JICA緒方研究所

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オープンイノベーションがもたらす開発の可能性をめぐり有識者らが議論

2016年4月12日

JICAも開設にかかわったファブラボ・ボホール

技術革新やネット環境の改善、知識ノウハウのオープン化、モノづくりの一般化が進み、先進国と開発途上国、援助する側とされる側といった枠組みが変化する可能性までもが指摘されています。途上国でのオープンイノベーション活用の可能性と開発援助へのかかわりを探ろうと、JICA研究所は2015年9月、「オープンイノベーションと開発」研究会を発足させ、開発経済学やイノベーション分野に留まらず情報通信政策なども含む国内を代表する有識者の協力を得て、4回の会合を開催してきました。研究会での議論をまとめた報告書が作成されたことを受け、JICA研究所は2016年3月23日、公開セミナー「オープンイノベーションと開発」をJICA市ヶ谷ビルで開催しました。

セミナーでは、市民デジタル工房「ファブラボ」を主たる切り口に、議論が繰り広げられました。ファブラボは、3Dプリンターやレーザーカッターなどの標準化された工作機器のパッケージが備えられた工房を、国・地域を問わずオープンにインターネットでつないだもので、人びとがネット上でアイデアを交換しながら開発・生産活動を行います。日本で初めてファブラボをつくった慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也准教授が、その現状を、主に途上国に焦点を当て紹介、同大学経済学部の田中辰雄准教授が経済学の視点からファブラボのビジネスモデルを分析しつつ援助の合理性を考察され、内藤智之JICA国際協力専門員が開発事業としての妥当性とスキーム選択の検討に関する提言を行いました。その後、会場の参加者も含めたパネルディスカッションを行いました。

田中浩也准教授は、途上国におけるファブラボを有効活用した現地ニーズへの対応取り組みに関し、インドのファブラボで野犬撃退装置やソーラー調理器、人力での発電機など、日々の生活を改善するモノづくりが行われていることを紹介しました。また、オープンソースを利用して小学生がインターネット用の無線アンテナを作った例をあげ、公共サービスが十分に行き届かない場所で住民自身が課題を解決していく可能性も示しました。またオープンイノベーションは、「ギブ・アンド・テイク(give and take)モデル」の終わり、「ジョイン・アンド・シェア(join and share)モデル」の始まりだとし、この新たなモデルを推進していきたいと語りました。

発表を聞く参加者ら

田中辰雄准教授は、ファブラボが費用対効果を生み出す理由として、熟練労働と資本設備が極めて少ない環境でも製造が可能な点と、地域に合った需要を掘り起こすことができる点を挙げました。一方、設置者にとっては、ファブラボだけでは収益を上げにくく、ファブラボで行う人材育成や教育の成果は外部に流出しがちであることから、逆説的には公共財として位置付けることで開発援助の必要性が高いのではないかと指摘しました。

内藤専門員は、オープンイノベーションの開発への活用事例として、世界銀行が進めている「グローバル・デリバリー・イニシアティブ」(開発に関する世界の成功・失敗事例を文書化しオープンに共有するプラットフォーム)や、ルワンダ政府とJICAの協働事業であるkLab(Knowledge Laboの略、インキュベーションセンター、隣接する空間にファブラボを建設中)から創出されているエコシステム、ユニセフのイノベーションラボなどを紹介しました。開発協力事業との関連では、事業終了後の持続発展性を考慮すると、ファブラボ設置とともに、ランニングコストを担保する資金調達モデル、法規制枠組み、組織整備、スキルと能力の強化などが必須であり、これらが設置される環境に応じて不足する部分を援助事業として支援する妥当性がある、と述べました。

議論する登壇者ら

パネルディスカッションは多摩大学情報社会学研究所の会津泉教授がモデレーターを務め、九州大学大学院経済学研究院の実積寿也教授、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の渡辺智暁特任准教授(国際大学グローコム主幹研究員)、同大学SFC研究所の徳島泰研究員、山田浩司JICA企画部参事役が加わりました。

青年海外協力隊員時代にフィリピンでファブラボの開所を支援し、現在も支援を継続中の徳島研究員は、ファブラボを含むオープンイノベーションはさまざまなものが生み出され「多産多死」となりがちだが、生き残った成果は社会を変えていると指摘。一方で、失敗が許容されにくいODAの評価基準との齟齬(そご)の問題なども提起しました。会津教授が討論をまとめ、従来型の開発協力は比較的ローリスクローリターンともいえるものだったが、ハイリスクハイリターンのイノベーションとでは、評価の仕方や評価軸を変えなければならないのではないか、ファブラボ以外のさまざまな試みも意識すべきではないか、と提起しました。

閉会のあいさつで畝伊智朗JICA研究所所長(当時)は、モバイルバンキングの構想が先進国では規制の問題などで実現できない一方で、ケニアで実現し、アフリカに大規模に展開した例をあげながら、「イノベーションは先進国だけではなく、課題がある開発途上国からどんどん起きている」と指摘。「ジョイン・アンド・シェア、JICAでいうjoint learningやsolution providingが広がり、世界の開発問題の解決につなげていくことが重要」と結びました。

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