書籍『Forced Migration and Humanitarian Action: Operational Challenges and Solutions for Supporting People on the Move』発刊セミナー開催
2025.06.09
2025年1月30日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、書籍『Forced Migration and Humanitarian Action: Operational Challenges and Solutions for Supporting People on the Move 』発刊セミナーを開催し、専門家、研究者、実務者が本書の成果について議論しました。
JICA緒方研究所が実施した3年間の研究プロジェクト「強制移住をめぐる人道アクションの進展に関する研究 」の成果である本書では、子ども、女性、障害者、高齢者、移住労働者などの脆弱なグループに焦点を当て、多様な強制移住の状況について検証しています。この発刊セミナーでは、JICA緒方研究所の武藤亜子 専任研究員がモデレーターを務め、強制移住と人道アクションのさまざまな側面について、本書の編者と執筆者が発表を行いました。
まずJICA緒方研究所の折田朋美 主席研究員が開会のあいさつを述べ、強制移住をめぐる状況が複雑さを増していることを強調しました。国連難民高等弁務官事務所(The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR) の推定によると、迫害、紛争、暴力、人権侵害、深刻な治安の悪化によって移住を余儀なくされる人の数は、2024年末までに世界で1億2,000万人を超えるとされています。折田主席研究員は、強制移住は人間の安全保障における重大な問題であり、人道アクターがさまざまな強制移住の状況に応じて多様な人々への支援を実施していることを強調しました。また、本書の成果が研究と実務のギャップを埋め、最終的には人道支援の取り組みの改善につながることへの期待を示しました。
開会のあいさつに立ったJICA緒方研究所の折田朋美主席研究員
モデレーターを務めたJICA緒方研究所の武藤亜子専任研究員
本書の共同編者であり、Platform on Disaster Displacement のプログラムマネージャーを務めるLorenzo Guadagno氏は、書籍の主なテーマについて概説しました。強制移住が危機における重要な特徴の一つであり、それに応じて人道アクターは強制移住者への支援方法を決定するとし、最近の例としてウクライナ、ガザ、自然災害などを挙げ、強制移住のさまざまな状況を紹介しました。
Guadagno氏は、本書で論じられている重要な概念は「脆弱性」であるとし、その性質は移住を強いられた各グループに応じて異なること、また、脆弱性は生来の特性ではなく、社会状況、政治状況、経済状況などの構造的要因によって形成されると説明。本書では、障害を持つ人々のアクセシビリティの懸念への対応や、人身取引の被害者となった移住労働者の国籍認証の支援など、人道的支援がどのように異なるグループのニーズに適応できるかを探求しています。
本書の共同編者であり、Platform on Disaster Displacement のプログラムマネージャー を務めるLorenzo Guadagno氏
書籍執筆時に国際移住機関(International Organization for Migration:IOM)のGlobal Migration Data Analysis Centre(GMDAC) に所属していたIrene Schöfberger氏とSalma Hazem Nooh氏は、執筆を担当した章「Humanitarian Programming on Child Migration in Northern Africa and Southern Europe: The Role of Data」について発表しました。2020年時点で、世界全体での子どもの国外移住者数は推定3,550万人に上るにもかかわらず、その体験に関するデータ収集は依然として不十分であることが指摘されました。更新されない国勢調査による情報、年齢・性別で分類したデータが限られていること、子どもの移住者へのアクセスの難しさ、幼少期の定義の相違など、調査からはデータ収集における重要な課題が明らかになりました。
こうしたギャップに対する取り組みとして、両氏はInternational Data Alliance for Children on the Move(IDAC)や、UNICEFの倫理研究ガイドラインなどを紹介。データと人道支援アクターへのインタビューに基づく事例研究では、人道支援の取り組みには長所もあるものの、データの欠如がプログラム立案、アドボカシー活動、資金調達に影響を及ぼし、子どもの移住者を対象とした支援の実施が困難になっていることが明らかになったと説明しました。
国際移住機関Global Migration Data Analysis Centre所属時の研究について発表したSalma Hazem Nooh氏
国際移住機関Global Migration Data Analysis Centre所属時の研究について発表したIrene Schöfberger氏
