気候変動対策と開発援助の統合で持続可能な社会への新たな道を—ナレッジフォーラム第9回開催
2021.10.28
2021年9月21日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)とJICA地球環境部気候変動対策室は、第9回ナレッジフォーラム「世界の異常気象に我々は何をなすべきか?~気候変動適応への取り組みの最新動向と高まる国際協力の重要性~」をウェビナー形式で共催しました。
冒頭、JICA緒方研究所の高原明生所長から、「二酸化炭素の排出量を減らしていくといった気候変動への取り組みは、このコロナ禍でも加速している。また、世界各地で豪雨、洪水、熱波などの異常気象が多発し、その原因の一つに地球温暖化が大きく関係している。今まさにホットトピックである気候変動問題について、取り組むべき課題や、国際協力において求められる日本の役割について意見交換をしたい」と述べました。
続いて、気候変動研究の日本の第一人者であり、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change : IPCC)」の評価報告書の執筆者でもあるJICA緒方研究所の三村信男特別客員研究員(茨城大学地球・地域環境共創機構特命教授)が、「気候変動適応への取り組みの最新動向」と題した基調講演を行いました。1988年のIPCC設立以降の気候変動問題への取り組みの歴史を振り返りつつ、気候変動問題の現状と今後への取り組みの展望を語りました。温室効果ガス排出を削減するという「緩和策」と、悪影響を抑制し環境へのレジリエンス(社会の適応能力)を上げていく「適応策」の二つの対策を挙げ、「その両方を行いながらリスクをできる限り小さくする努力がなされてきたが、大きく“潮目を変えた”のは、気温上昇を2℃と1.5℃までに抑える努力目標を定めた2015年のパリ協定だった」と説明しました。
IPCCの評価報告書の執筆者でもある三村信男特別客員研究員が基調講演
また、三村特別客員研究員は2022年発刊予定のIPCC第6次評価報告書の第2作業部会のレビュー・エディターを務めていることから、同部会での議論の様子なども紹介。「若い世代、女性、多様な出身地・分野の執筆者(研究者)の参加が増え、IPCCの風景が変わった。最初に述べた『緩和策』や『適応策』といった気候変動リスクマネジメントのみに評価報告書の焦点が当たっていた状況から、気候変動が起こっている状況を踏まえて、どう望ましい持続可能な社会をつくっていくかという視野の拡大は、こうした点からも明らかだ」と述べ、気候変動対策と持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の実現をどうやって統合するかという方向へ世界は動き出していると指摘しました。さらに、これからは従来の開発援助と気候変動への対応策を分けるのではなく、統合していかなければ十分な効果が上がらないと強調。今後は、科学的アプローチと現地に根ざしたコミュニティーベースのアプローチの両方を採用し、現地とドナー双方に統合的かつ俯瞰的なビジョンを持った人材の育成が課題になると述べました。
その後のトークセッションでは、JICA緒方研究所の安達一郎上席研究員がモデレーターを務め、三村特別客員研究員と成田大樹客員研究員(東京大学准教授)が意見交換。成田客員研究員は基調講演を受けて、JICAがケニアで行った農業かんがい施設建設プロジェクトの気候変動に対する適応の観点からの評価結果を説明し、「同プロジェクトはもともと水の供給を安定化させるためのもので気候変動対策を目的としていなかったが、研究の結果からは、将来の気候変動による損失リスクを軽減する成果が出た」と述べました。また、気候変動のインパクトは不確実性が高いため、将来についてどう考え支援を進めていくのか、現地関係者とコミュニケーションをとる重要性を改めて認識したことも語りました。
トークセッションに参加した成田大樹客員研究員
三村特別客員研究員も、「例えば海岸浸食には日本ではブロックを置いて対応するが、タイでは竹とタイヤで防波堤を作ったり、大洋州の島々ではサンゴ礁やマングローブが理想的な海岸防護になっており、現地に根差し、かつ適した技術で自然を守ることが何よりの対策だと気付かされたりと、日本の海岸工学が必ずしもユニバーサルではないと感じた」と振り返りながら、開発支援では現地の地理的・環境的要因や社会的知見を踏まえ、目の前の問題に対応しながらも長期的課題に対応する複合的な視点が重要だと訴えました。参加者からの「開発途上国で適応策を行うための人材や組織をどう確保していくべきか」といった質問に対しても、両研究員が見解を述べました。
最後に、JICA地球環境部の宮崎明博気候変動対策室長が、「JICAは2021年4月から、全ての開発プロジェクトで気候変動対策を講じる双方向型の開発を目指す戦略を立て、取り組みを始めている。気候変動問題の不確実性にさらされているのは日本も途上国も同じため、途上国と共に気候変動問題に取り組んでいきたい」と述べ、ウェビナーを締めくくりました。
【JICA緒方貞子平和開発研究所ナレッジフォーラム】
国際開発に関心をもつ多様な関係者が定期的に集い、自由闊達に議論する場として、JICA緒方貞子平和開発研究所が2019年1月に立ち上げました。国際開発動向や開発協力に関する内外の知見を多様な関係者で共有・相互学習し、新しいアイデアを生み出していくKnowledge Co-Creation Platformとして機能することを目指しています。
JICA緒方貞子平和開発研究所第9回ナレッジフォーラム「世界の異常気象に我々は何をなすべきか?~気候変動適応への取り組みの最新動向と高まる国際協力の重要性~」
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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