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人道支援と開発支援のリンケージへ-スティーツ氏招き、様々な立場から活発な議論

2016.12.16

人道危機を乗り越えるためには、人道支援と開発支援のリンケージが不可欠とされ、このメッセージは2016年5月に初めて開催された『世界人道サミット』でも確認されました。JICA研究所は、2015年1月から研究プロジェクト「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」を実施しており、その一環として2016年12月12日、JICA市ヶ谷ビルで、オープン・セミナー「人道危機をどう乗り越えるか?-人道と開発のリンケージからの提案」を開催しました。ドイツの国際公共政策研究所執行役員のジュリア・スティーツ氏らの講演を受け、パネルディスカッションではJICA研究所の武藤亜子主任研究員がモデレーターを務める中、長有紀枝客員研究員(立教大学教授)らが議論しました。

パネルディスカッションでの議論

パネルディスカッションでの議論

開催のあいさつでJICA研究所の北野尚宏所長は「紛争や災害による人道危機は近年、ますます複雑化、大規模化し、かつ長引く様相を示している。人道危機に対応するには、ステークホルダーが、救援、復興、予防と開発の連続的な実施のために協働することが求められる。今日のセミナーで、研究の成果を共有し、フィードバックが得られればありがたい」と述べました。

スティーツ氏は講演で、「人道支援と開発支援のギャップは、より効果的に援助を提供する機会の損失、支援の非効率性、短期的な支援による長期的な開発の阻害など、さまざまな課題を生み出している」と述べました。そうした例として、人道支援で仮設の教室を作ったにもかからず、後に別の場所で新たな費用をかけて学校が建設されることや、高度な医療システムが構築されていたハイチで、災害時に医療サービスが無料で提供されたことにより地元の病院が廃業に追い込まれ、結果的に援助後の方が医療を取り巻く状況が悪化したことなどを挙げました。

人道支援と開発支援のリンケージの重要性が広く理解されながら、長年変化していない背景として、スティーツ氏は、「組織的偽善」(organized hypocrisy)の要素を挙げました。これは、ドナーや組織が、「シームレスな支援」や「コンティニュアム」(continuum)などのコンセプトに合意したとしても、それぞれが勝手な解釈をして、その解釈に基づいて行動している、ということです。こうした問題の解決のためには、概念の混乱を解消し、概念をより透明かつ分かりやすくしていくことが必要だとしました。

発表するスティーツ氏

発表するスティーツ氏

スティーツ氏はまた、組織にはそれぞれ異なるインセンティブがあること、予期せぬ事態に対処する人道援助では、迅速かつ柔軟な対応が求められ、開発援助とはスピード感が違うこと、人道援助が独立・中立・公平という観点から動いているのに対して、開発援助は政府機関を経由して行われるというアプローチの違いがあることを説明。結論として、人道支援と開発支援の間を埋めることは大事だが、それは人道機関と開発機関が完全に一体化する事ではない。救援のような短期的な目的を持つ活動を実施しつつ、復旧・復興、そして予防といった中長期的な目的を視野に入れた支援を行う協力関係や制度が望まれると話しました。

続いて、JICA研究所の元上席研究員で、JICA南スーダン事務所長の経験もあるJICA平和構築・復興支援室の花谷厚室長が発表しました。花谷室長は「難民を受け入れている国にとっては難民支援の優先順位が低く、開発援助のドナーもその国の開発計画に沿った支援を行うため、難民支援に力を入れることが難しいというジレンマに陥っている」と指摘。多くの難民を受け入れてきたタンザニアとザンビアの例を比較し、日本が受け入れ側の現地コミュニティーの開発も合わせて支援したザンビアでは、政府とドナーが協力し、難民支援がよりスムーズに進んだと説明しました。

JICAも復興支援にかかわった南スーダン

JICAも復興支援にかかわった南スーダン
(写真:久野真一/JICA)

パネルディスカッションでは、武藤主任研究員が「人道支援と開発支援の間のギャップは、多くの人がフラストレーションを抱える難しい課題。人道から開発へと支援の継続性を高めていくためにも成功事例を共有することが役立つ」と話しました。長客員研究員は、新しいドナーであるアラブ諸国やBRICs諸国による難民支援のアプローチに着目、大阪大学の星野俊也教授は「共通のコンセプトとして、すでに多くの国が同意している持続可能な開発目標(SDGs)を活用してはどうか」と提案し、日本赤十字看護大学の東浦洋教授は「赤十字は、これまでもキャパシティビルディングなど復興のフェーズまでカバーする活動をしてきた」と話すなど、それぞれの立場からの意見が出されました。

スティーツ氏は、現地の組織のための資金をプールしたり、間に組織を介さずに被害を受けた人々に直接支援金を渡したりといった、より柔軟なアプローチを紹介しました。会場からは「人道支援の分野に民間企業がどういった役割を果たせるのか」といった質問も出され、活発な議論が交わされました。

最後に萱島信子副所長が「今日のセミナーから得られた知見を幅広く活用していきたい」とあいさつし、セミナーを終えました。

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