国際開発学会第32回全国大会でJICA緒方貞子平和開発研究所の研究成果を発表

2021.12.21

2021年11月20、21日の2日間、国際開発学会第32回全国大会がオンライン(金沢大学)で開催され、教育、医療、保健、農業、災害復興、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)、市民社会、平和など、さまざまなテーマでセッションが行われました。JICA緒方貞子平和開発所から参加した研究員らの発表内容は以下の通りです。

【人間開発領域】

セッション「Education」では、仲里ローレン非常勤研究助手と萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーが「Student Mobility to Japan in the Age of COVID-19 —A Matter of Degree—」と題する発表を行いました。留学は世界中でコロナのパンデミックの影響を大きく受けているにもかかわらず、日本への学位取得型の留学はむしろ増加していると指摘し、日本が学位取得型の留学生招致に力を入れてきたことやオンライン授業を導入したことなどが、コロナの負の影響を軽減している可能性があることを報告しました。コメンテーターや他の発表者からは、学生の属性がインタビューの結果に与える影響、学位取得型の留学の増加率の経年変化、日本への留学生招致を促進するためのJICAの役割などについてコメントがなされ、コロナと留学についての議論を深めました。

日本の大学で学ぶ世界各国からの留学生たち(写真:JICA/久野真一)

セッション「教育Ⅱ」では、萱島シニア・リサーチ・アドバイザーと杉村美紀客員研究員(上智大学教授)が、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本の国際教育協力:歴史と現状」の成果に基づき、「日本のODAによる留学生招へいの歴史—国費留学生とJICA留学生—」をテーマに口頭発表。ODAによる留学生招へいの歴史を政策的意図や留学生を取り巻く環境の変化とともに論じ、さらに国費留学生とJICA留学生・長期研修員の統計分析から、それぞれの役割や特徴を明らかにしました。コメンテーターからは、政策的意図の達成度や開発途上国から見た日本留学の魅力、留学生受け入れと大学の国際化の関係などについて言及があり、活発な議論が行われました。

【地球環境領域】

セッション「環境・復興」には、安達一郎上席研究員が座長、石渡幹夫JICA国際協力専門員がコメンテーターとして参加。環境・復興(防災)分野での国際協力の事例研究報告が行われ、アジア各国における泥炭地管理や災害復興支援などの事例分析を通じて、相手国のキャパシティー活用の重要性が議論されました。石渡国際協力専門員は実務の事例分析に基づく研究報告の重要性と難しさに触れ、より発展的な研究の推進を示唆しました。最後に安達上席研究員が「協力相手国の実情に合わせたボトムアップ協力の大事さが確認された」と締めくくりました。

【開発協力戦略領域】

花谷厚主任研究員が座長を務めたセッション「Peace, Democracy and Global Divide」では、ベトナムの地球市民教育、メキシコの住民自治ガバナンス、フィリピンの平和活動におけるテクノクラシー、インドの女性自営者協会をテーマにした4件の研究報告が行われました。コメンテーターからは、「リサーチクエスチョンや分析枠組み、調査対象選定理由などをより明確にすべき」といった指摘がなされ、これに基づき意見交換が行われました。グローバルな共通課題に対して、ローカル組織による独自の取り組みが有効である可能性が示された有意義なセッションとなりました。

セッション「市民社会」では、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「スポーツと平和・開発に関する研究」に基づき、古川光明氏(静岡県立大学教授)が「紛争影響国における全国スポーツ⼤会の観客への効果-南スーダンを事例として」をテーマに発表しました。南スーダンで2016年から毎年開催されている平和と結束をテーマとする全国スポーツ大会「国民結束の日」の第5回(2020年1月に首都ジュバで開催)を研究対象とし、「国民結束の日」を通じて同市民の認識や行動に変容があったのかについて検証結果を報告。コメンテーターから、調査対象であるジュバ市民の出身地別の割合やセンシティブな質問への対応などについて質問が寄せられました。

志賀裕朗上席研究員は、開発分野の研究者と実務家の協働の促進を目的として国際開発学会が設置した「研究×実践委員会」主催の「研究と実践のインターフェースを探る—研究×実践委員会主催ラウンドテーブル—」に登壇。「『研究と実務のコラボ』というと、通常は具体性の高い『現場ニーズ』に対して、研究者が『科学的手法』に基づいた『正解』を提示することを意味する。実務サイドが設定した問題に研究者が応えることも必要だが、その『逆』も重要ではないか。つまり、実務サイドの問題設定や実務家が依拠する既成概念に対して、高い抽象性のレベルから研究者が根本的な疑問を呈することが、今ほど重要な時期はないのではないか」と問題提起しました。

生計向上に向けて小規模商店を経営するインドの女性グループ(写真:JICA)

南スーダンでは全国スポーツ大会「国民結束の日」を毎年開催

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