JICA緒方研究所

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日本の援助規範の独自性について議論-フクダ-パー・サキコ特別招聘研究員ら

2017年1月31日

発表するフクダ-パーJICA研究所特別招聘研究員
発表するフクダ-パーJICA研究所特別招聘研究員

インドや中国といった新興国が援助活動を活発化させ、開発援助は大競争時代に入ったとされています。これまでは経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)に加盟する西側諸国が援助規範を主導してきましたが、新興国は異なる規範を掲げて援助を実施しています。DACの規範とも新興国の規範とも異なる日本の援助規範とは何なのか、JICA研究所は2017年1月17日、JICA市ヶ谷ビルで、「国際共同研究成果発表セミナー:日本の援助の特質は何か? 国際比較から見た日本の援助規範-フクダ-パー教授を迎えて」を開催しました。

JICA研究所は2015年7月以降、日本の援助理念の特徴と、それがどのように変化してきたかをテーマに、米国ニュースクールのフクダ-パー・サキコ教授を特別招聘研究員に迎えて、共同研究を実施しました。今回のセミナーでは、フクダ-パー教授と、共同研究を進めてきたJICA研究所の志賀裕朗主任研究員、コメンテーターとして下村恭民法政大学名誉教授が登壇、共同研究の成果をまとめたワーキングペーパー『Normative Framing of Development Cooperation: Japanese Bilateral Aid between the DAC and Southern Donors』(2016年6月発表)の内容を踏まえ、援助関係者や研究者が議論しました。

JICA研究所の北野尚宏所長は開会あいさつで、「新興国が援助国として台頭し、西側諸国の援助規範が支配的ではなくなりつつある。この重要な岐路に立って、DACとも新興国の規範とも異なる日本の援助規範について議論することは、有益かつ時宜にかなっている」と述べ、セミナーでの議論に期待しました。

コメントする下村法政大学名誉教授
コメントする下村法政大学名誉教授

フクダ-パー教授はまず、「これまでは、規範の役割や、規範によって形成される援助国と被援助国の関係はあまり注目されてこなかった。しかし、この研究では、規範は援助国と被援助国の関係を規定したり開発政策の優先順位を形作る重要なものだと捉えている」と述べました。文化人類学者のマルセル・モースの贈与論を踏まえ、「DACの規範では援助を“慈善”と捉えているため、“与える者”と“受けとる者”というヒエラルキーや力関係が固定されてしまい、オーナーシップの面で途上国側からは好まれていない場合もある」としました。また、DACの援助規範では、貧困削減やガバナンスに重きが置かれ、経済成長の促進という視点は強調されていない。一方、南南協力の規範では経済成長を最優先課題としてインフラ構築に焦点を置き、援助国と被援助国はお互いの利益のための対等なパートナーとして位置付けられていると説明しました。

続いて、志賀主任研究員が日本の援助規範の歴史を振り返り、規範として強調されてきたのは“経済協力”だとして、「1950年代から今に至るまで日本の援助は“慈善”ではなく、対等な者同士が同じ目標に向かう共同作業としての “協力”を意味してきた」と述べました。そのうえで志賀主任研究員は、経済協力という日本の援助規範は戦後復興の一環として、日本がアジアの一員であり、平和国家であることをアジア諸国に対して示すために始まったとし、被援助国の政策を尊重し、自立を促進することが、日本にとってもマーケットの拡大につながるため、両者にとって利益になったと分析しました。そして、「こうした日本の援助規範は、DACの規範とも南南協力の規範とも共通点が多く、その結果、どちらの枠組みとも完全には一致しない特別なものになっている」と紹介しました。

志賀主任研究員の発表を受けて、フクダ-パー教授は、「DAC規範の限界が明らかになるなか、日本はこれまでの援助の経験を生かし、規範の受け手ではなく、新しい援助規範を作り出す立場になっていくのではないか」とつけ加えました。

参加者と議論する志賀主任研究員(左)
参加者と議論する志賀主任研究員(左)

下村名誉教授は発表の趣旨に同意し、トーマス・クーンのパラダイム理論では、パラダイム変革の第一歩は、支配的な理論では説明できない「重要な例外」が、解明されるべき対象であるという認識が広まることから始まる、とされているとして、「日本の援助モデルは、支配的な“慈善モデル”に対する重要な例外で、国際協力の新たなパラダイムへの道を開きうる」と述べました。

会場での質疑応答では、日本が今後、民主的ガバナンスのような普遍的価値の促進についてどのように貢献していくべきか、といった幅広い質問や意見が出され、フクダ-パー教授はこの研究が経済協力の観点から見た援助規範の歴史的な分析に重きを置いたものと強調しつつ、「民主主義的価値の促進も含め、持続可能な開発目標(SDGs)が今後の日本の援助の主要な課題になるだろう」と述べました。

最後に萱島信子JICA研究所副所長が閉会の挨拶を述べ、「新興国ドナーの登場により規範が変わりつつある重要な転換点に来ており、日本の立場も変革期にある」と締めくくりました。

関連動画

Seminar on the Normative Framework of Japan’s ODA by Sakiko Fukuda-Parr
(YouTube:JICA研究所 公式チャンネル)

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