JICA緒方研究所

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開発協力におけるエビデンスの重要性とは?GDN年次会合でJICA緒方研究所が分科会を主催

2022年1月31日

2021年10月18~27日、開発途上国の研究能力の開発とネットワーキングを目的としたGlobal Development Network(GDN)の年次会合がオンラインで開催されました。テーマには「Evidence for Development: What Works Global Summit 2021」が掲げられ、世界各国の研究者、政策立案者、国際機関の代表など900人以上が参加しました。26日には、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)が分科会「The Importance of Evidence for Development in International Cooperation」を主催し、高原明生所長、田口晋平研究員、鈴木智良研究員、リセット・ロビレス研究員が登壇しました。

分科会の冒頭、モデレーターを務めた高原所長は、「エビデンスに基づく開発は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行で転機を迎えた。デジタル化の促進によって従来の知識が通用しなくなり、カーボンニュートラルや気候変動への対応で世界が中長期的に大きく変化する現代では、エビデンスの重要性はさらに高まるだろう」とあいさつしました。

ザンビアでの深井戸建設事業のインパクト評価研究について説明した田口晋平研究員

次に田口研究員が、「Measuring the Impact of Development Project Improving the Access to Safe Water in Rural Zambia」と題して発表。JICA緒方研究所の研究プロジェクト「アフリカにおけるデータ活用実証研究」の一環で、JICAが2013年にザンビア北部のルアプラ州で行った深井戸建設事業のインパクト評価研究について説明しました。同研究では、深井戸の完成前後で、下痢の発症数や子どもの学校への出席率、一日のスケジュールなどの変化を調査。その結果、下痢の発症数は減少したものの、子どもの学校出席率には変化がなく、むしろ清潔な水が十分に手に入るようになったことで、子どもが水汲みなどの家事に割く時間が増加したことが分かりました。田口研究員は、当初、深井戸が建設されれば子どもの水汲みの負担が減り、学校の出席率が上がると考えていたものの、実際にはマイナスに作用したことが明らかになったとし、「開発事業の拡大を検討するときは、特に事業の正負両方の影響を把握しなければならない。だからこそインパクト評価が非常に重要」と締めくくりました。

交通インフラの“スピルオーバー効果”について説明した鈴木智良研究員

続いて、鈴木研究員が「Understanding the Current Situation in Developing Countries: The Research on the Spillover Effect of Urban Transportation Infrastructure」と題して発表。交通インフラが建設されることによって周辺地域で民間投資が増え、不動産開発が進むことで政府の固定資産税収が継続的に増加する “スピルオーバー効果” を活用することで、莫大な予算がかかる都市交通インフラ開発に財政的な持続可能性をもたらし得ることを説明しました。そして、ケーススタディーとして、コロンビアのメデジン市では新しい公共交通機関の建設により、不動産の価値が地下鉄周辺では2.9%、LRT(Light Rail Transit)周辺では2.7%、ケーブルカー周辺では1.9%上がったことを紹介しました。鈴木研究員は「スピルオーバー効果の議論は、マスタープラン作成時など、初期段階から行うべき。固定資産税収の使途を変更するためには政府の方針変更が必要で、それには時間がかかるからだ。この際のステークホルダーの合意形成にもエビデンスが重要」と述べました。

コロナ禍での調査の課題と解決策を発表したリセット・ロビレス研究員

最後にロビレス研究員が「Researching Human Security During Insecure Time」と題し、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障とエンパワメントの実践」においてコロナ禍で実施した調査で直面した課題と、その解決策について発表しました。コロナ禍では現地調査ができないケースもあったため、例えば現地で厳しい都市封鎖が行われている場合はそのコミュニティー在住の地元の研究者自身をデータソースとして活用する、都市封鎖下で研究対象者が異なる場所に点在している場合は直接研究対象者にオンラインアンケートを行う、外出制限がある場合は現地研究員の協力を得ながら予定していた研究対象者に代わる研究対象者を探してインタビューを行う(proxy interview)といった手法への変更が求められたことを紹介しました。ロビレス研究員は、「人間の安全保障の分野の研究では、量的、質的調査のそれぞれの手法の欠点を補うために両者を組み合わせて使うことが求められる。コロナ禍でも、研究者と研究対象者の安全を最優先にしながら、研究アプローチを状況に合わせて順応させる必要性を実感した」と述べました。

ジェトロアジア経済研究所の佐藤寛氏らからのコメントも踏まえて議論

これら発表に対して、アフリカ開発銀行のアクア・オーサー・キッシ主席評価官とジェトロアジア経済研究所の佐藤寛上席主任調査研究員からコメントを得て、議論を深めました。佐藤氏は「鈴木研究員が述べたように、確かにエビデンスは何か合意形成をしなければならない時に必要なもの。しかし、参照するエビデンスについての受け止め方は多様であり、合意形成には政治性があるため、政治との関係性はとても重要」とエビデンスの政治的側面についてコメント。それを受けて高原所長は、「そもそも事業を実施すること自体が、政府の決断に基づいた政治の結果と言える。研究者は研究結果が出た段階で自分の仕事は終わったと思うのではなく、全体のプロセスに思いを致すことが大事だ。つまり、実務者として、エビデンスに基づいた研究成果を使ってどう人々の暮らしを良くしていくか、を忘れてはならない」と述べました。

続くディスカッションでは、開発協力におけるエビデンスについて、活発な議論が行われました。例えば、「エビデンスを得るには時間と労力がかかるため、どんな事業を選択してエビデンスに基づく研究を行うべきか?」という問いに対して、田口研究員は「パイロット段階においてその後の普及可能性も含めてインパクト評価を行うべき。その結果に基づき、事業拡大の方針を検討することが必要」、鈴木研究員は「複数の政策の選択肢の中からどれが最善か調査したい場合や、交通インフラなど一般市民に説明責任を負う莫大な費用がかかる事業でインパクト評価をすべき」と見解を示しました。また、定量的エビデンスを解釈する上での定性的エビデンスの重要性など、定量・定性双方のエビデンスの特徴と組み合わせについても議論が及びました。

関連動画

Panel 24.2 | The importance of evidence for development in international cooperation (JICA-RI)(GDN YouTubeチャンネル)

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