JICA緒方研究所ナレッジフォーラム(第6回) 「ポスト・コロナの世界と国際協力~グローバルヘルスに関するガバナンスとリーダーシップ~」開催

2020.09.18

2020年8月25日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、第6回ナレッジフォーラム「ポスト・コロナの世界と国際協力~グローバルヘルスに関するガバナンスとリーダーシップ~」を開催し、オンラインで約300人が参加しました。

冒頭、JICA緒方研究所の大野泉研究所長より、「ナレッジフォーラムは2019年に立ち上げた知的交流のプラットフォーム。新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いているが、今回、2020年4月のJICA緒方貞子平和開発研究所への名称変更後、初のイベント開催ができたことを嬉しく思っている。JICAはポスト・コロナの世界に向けてさまざまな取り組みを始めており、その第一歩として、新しい世界における国際協力について共に考える場としたい」と開会のあいさつがありました。

北岡伸一JICA理事長による登壇者紹介に続き、東京都立大学の詫摩佳代教授が基調講演を行いました。詫摩教授は「グローバル化時代の感染症は、世界経済から人々の日常生活、国防に至るまで、幅広い領域に影響が及ぶことが脅威。だからこそ保健大臣ではなく国家のトップが対応にあたることになり、政治化しやすい」と述べました。コロナ危機では協調より対立が目立つことを特徴に挙げ、これまでグローバルヘルスの分野でリーダーシップを発揮してきたアメリカが世界保健機関(WHO)脱退を表明し、中国がマスク外交などを通じて影響力を増しつつあるものの、リーダーシップは多様なリソースと各国の信頼に基づいて発揮されることから、中国がすぐにアメリカと同じ役割を果たすのは難しいと解説。感染症対策の改善には、WHOの組織改革に加えて、民間財団など多様なアクターを取り込みつつ、ワクチンの公平なアクセスを担保する枠組みの構築などで国際協調が必要とし、特に日本は、米中両国と対話できる関係性や国民皆保険制度の経験を生かした貢献ができると提言しました。

基調講演を行った東京都立大学の詫摩佳代教授

次に、東京大学東洋文化研究所の松田康博教授が発表し、中国・台湾・日本のそれぞれのコロナ対策を詳しく比較。台湾が政治的リーダーシップと情報開示による「超先手戦略」で感染者ゼロを実現し、経済の復興に成功したのに対して、中国は初動対応で失敗しながらもその後の抑え込みには成功、日本は政府の準備不足と非強制的な政策にも関わらず医療現場の奮闘と国民の協力でどうにか切り抜けていると分析しました。さらに、「日本はアジアを見ず、欧米ばかり見ていたために初動が遅れた。今後は台湾モデルを教訓として謙虚に学ぶべき」と指摘しました。

中国・台湾・日本のコロナ対策について発表した東京大学東洋文化研究所の松田康博教授

続いて、戸田隆夫JICA上級審議役が発表。日本のODAにおける保健分野の支援総額は約12億ドルで、これは2019年だとアメリカの10分の1、英国やゲーツ財団の3割であるとしながらも、世界各国で設立や人材育成を支援してきたトップリフェラルの病院(三次病院)や感染症研究・公衆衛生対策拠点が、まさに今、コロナ対策の拠点として非常に活躍していると強調。また、日本はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)など国際保健外交を能動的にリードしてきたことを継続しつつ、保健分野のODAを質量ともに拡充して、「人間の安全保障」の理念のもと、各国と連携してリーダーシップを発揮していくべきと述べました。

その後、JICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員がモデレーターを務めたパネルディスカッションが行われ、台湾が行った早期国境封鎖という初期対応モデルやWHOが不得手とする現場力をミドルパワーの連携でどう補完するかなどについて意見交換。さらに、参加者からの「パンデックにどう備えていくべきか」といった質問には、詫摩教授が「感染症対応はいかに初動で抑え込むかが鍵。例えばWHOへの情報提供を義務化するなど、ルールの厳格化が必要」と答えたほか、松田教授は「台湾では、権威主義時代に住民を相互監視するために生まれた地域コミュニティーが、現在はお互いをサポートする仕組みとして残っているのもコロナ対策に役立った。それぞれの国や社会にすでにあるものを活用して機能させられるといいのでは」と回答しました。

オンラインでの質疑応答も含め、さまざまなテーマで意見交換

最後に、JICA緒方研究所の武藤めぐみ副所長が総括し、「グローバルガバナンスの現状認識、国際協調の視点と日本が果たし得る役割、そしてリーダーシップについて因数分解をしていただいた。個々人がそれぞれの持ち場において自分なりのリーダーシップを考え、行動していくことが重要ではないか」と締めくくりました。

【JICA緒方貞子平和開発研究所ナレッジフォーラム】
国際開発に関心をもつ多様な関係者が定期的に集い、自由闊達に議論する場として、JICA研究所(現・JICA緒方貞子平和開発研究所)が2019年1月に立ち上げました。国際開発動向や開発協力に関する内外の知見を多様な関係者で共有・相互学習し、新しいアイデアを生み出していくKnowledge Co-Creation Platformとして機能することを目指しています。

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