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【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第3回】若者が集まる「モバイルマネー店舗」は若年妊娠を防ぐ新しい社会モデルになりうるか?

2026.02.06

全4回の本コラムシリーズでは、「開発インパクト」を学術的にどのように測るかを紹介します。農業、教育、保健、インフラの分野を例に、多様な研究手法を取り上げながら、国際的な学術水準に基づくエビデンスが政策や事業の改善にどのように役立つのかについて考えていきます。今回は、研究プロジェクト「ウガンダの若者の望まない妊娠に関する介入研究  」について取り上げます。

執筆者:駒澤牧子 人間開発領域 客員研究員)

どのような研究ですか?

サハラ以南のアフリカでは、若年人口の増加が急速に進んでいます。中でもウガンダは、人口の約半数が18歳以下という非常に若い国です。一方で、若者が安心して学び、成長できる社会環境の整備は十分とは言えません。例えば、ウガンダでは、婚姻前の性的活動が一般的であるにもかかわらず、性や健康、避妊に関する正しい知識を得る機会が限られています。その結果、15~19歳の女性の約25%が出産を経験しており、その多くは本人が望まなかった妊娠です。若年妊娠は、母子の健康リスクを高めるだけでなく、学業の中断や将来の経済的困難にもつながる深刻な社会課題となっています。

こうした課題に対し、JICA緒方研究所は、2023年度から2年間にわたり、新しい発想に基づく実証研究を行いました。着目したのは、携帯電話を使った送金や支払いを仲介する「モバイルマネー店舗」です。これらの店舗は全国に広がり、店主の多くが30代以下と若く、10代の若者が日常的に立ち寄る“地域のたまり場”としての役割も果たしています。

本研究では、このモバイルマネー店舗を「新たな保健拠点」と位置づけ、来店した代の若者に対して、性と健康、避妊に関する分かりやすい情報提供とコンドームの配布を行いました。病院や保健センターには行きづらい若者でも、身近な場所で自然に支援を受けられる仕組みを目指しました。

研究の結果、どのようなインパクトがあることが分かりましたか?

対象となった30店舗には、4か⽉間で延べ10万人以上の若者が来店し、そのうち約半数が性や避妊に関する情報を受け取りました。さらに、約2万人がコンドームを入手しました。この規模は、地域の保健センターの年間利用者数(約600人)と比べると30倍以上にあたります。若者にとって、モバイルマネー店舗がいかにアクセスしやすい存在であるかが明らかになりました。

また、15歳~19歳の顧客を対象とした実験前後の調査では、性交時のコンドーム使用率が実験前の67%から78%へと上昇しました(図1)。実験を行わなかった地域(対照群)と比較して、実験を行った地域(介入群)では1.5倍コンドームの利用が進んだことが、統計的に確認されました。

図1:コンドーム利用率の変化

図1:コンドーム利用率の変化

さらに、コンドームの入手先として「モバイルマネー店舗」を挙げた若者は約65%に達し(図2)、信頼できる保健拠点として店舗が機能したことが示されました。加えて、店舗側にとっても若者の来店者が平均で1.6倍に増え、売上も1.5倍に増加するなど、経営面でプラスの効果が生まれました。

図2:コンドーム入手先の変化

図2:コンドーム入手先の変化

どのようにインパクトを測定しましたか?

ウガンダ東部において、若年妊娠率を下げるための試験的な取り組み(実装実験)を4か月間行いました。研究開始前には、対象地域外の4店舗で10日間のパイロット研究を実施し、本実験の実施可能性や課題を確認しました。

その結果を踏まえ、実験を行う介入地域(イガンガ市)と行わない対照地域(ブジリ市)を選定しました。両市で計300店舗を調査し、地域特性や店舗の条件を整理したうえで、最終的に各30店舗を研究対象としました。介入と対照の両地域で、15~19歳の来店客からランダムに選ばれた計1,204名に対し、実験前後で知識・意識・行動の変化を質問紙による聞き取り調査で把握しました。

集まったデータは、「ロジスティック回帰分析」という手法を用いて分析し、介入の効果を客観的に検証しました。さらに本研究は、店主に対する質問紙調査やグループインタビュー、若者や地域有力者へのインタビュー等も行い、実施プロセスや地域の反応、経営への影響、他地域への普及可能性などを聞き取り、社会で実際に導入できる可能性と留意点を包括的に分析しています。

参加者からの声と今後の展望

店主へのインタビュー等からは、多くの参加者が「社会に役立つ活動に関われたことで自信が高まった」と感じていることが分かりました。特に全体の約7割を占める女性店主から「今後もこのような活動に参加したい」「他の地域で経験を生かしたい」といった声が多く寄せられ、自己実現意識の向上にも効果が確認されました。

研究チームは、本モデルが保健に留まらず、教育や災害時対応などにも応用できると考えています。今後、同様の社会課題と社会システムを有する他のアフリカ諸国への展開を視野に研究を続けていく考えです。

※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■プロフィール
駒澤 牧子(こまざわ まきこ)
JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員。広告制作会社、社団法人エイジング総合研究センター研究主任、開発コンサルタント主任研究員などを経て、2020年より現職。

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