人道危機対応をテーマに大阪大学と京都大学でのセミナーで発表—武藤主任研究員ら

2018.12.19

JICA研究所の研究プロジェクト「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」の成果として、書籍『Crisis Management Beyond the Humanitarian-Development Nexus』が2018年10月に発刊され、これを機に同年11月26、27日に、大阪大学と京都大学でセミナーが開催されました。

本書は、さまざまな援助機関による人道危機対応における「人道支援と開発の連続的実施」の歴史と手法を整理し、武力紛争として東ティモール紛争、(南)スーダン紛争、シリア危機を、自然災害としてホンジュラスのハリケーンミッチ、スマトラ沖大地震およびインド洋津波、フィリピンの台風ヨランダを事例研究として取り上げ、その実践と課題を浮き彫りにしています。

まず26日には、大阪大学で公開セミナー「人道危機対応における開発援助機関の役割」が開催され、JICA研究所の武藤亜子主任研究員、川口智恵研究員、立命館アジア太平洋大学のゴメズ・オスカル助教(元JICA研究所研究員)が登壇しました。

武藤主任研究員は「開発援助機関による人道危機への取り組み:シリア危機の事例から」と題して発表。シリア危機による難民への対応を迫られるヨルダン、トルコ、レバノンの難民キャンプやホストコミュニティーの生活環境改善に向け、青年海外協力隊の派遣、インフラの改善、人材育成といったJICAの支援について報告しました。また、2016年5月に日本政府が表明した中東支援策の一つ「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム」の中で、将来のシリアの復興を担う人材育成のため、ヨルダンやレバノンに難民として逃れているシリア人の若者を対象に、2021年までに最大100人の留学生を日本に受け入れる予定であることも紹介しました。

さらに、川口研究員は「開発援助機関の紛争を起因とした人道危機へ取り組み—南スーダンの事例から」、ゴメズ助教は「開発援助機関の自然災害を起因とした人道危機へ取り組み」をテーマにそれぞれ発表しました。

大阪大学でのセミナーで発表したJICA研究所の武藤亜子主任研究員

翌27日には、京都大学で第9回思修館・卓越セミナー「人道危機対応における『切れ目のない支援』〜紛争と自然災害の比較研究〜」が開催され、川口研究員が「紛争起因の人道危機における人道と開発のネクサス—連続的実施の検討」、ゴメズ助教が「自然災害起因の人道危機における人道と開発のネクサス—連続的実施の検討」と題してそれぞれ発表しました。

川口研究員は、南スーダンの事例から見える平和構築のアプローチの在り方について報告。同国では1983年から内戦が続き、人道危機と各国の援助機関による支援の経過を概観すると、救援、復旧・復興、予防などの支援が継続的に必要とされるノン・リニア(non-linear)の人道危機であるにもかかわらず、例えば政治的動機に基づいた米国の国際開発庁(USAID)、人道的支援に根差したEUの欧州委員会人道援助・市民保護総局(European Civil Protection and Humanitarian Aid Operations: ECHO)、中立的な立場から開発を中心とした支援を推進する日本のJICAでは支援のアプローチが異なり、被援助国のニーズに基づく支援になりにくいことを説明しました。川口研究員は結論として、「“新しい”平和構築のためには、それぞれの援助機関が政治的な力学を管理し、被援助国の中央政府よりもむしろ現地の人々を中心に据え、柔軟な援助を実施していくことへの変化が必要」と強調しました。

京都大学のセミナーで発表したJICA研究所の川口智恵研究員(左)と立命館アジア太平洋大学のゴメズ・オスカル助教

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