アフリカで「緑の革命」を起こすために必要なことは何か?—ナレッジフォーラム第11回開催

2022.04.22

2022年3月22日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、第11回ナレッジフォーラム「アジアからアフリカに広がる日本の稲作技術」をウェビナー形式で開催しました。

開会のあいさつでJICA緒方研究所の牧野耕司副所長は、「JICAは2008年に国際イニシアティブ『アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development:CARD)』を立ち上げ、アフリカのコメ生産量を10年間で倍増させることを目標に支援してきた。その目標は2018年に達成したものの、かつてアジアで起きた『緑の革命』に比べると、アフリカでのコメ生産量の伸びは緩慢。アフリカで『緑の革命』を起こすには何が重要なのか議論を深めたい」と述べました。

まず基調講演として、神戸大学社会システムイノベーションセンターの大塚啓二郎特命教授が登壇。稲作技術が、第一次世界大戦後に日本から台湾や韓国、そして1960年代に東南・南アジアに移転されたことで「緑の革命」が起こり、人口爆発や干ばつによって起こると予想されたアジアの食糧危機を乗り越えたことを紹介しました。「緑の革命」とは、1966年以降、「奇跡のコメ」と呼ばれるような、背が低く茎が太いために倒れにくく、肥料感応的な高収量品種が次々に開発されて普及したこと。しかし、大塚特命教授は「『緑の革命』は品種と肥料投入の革命とも呼ばれ、今でもそう信じている関係者も多い。実はそれが大問題ではないか」と提起しました。

神戸大学社会システムイノベーションセンターの大塚啓二郎特命教授が講演

大塚特命教授は、アフリカでは人口爆発が起きている一方で、未開の耕地は残り少なく食糧生産の伸びが鈍いこと、コメの消費量の3分の1をアジアから輸入していること、もし今後アジアでの農業が不振となれば世界中でコメ不足になること、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の貧困削減や飢餓の撲滅の達成のためにも、アフリカでは「緑の革命」が必要であると訴えました。そして、「アフリカでは水田で栽培する水稲が有望。水稲栽培に適した手つかずの湿地がまだ豊富にあり、かつ、アジアの栽培技術を移転できる可能性があるからだ」と指摘しました。ただし、アフリカでは機械化が進んでおらず、アジアの「緑の革命」時に活躍した水牛が利用可能ではない上、一列に苗を植える、水田にあぜをつくるなどの基本的な栽培技術も採用されていないなど、さまざまな課題も示しました。その上で大塚特命教授は、「ポジティブな変化として、アフリカの中でもコメの単収が増加している国もあり、まさに『緑の革命』が起ころうとしている。また、アフリカ各国で行ったランダム化比較実験では、リーダーとなる農家だけに稲作栽培技術の研修を行っても、それが広がって周りの農家も単収が増加していることが分かった。『緑の革命』を実現するには、改良品種と化学肥料の投入ではなく、栽培技術の指導こそ重要。それをアフリカの政策立案者、開発分野の専門家、研究者に広く分かってもらう必要がある」と強調しました。

続いて、JICA緒方研究所の藤家斉上席研究員がモデレーターを務めたトークセッションには、千葉大学の菊池眞夫名誉教授と坪井達史JICA稲作上級技術アドバイザーもパネリストとして参加。まず栽培技術の重要性について、アジアとアフリカで約30年にわたり栽培技術普及を支援してきた坪井稲作上級技術アドバイザーは、「適正な技術がアフリカでなかなか定着しないのは、農家にとって稲は主要作物ではなく、優先順位が低いから。もともと水稲栽培が浸透していたアジアと違い、アフリカでは初めて稲作に取り組む農家に指導しなければならないのが難しい。水田を作り、苗を作り、田植えをする水稲栽培は手間がかかり、経験も必要。まずは作業が容易な陸稲から始めて稲作のメリットを理解してもらった上で、より手間のかかる水稲栽培に移行するのがいいのではないか」と、現場の経験を踏まえて語りました。

アフリカでの経験をもとにコメントした坪井達史JICA稲作上級技術アドバイザー

また、大塚特命教授がアフリカのかんがい整備の遅れを指摘したことに対して菊池名誉教授は、「確かにかんがいがなければアジアで『緑の革命』は起きなかったが、不適切な投資も多かったのは反省点。より少ない投資で、同じ効果を生むことはできたはず。アフリカには稲作に適している土地が多くあるため、さまざまな規模のかんがいをうまく利用できるように開発すべき」と指摘しました。

効率的なかんがい開発の必要性を指摘した千葉大学の菊池眞夫名誉教授

質疑応答では、「一人当たりの農地面積が減ってきている中で、コメは他の作物とすみわけができるのか?」「食料安全保障の観点では、コメの流通面も改善する必要があるのでは」といった質問やコメントに登壇者が回答しました。最後に、JICA経済開発部の天目石慎二郎次長が閉会のあいさつとして、「『緑の革命』まではまだ道なかば。JICAは今後もアフリカ各国政府やアカデミア、実務者と共に汗をかいていきたい」と述べ、フォーラムを締めくくりました。

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