T20の政策提言、最終段階へ—Global Solutions Summitに大野研究所長、萱島主席研究員らが参加

2019.04.11

2019 年3 月18、19 日の2日間にわたり、Global Solutions Summit(GSS)がベルリンで開催されました。GSSとは、ドイツのGlobal Solutions Initiative(GSI)が主催する年次会合で、多様な視点から世界の諸問題に焦点を当てて議論を行い、Think20(T20)がG20に対して行う政策提言に反映させることを目的として開催されているものです。

今回のGSSには120カ国から約1,600人が参加。開会式でGSI のスノワー代表が、経済が急速にグローバル化する一方で、政治社会は民族や宗教で分断を深めており、この政治社会と経済の分離(decoupling)が危機の原因だと主張。人々を協力へと誘う道義的言説(moral narrative)と既存パラダイムの変更が必要だとして、「Paradigm Change to Recouple the World」を会合のテーマとすることを宣言しました。2019年5月の「T20 Japan 2019」に向けては、10の政策分野についてタスクフォースが立ち上げられており、議長国である日本が主導して作成したポリシーブリーフ(以下、PB)案が約60の各セッションで発表され、各国の有識者からコメントを受ける機会となりました。

JICA研究所はタスクフォース1「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」とタスクフォース5「アフリカとの協力」の共同議長を務めており、今回のGSSではこのうちのタスクフォース1で取り上げるトピックである「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」、「持続可能な開発を促進する教育」、「女性の経済的エンパワメント」、「持続的開発の達成における民間セクターの役割」の4セッションを主催しました。

「UHC」セッションでは、まずJICA研究所のフクダ-パー・サキコ特別招聘研究員(米ニュースクール大学教授)が、G20諸国の保健課題への政策一貫性、医薬品アクセスにおける人権の視点の重要性、医療費増加対応と格差解消のための公的セクターからの財政確保の必要性を問題提起しました。それに続き、T20のUHCワーキンググループの議長およびメンバーであるルン香港大学医学部長、および勝間靖早稲田大学教授がPB の概要を発表し、製薬業界やビル&メリンダ・ゲイツ財団で民間セクターを主導してきたタチ・ヤマダ氏を交えパネルディスカッションを実施。自由市場経済の発想に基づく民間製薬企業の医薬品開発と途上国での疾病課題とのギャップ、医薬品の知財保護に伴う医薬品価格の高止まりと医薬品へのアクセスの問題、技術開発における費用対効果の視点、移民労働者の健康課題・保護、OECD開発援助委員会(DAC)非加盟国の国際協力の透明性の促進などの、G20 が優先すべきUHCに向けた取り組みが議論されました。

「UHC」セッションの様子(中央がフクダ-パー・サキコ特別招聘研究員)

「持続可能な開発を促進する教育」セッションでは萱島信子主席研究員が、JICA 研究所で作成中のPB の提言を発表。イッシンガー前OECD局長は、ミレニアム開発目標(MDGs)が教育の「量」に着目したのに対して、SDGsは「質」に着目したと指摘しました。このほか、社会情動性スキルといじめ・引きこもりなどとの関連、教育とジェンダー問題の関連性、就学前教育、学校教育評価制度などが議論されました。

「女性の経済的エンパワメント」セッションでは、CIPPEC(平等のための公共政策実施センター)のランゴウ氏がPB の概要を発表。金融サービスへのアクセスから排除された5 億人の女性を包摂する必要性、無報酬労働の可視化などで女性の貢献や能力を正確に評価する必要性などが議論されました。

「持続的開発の達成における民間セクターの役割」セッションでは、大野泉研究所長がJICA 研究所と内外の研究者が共同で作成中のPB の概要を発表し、企業行動をSDGs 達成に動機づける方策に関する提言を説明しました。

「持続可能な開発を促進する教育」セッションの様子(左から3番目が萱島信子主席研究員)

総括全体セッションの様子(左端が大野泉研究所長)

最終日の総括全体セッションでは、大野研究所長が、欧米ではパラダイム・シフトが議論されるが、アジア側には欧米とは異なる価値観や企業と社会の調和のあり方に関する伝統があり、パラダイム・シフトの必要はないのではないかと問題提起。これを契機に、司会者が「日本的な企業のあり方は諸問題の解決策になるだろうか?」と問いかけ、活発な議論が展開されました。

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