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『人間開発報告書2016』刊行記念シンポジウムをUNDPと共催—「すべての人のための人間開発」実現に向けて議論

2017年6月5日

シンポジウムの様子

JICA研究所は国連開発計画(UNDP)との共催で、『人間開発報告書2016—すべての人のための人間開発』刊行記念シンポジウムを2017年5月18日にJICA市ヶ谷ビルで開催しました。同報告書へは、JICA研究所のゴメズ・オスカル研究員、武藤亜子主任研究員、後藤幸子研究員(当時)が人間の安全保障の観点から見た人間開発について共著した論説文を提供しています。

まず、近藤哲生UNDP駐日代表が開会のあいさつを述べ、基調講演を行うセリム・ジャハンUNDP人間開発報告書室長と、パネリストのロバート・ワトキンス バングラデシュ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表、人間開発報告書諮問委員の勝間靖早稲田大学教授、NGOハンガー・フリー・ワールドの米良彰子海外事業マネージャー、ゴメズ・オスカルJICA研究所研究員を紹介しました。

ジャハン室長は基調講演で「すべての人々に等しく価値がある」という普遍主義が人間開発の中核であると強調し、報告書の5つの基本メッセージに関連して次のように述べました。第一に、この四半世紀で人間開発の多くの側面で著しい前進があったものの、まだ取り残されている人々がいること、第二に、法律や社会的規範などによりいまだに女性や先住民といった特定の集団が差別・排除されていること、第三に、人間開発の「量」だけではなく「質」も含め、データを活用した新しい分析や評価の視点が求められること、第四に、人間開発に重要な役割を果たすのは国の政策であること、それを補完する国際的なシステムの改革が必要なこと、第五に、人間開発の枠組みと『持続可能な開発のための2030アジェンダ』は相互に補完関係にあることです。

基調講演を行うセリム・ジャハンUNDP人間開発報告書室長

続いて武藤亜子JICA研究所主任研究員がモデレーターとなり、各パネリストによる発表の後、パネルディスカッションを行いました。

ワトキンスUNDPバングラデシュ常駐代表は、目覚ましい経済成長を遂げてきたバングラデシュを例に挙げ、開発から取り残された地域であるチッタゴン丘陵地帯の少数民族にはその恩恵が平等にもたらされていないことを紹介しました。

勝間早稲田大学教授は、健康・保健分野での持続可能な開発目標(SDGs)の達成のためのグローバル・へルス・ガバナンスについて発表。2014年に起きたエボラ出血熱の感染拡大から得られる教訓として、緊急時の保健システム強化に関する資金調達の確保や国際機関間の調整といった課題に取り組むべきだと提案しました。

米良氏はNGOの視点から、社会不安、若者の失業、安全な水へのアクセスがないといった課題については報告書で詳しく触れていないと指摘。そういった世界が直面している課題解決も含め、すべての人の人間開発を実現するためには、取り残された人々の草の根でのエンパワメントと、政府とNGOの役割を明確にしていくことが必要だと提言しました。

最後に、「人間の安全保障」の観点からゴメズ研究員がコメントしました。人間開発は危機的状況の大小に左右されることなく、報道さえされない「取り残された人々」にも対応する必要があること、また、脅威に備える予防の文化を広める重要性を提言しました。さらに自身の研究成果をふまえ、危機管理における“現地の人々を中心に置く”オーナーシップこそ、『持続可能な開発のための2030アジェンダ』実現のカギとなると述べました。

JICA研究所のゴメズ・オスカル研究員

質疑応答では、取り残されている人々を特定するための方法論、報告書に記載されている人間開発指数(HDI)ランキング、HDIでは把握されていない複数の脆弱性を持つ人々について、普遍主義のより明確な定義、アフリカの国々での感染症対策への技術的な格差についてなど、会場から多様なコメントと質問があがりました。

最後に、萱島信子JICA研究所副所長が閉会のあいさつを行い、反グローバリズムと普遍主義という二つの異なる流れがある今日の世界で、シンポジウムで「すべての人のための人間開発」の実現に向けて多様な議論ができたことに価値があると述べ、私たちに何ができるのかを今後も熟考することが大事だと締めくくりました。


<外部リンク>

関連動画

【動画】"2016 Human Development Report - Human Development for Everyone" by Selim Jahan (May 18, 2017)(JICA研究所公式チャンネル)

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