パプアニューギニア 東ハイランド州で農業の力を育てるVol.1
2025.12.11
~課題の発掘と整理 ― 集落のシステムを知ることから始まった私の活動 ~
APO(やあ:東ハイランド州方言)。 パプアニューギニア・東ハイランド州ゴロカの州農畜産局(DAL)に、野菜栽培分野の隊員として派遣されている JOCV 2024年1次隊・原 大 です。
これまでの活動をJICA PNG事務所内で共有したところ、他地域の隊員や、今後協力隊を目指す方にも参考になる内容との助言をいただきました。本シリーズでは、現場での調査・技術支援・関係者との協働のプロセスを、全5回にわたり整理してお伝えします。
ゴロカショー(毎年9月開催)
全国の部族が伝統衣装で踊りや歌を披露する、
PNG文化を代表する一大イベントです。
着任後にまず取り組んだこと
着任後最初の業務は、所属長およびカウンターパートに対し、支援可能な技術分野・専門領域を明確に説明することでした。農業分野は多様な技術を組み合わせる必要があるため、派遣前研修で準備した資料が、初期の意思疎通に大きく貢献しました。
この共有を経て、最初の主要活動として、「地域農家が直面する課題を、現場の情報に基づいて把握する」ことを重点目標に設定しました。
農家リーダーとの聞き取り調査
ゴロカ各地区には、地域農業の要となる 農家リーダー が存在します。彼らは作物栽培、収穫、販売、市場動向、治安・生活環境など、地域の多様な情報を最もよく把握しています。
DAL職員とともに各リーダーの農地を巡回し、以下の内容を中心に、現場での課題を丁寧にヒアリングしました。
・栽培上の課題・成功事例
・経営上の悩み(労力、資材、収入)
・集落運営・治安維持の実態
聞き取りの中では、軽食を共にしながら意見交換する場面もあり、農業技術にとどまらない広い視点で情報を得ることができました。
ゴロカ郊外の聞き取り調査
浮かび上がった主な課題
調査の結果、以下の課題が明確となりました。
・主要作物(いも類・果菜類・葉菜類)の収量が伸び悩んでいる
・果菜類では品質のばらつき・廃棄量の増加が見られる
・同一作物の連作による土壌病害の発生リスクが高まっている
・労働力確保や作業調整を農家リーダーが担っている
特に、農家リーダーが 地域の治安維持にも大きな役割を果たしている点 は印象的でした。共同作業を通じて住民に収入機会を提供し、地域としての安定に寄与する姿が確認されました。
労働力確保や作業調整を農家リーダーが担っている実態
特に印象的だったのは、農家リーダーが農業だけでなく 集落の治安維持にも深く関わっている点 です。農作業や出荷作業を共同で行い、報酬や収穫物を分け合うことで、地域の所得向上と安定に寄与している姿が見られました。
データを「見える化」する取り組み
ゴロカの農家は経験と観察力に優れていますが、数値に基づく課題整理の文化はまだ十分に浸透していません。 そこで、農家リーダーと協力し、以下のデータを記録・簡易可視化しました。
・作物ごとの収量
・経費(資材・労働)
・販売額
データを可視化することで、
・なぜ品質が安定しないのか
・どの作業に労力を投じるべきか
・どの資材が収益改善に寄与するか
といった分析が可能となり、農家自身が経営改善の方向性を見出しやすくなりました。これは、地域全体への技術普及の促進にもつながっています。
Vol.1
まとめ
本稿で紹介した 「課題の発掘と整理」 は、今後の
・緑肥導入
・技術実証試験
・採種技術改善
などの取り組みの基盤となる、重要なステップです。DAL職員、農家リーダーと連携しながら、地域の農業改善に向けた具体的な支援を今後も継続していきます。
次回予告
Vol.2「緑肥導入までのプロセス ― PNGの土地に合う方法を探してー」
●関連リンク
・”医療を届ける”その道のりの中で
・より良い工事をめざして:「KAIZEN PROJECT」活動日記vol.3
・パプアニューギニアの美しい森林を残すために
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