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パプアニューギニア 東ハイランド州で農業の力を育てるVol.2 ~緑肥導入に至るプロセス~

#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2025.12.23

APO(やあ:東ハイランド州方言)。 パプアニューギニア・東ハイランド州ゴロカの州農畜産局(DAL)に、野菜栽培分野の隊員として派遣されている JOCV 2024年1次隊・原 大 です。

これまでの活動をJICA PNG事務所内で共有したところ、他地域の隊員や、今後協力隊を目指す方にも参考になる内容との助言をいただきました。本シリーズでは、現場での調査・技術支援・関係者との協働のプロセスを、全5回にわたり整理してお伝えします。

1 .農家調査から見えた“ コストゼロ農業” の実態
ゴロカ周辺の農家リーダーに聞き取り調査を行ったところ、野菜生産において病害虫防除や施肥にほとんど費用をかけていない実態が分かりました。日本の農家でも新たなコストを嫌う傾向はありますが、PNGではその傾向がさらに強く、コスト増を伴う技術の導入には慎重であることが読み取れました。

表1 農家経営調査:主要作目における病害虫防除・施肥の支出状況。調査した複数農家の支出額を比較したもので、農薬・肥料ともほとんど支出がないことが分かる。

2 .土壌調査の結果:「窒素不足」を確認
現状をより客観的に把握するため、地元農科大学の学生と協力し、6つの集落で土壌採取と化学分析を実施しました。その結果、
・酸度(pH)はほとんど問題なし
・窒素量は不足気味
であることが明らかになりました。地域農業の安定化には、土壌中の窒素をどのように補うかが重要な課題です。

3 .堆肥利用の難しさと文化的背景
土壌改良の一般的手法として堆肥利用も検討しましたが、踏査により以下の課題が判明しました。
・家畜頭数が少なく、堆肥原料が確保できない
・人糞利用には強い抵抗感があり、衛生面でも現実的ではない
・畜産副産物の入手も困難
これらの条件から、堆肥による土づくりは現状では普及しにくいと判断しました。

4 .文献調査から見えてきた“ 緑肥” という選択肢
海外の農業文献を調べる中で、緑肥(Green Manure)がゴロカの課題解決に適していることがわかってきました。緑肥には、
・土づくりの促進
・土壌中への窒素供給
・病害虫の発生軽減
などの効果が期待できます。
また、熱帯地帯の標高1500mで栽培可能な文献例もあり、以下の3品種が候補に挙がりました。
・クリムソンクローバー
・クロタラリア
・カラシナ

5 .DAL スタッフとの協議:まず「検証」から始める
DAL(農業畜産局)スタッフと議論を進めた結果、いきなり普及するのではなく、自分たちで小規模試験を行い効果を確かめるという方針で一致しました。そこでまず試験ほ場を設置し、生育状況や効果を確認する段階的なアプローチを採用しました。

6 .国内入手が困難な3 品種 ― 輸入へ向けた調整
候補となった3品種は PNG国内ではほとんど流通していないため、日本からの正式輸入を検討しました。輸入に向けて必要な確認事項は多岐にわたり、
・NAQIA(植物検疫当局)との条件調整
・日本の植物防疫所による証明取得
・種子の消毒要否
・外来種リスク評価
・発芽率の確認
などを一つずつクリアしていきました。

7 .輸入決定と、8 月の緑肥種子到着
必要な条件をすべて満たしたことで、DAL内部で緑肥3品種の輸入が正式に決定しました。手続きは順調に進み、8月には3品種の緑肥種子がゴロカに無事到着しました。これにより、ゴロカ地域における新たな土づくりの取り組みが、ついに大きな一歩を踏み出しました。

8 .今後の展望(Vol.3 へ)
今回の輸入によって、ゴロカ地域で初めて緑肥の本格的な技術検証が可能となりました。今後は、試験ほ場の整備、播種、生育観察、効果測定を順次実施していきます。次号(Vol.3)では、
・試験ほ場の準備
・播種の様子
・スタッフや農家の反応
など、現地での取り組みが本格的に動き始めた様子を紹介する予定です。

過去の記事
Vol.0「東ハイランド州で農業の力を育てる 」
Vol.1 「東ハイランド州で農業の力を育てる」

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