実施中プロジェクト
近年、世界各地で民主主義の後退や分断の深刻化が指摘され、国家の制度に対する信頼や統治の正統性をいかに支えるかが、国際社会における喫緊の課題となっています。同時に、制度整備や公共サービスの改善が、必ずしも社会の包摂性や安定化に直結しないという矛盾も、「開発のパラドックス」として指摘されています。
そこで本研究では、第一に、人々が制度や社会との関わりを通じて感じる、信頼、帰属、安心、承認といった主観的な感覚を、「尊厳」の意識として着目します。そして第二に、人々の生活や社会を形づくるルール、仕組み、慣行としての制度の受容に、その「尊厳」の意識が深く関係している点に着目します。ここでの制度には、政府や行政によって機能する近代的な制度に加え、伝統的権威、慣習的な意思決定、宗教的規範、地域固有の協働関係など、人々の日常的な行動や関係性に影響を与える伝統的な実践も含まれます。
本研究では、これら両制度が併存するインドネシア、ウガンダ、タンザニア、フィリピンを事例国とし、近代的制度と伝統的ガバナンスの組み合わせ(制度補完性)が、人々の尊厳意識や制度への信頼にどう影響するのかを明らかにします。具体的には、制度の担い手の語り、地域住民による制度の受容や信頼にかかるアンケート、そして各国の政治的・社会的制度の3つの視点から比較分析を行い、両制度の補完性を類型化します。さらに、多様な制度の差異や共通点、またそれらの組み合わせが、社会の包摂性や人々の尊厳意識に影響を与える因果経路を明らかにし、どのような条件のもとで、人々の尊厳の意識が形成されるのかを理論的に整理します。
これにより、人々がより尊厳を実感できる、包摂的なガバナンスの在り方について考えるための新たな視点を提示することを目指します。