JICA緒方研究所

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アジアの都市大気環境改善の方策に関する研究 バンコク首都圏におけるPM2.5計測結果についてのワークショップをタイで開催

2018年2月13日

JICA研究所は、2018年1月25日、アジア工科大学院(Asian Institute of Technology : AIT)、一般財団法人 日本環境衛生センター アジア大気汚染研究センター(Asia Center for Air Pollution Research : ACAP)と、バンコク首都圏におけるPM2.5計測結果についてのワークショップをタイで共催しました。このワークショップは、JICA研究所、AIT、ACAPによる2014年からの共同研究プロジェクト「アジアの都市大気環境改善の方策に関する研究」の最終報告書の公表と同時に開催されたもので、公害規制局や運輸省をはじめとするタイ政府や大学、国際機関などから約40人が参加しました。

知見を共有する重要性を強調したJICA研究所の北野所長(左)とAITの山本副学長

開会のあいさつでJICA研究所の北野尚宏所長は、大気汚染問題に対する世界的な関心の高まりに触れるとともに、持続可能な開発目標(SDGs)では大気汚染の改善に関連した目標がゴール3(すべての人に健康と福祉を)やゴール11(住み続けられるまちづくりを)に掲げられていることや、この研究プロジェクトがバンコク首都圏におけるPM2.5の測定に加え、日本、韓国、メキシコなどの各国におけるPM2.5問題と政策に関する事例研究の2テーマから構成されていることを紹介しました。そして、「本ワークショップでは研究成果に基づく知見と政策的含意を広く共有し、会場の参加者とも活発な議論となることを期待する」と述べました。

また、AITの山本和夫副学長も、JICA研究所、ACAPとの共同研究の意義に触れ、「グローバルな問題である大気汚染の制御と管理が各国で求められており、本ワークショップのように情報や知見を共有しながら、根拠に基づく政策立案が必要」と述べました。

共同研究プロジェクトの成果について発表した成田招聘研究員

続いて、JICA研究所の成田大樹招聘研究員(東京大学准教授)が研究プロジェクトの概要を説明。大気汚染は健康被害のほか、労働時間の減少といった社会経済的損失とも関連しており、また、世界の中でもタイでは大気汚染による社会への負の経済的インパクト(welfare losses)と死亡率の増加が懸念されると指摘。大気汚染物質のうち、多様な発生源によるPM2.5などの微小粒子状物質により着目すべきであり、社会を持続可能な形に変えていく重要性を強調しました。また、同研究プロジェクトの主な成果として、バンコク首都圏ではPM2.5濃度がタイの規制基準や世界保健機関(WHO)指針の基準の許容年平均値を超えており、車両の排気ガスやバイオマスの燃焼がPM2.5の発生に大きく寄与していることなどを発表しました。

さらに成田招聘研究員は、大気汚染改善の政策指標としてエネルギー強度(単位GDPあたりのエネルギー消費量)を例に挙げ、「2002~2004年と2012~2014年のエネルギー効率を比較すると多くの国で改善が見られる一方、タイでは悪化の傾向にあることから、基礎的な環境政策や規制強化が必要」と述べました。そして、2つの「I」、すなわちエネルギー効率性の改善に向けて個人のライフスタイルや産業構造などをシフトさせるための「Incentive(インセンティブ)」の付与と、技術やインフラの革新などによる「Innovations(イノベーション)」を提案しました。

その後、3つのセッションが行われ、AITのNguyen Thi Kim Oanh(グエン・ティ・キム・オアン)教授は、バンコク首都圏におけるPM濃度とその組成物について発表し、必ずしも都心部のPM濃度が郊外部に比べて高くないなど、今回の観測で得られた新たな知見を示しました。ACAPの佐藤啓市上席研究員はイオン性および炭素質の大気沈着物成分の特徴について、AITのDidin Agustian Permadi(ディディン・アグスティアン・プルマディ)研究スペシャリストは化学輸送モデルを用いたPM2.5のシミュレーションについて発表しました。各セッションでは、国立環境研究所の秋元肇客員研究員(ACAP前所長)が専門的な見地からコメントしました。

参加者からは分析データやサンプリングに関する詳細な質問が多数上がり、研究プロジェクトへの関心の高さが伺えました。

報告書のダウンロードはこちら(PDF)

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