支え、木材は住居や生活の糧となります。そして干ばつや災害などの危機に直面した際には、人々を支える最後のセーフティーネットとしての役割も果たしています。しかし1970年代以降のアフリカでは、人口増加や農地開発、薪炭材の過剰利用などにより森林減少が進み、砂漠化や土地劣化が深刻な問題となりました。こうした状況を受け、日本は1985年、日本にとってアフリカ初となる「緑の国際協力」をケニアで開始します。
ところが、ケニアは決して植林に適した国ではありませんでした。国土の大部分は乾燥・半乾燥地で占められ、雨は限られた時期にしか降りません。長い乾季の間には大地がひび割れ、植えた苗木が枯れてしまうことも珍しくありませんでした。乾燥した草は踏むだけで砕け、粉になる――。初代チーフアドバイザーの渡辺桂氏が驚きをもって記したように、日本とはまったく異なる自然環境が広がっていたのです。そうした厳しい自然条件の中で、日本とケニアは単なる植林事業ではなく、「社会林業」という新たな挑戦に取り組みます。
社会林業とは、地域住民が主体となって森林を育て、守り、管理し、活用していく仕組みを築く考え方です。農家や村長、女性グループ、教師、行政官、研究者など、多様な人々が森づくりの担い手となりました。さらに、住民参加型の学習手法であるファーマー・フィールド・スクール(Farmer Filed School: FFS)が導入され、参加者は自ら観察し、議論し、実践しながら植林技術などを学びました。森づくりは環境保全だけでなく、生計向上や地域づくりにもつながる取り組みへと発展していったのです。
一方で、乾燥地に適した樹木を育てる技術開発も進められました。その象徴が、ケニア原産の郷土樹種「メリア」です。成長が早く乾燥に強い一方で、発芽や育苗が難しく、改良や普及には長い年月が必要でした。それでもケニア森林研究所(Kenya Forestry Research Institute: KEFRI)と日本の研究者たちは採種園や試験林の整備を重ね、優良品種の育種と種苗供給体制の確立に取り組みました。その成果は、現在の気候変動対策や持続可能な森林経営にも生かされています。
こうした40年にわたる協力は、単なる技術協力ではありませんでした。そこには人材育成があり、組織や政策づくりがあり、国境を越えた信頼関係がありました。日本人専門家とケニア人研究者は、ときに文化や価値観の違いに向き合いながらも、共に学び、共に悩み、共に未来を描いてきました。その結果、KEFRIはケニア国内のみならず、同じ課題を抱えるアフリカ諸国へ知見を発信する研究機関へと成長していきます。近年では、この協力は森林保全の枠を超え、気候変動への適応・緩和策や地域協力へと発展しています。この協力を通じて培われた経験はアフリカ各国へ共有され、ケニアは東アフリカにおける森林・気候変動分野の重要な拠点となりつつあります。2029年には、森林研究分野で世界最大級の学術大会である国際森林研究機関連合(International Union of Forest Research Organizations: IUFRO)世界大会がアフリカで初めてケニアで開催される予定であり、その歩みは新たな段階を迎えています。
「木を植えることは、平和と希望の種をまくことです」
アフリカの女性として初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏のこの言葉は、本書全体を貫くメッセージでもあります。森を育てることは、木を植えることだけではありません。それは人を育て、地域を育て、未来への希望を育む営みです。
本書は、日本とケニアが40年にわたり共に歩んできた森林・林業協力の軌跡をたどりながら、社会林業から気候変動対策、さらにはアフリカ全体へと広がる「緑の国際協力」の可能性を描きます。乾燥した大地から始まった挑戦が、どのように人を結び、森を育み、未来を育ててきたのか。本書は、その壮大な物語へと読者をいざないます。