「人道危機、その時、人道と開発の連携を超えた支援をどう行うか。—武力紛争と自然災害の事例比較から見えてきたこと—」を議論—シンポジウム開催

2019.06.20

2019年6月4日、シンポジウム「人道危機、その時、人道と開発の連携を超えた支援をどう行うか。—武力紛争と自然災害の事例比較から見えてきたこと—」が、JICA市ヶ谷ビルで開催されました。

シンポジウムでは、JICA研究所の研究プロジェクト「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」の成果である書籍『Crisis Management Beyond the Humanitarian-Development Nexus』(2018年10月刊行)の内容を踏まえ、本書の著者ら6人のパネリストと、人道支援と開発支援の連携について考えました。

冒頭のあいさつで、JICA研究所の武藤亜子主任研究員は「近年、自然災害や武力紛争など、さまざまな人道危機が各地で大規模な人的被害をもたらしている」と述べ、こうした危機に対して、緊急支援から開発支援までの「連続的実施(continuum)」の必要性を今回のシンポジウムのキーワードとして紹介しました。

基調講演では、本書の著者の一人であり、立教大学教授でNPO法人難民を助ける会理事長の長有紀枝氏が登壇。「連続的実施」は1991年の国連総会決議46/182以降、30年近く模索が続いていると説明し、「人がどう生きるべきかというような根源的な問いかけにも似て、一朝一夕では解決しない」と言及。その上で、援助側が課題解決を強烈に意識し、計画や政策を立案することが重要であるとし、「本書はその試みの最たるもので、たとえ解決に至らずとも、普遍的ともいえる重要課題に正面から取り組んだ研究成果」とその意義を強調しました。

続いて、本書の編著者の一人であり、立命館アジア太平洋大学のゴメズ・オスカル助教(元JICA研究所研究員)が、本書について紹介しました。ゴメズ助教は、研究プロジェクトが始まった目的や背景について、人間の安全保障の現場での実践を検証し、緒方貞子元JICA理事長が国連難民高等弁務官の時代から取り組んでいた、人道支援と開発支援の間に存在するギャップを埋めるための議論をさらに発展させたかったと振り返りました。

本プロジェクトでは、6つの危機(紛争事例:東ティモール紛争・(南)スーダン紛争・シリア危機、自然災害事例:ホンジュラスのハリケーンミッチ・インド洋大津波・フィリピンの台風ヨランダ)の事例調査から、さまざまな援助機関の対応についての比較研究を、2015年1月から約3年間実施。ゴメズ助教はその結果として、緊急支援から開発支援までの異なる段階をつなげるために必要なことは、1)アクターは、人道危機対応のプロセスは段階的に移行するものではない(non-linear)という認識を持って連携する、2)危機発生時から予防のための活動を開始する、3)援助機関のマネジメントの視点からではなく、常に被災地を中心に据える、といった視点であると発表しました。特に3)については、「援助機関は、連携のあり方や連続的実施にとらわれすぎることもある」と注意を喚起し、「重要なのは被災地を中心に据えること」と繰り返し訴えました。

書籍を手にあいさつを述べる武藤亜子主任研究員

「連続的実施」について説明する立教大学教授でNPO法人難民を助ける会理事長の長有紀枝氏

被災地を中心に据える重要性について訴えるゴメズ・オスカル立命館アジア太平洋大学助教(元JICA研究所研究員)

自然災害と武力紛争、両方の視点から議論が展開されたパネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、本書でシリア危機の事例執筆を担当した防衛大学校の立山良司名誉教授が、武力紛争においては政治的な状況が絡むため、中立的かつ普遍的な援助は難しく、矛盾も生まれると説明。そういった課題をまずは認識し、個々に対応を考えていくことが重要であると示唆しました。また、本書でインド洋大津波の事例執筆を担当した石渡幹夫JICA国際協力専門員と、コメンテーターを務めたチャーチ・ワールド・サービスジャパンの小美野剛事務局長、平林淳利JICA国際協力専門員は、国際協力における自然災害からの復興支援や東日本大震災の復興支援の経験を紹介しながら、被災者の立場に立つ意義を強調しました。

閉会あいさつではJICA研究所の大野泉研究所長が、改めて連続的実施(continuum)」の難しさを思ったと語り、「私たちに何ができるのか、国際機関やNGO、民間などの取り組みを学びなら、引き続き研究を発展させていきたい」と、シンポジウムを締めくくりました。

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