IOM Displacement Tracking Matrix のNikki Herwanger氏とAlexandra Bate氏は、執筆を担当した章「Representative Humanitarian Data Collection: Female Participation for Better Data on Migration and Internal Displacement」について発表しました。
この研究では、人道支援でのデータ収集における男女差と、その差がデータの内容、品質、正確性にどのような影響を及ぼすか調査しています。ハイチ、レバノン、南スーダン、スーダン、エチオピアで行われた調査では、社会規範、安全上のリスク、情報へのアクセスの欠如といった構造的な障壁により、データ収集への女性の参加が妨げられる場合が多いことが分かりました。そのため、データ収集者を採用する上でのジェンダー平等を促進する戦略と、女性の情報提供者にデータ収集活動へ関与してもらうための多面的なアプローチが必要だと指摘しました。
国際移住機関Displacement Tracking MatrixのNikki Herwanger氏
国際移住機関Displacement Tracking MatrixのAlexandra Bate氏
Christian Blind Mission のOliver Neuschaefer氏と、Internal Displacement Monitoring Centre およびUNHCRに所属していたLouisa Yasukawa氏は、執筆を担当した章「From Policy to Practice: The Evolution of Disability‑Inclusive Humanitarian Action on Internal Displacement in Vanuatu and Nigeria」について発表しました。バヌアツとナイジェリアでの事例研究を使用し、国連障害者権利条約や仙台防災枠組などの国際的な枠組みがどのように実践されているかを調査しました。
バヌアツでは、近年の政策変更により、災害対応におけるアクセシビリティー対策が改善されましたが、意思決定に障害者が実際に参加するには、依然として課題が残っています。またナイジェリアでは、人道支援の計画では障害者のインクルージョンが重視されるようになったものの、障害者に対するステレオタイプな偏見が根強く残っていることが分かりました。両氏は、障害のある避難者が直面している複合的な課題を理解するために、定量データと定性データの両方を集める重要性を強調しました。
Christian Blind MissionのOliver Neuschaefer氏
Internal Displacement Monitoring Centre およびUNHCRに所属していたLouisa Yasukawa氏
JICA緒方研究所のリセット・ロビレス 客員研究員は、Rogie Royce Carandang氏と共著した章「Inclusion of Displaced Older People in Research and Practice: Insights on Humanitarian Action for Older Filipinos」について発表しました。
強制移住者における高齢者の割合は高くはないものの、移住が長期化することにより、高齢者の数は増加しています。高齢者は、他者の世話をする一方で自身も支援を必要としていることが多く、そうした場合、状況はさらに複雑になると説明。この研究では、人道支援において高齢のフィリピン人が見過ごされている状況を調査し、データ収集とサービス提供のギャップを指摘しています。その上で高齢者の変化するニーズと能力を理解し、高齢者もターゲットに含めた人道支援政策に変更していく必要性を訴えました。
JICA緒方研究所のリセット・ロビレス客員研究員
JICA緒方研究所の竹内海人 研究員は、秦辰也氏と共著した章「Protecting Forced Migrant Workers: A Case Study of Rescue Operations for Fishermen Trafficked from Thailand to Indonesia」について発表しました。この研究は、2014~2016年に人身取引の被害者となった漁業者3,000人以上を救出した大規模な人身取引対策について調査したものです。
竹内研究員は、人身取引による移住労働者の多くは滞在許可証などの書類を所持していないため、彼らを特定し、支援する上で複雑な状況が発生していると説明しました。研究結果からは、予防(Prevention)、保護(Protection)、訴追(Prosecution)、パートナーシップ(Partnership)という4つの「P」の重要性が強調され、政府、NGO、国際機関の連携を強めることで、被害者の保護、帰還、社会再統合に向けた取り組みを強化する必要性が示されました。
JICA緒方研究所の竹内海人研究員
最後に、強制移住の増加と長期化について、JICAガバナンス・平和構築部平和構築室の大井綾子室長が開発協力の観点から考察を述べました。人間の安全保障の原則と人道・開発・平和の連携(Humanitarian-Development-Peace Nexus:HDPネクサス)を取り入れたJICAの平和構築アプローチについて説明したほか、パレスチナ・ヨルダン川西岸にある難民キャンプでは強制移住者コミュニティーが意思決定プロセスに参加していることにもふれ、こうしたJICA独自のインクルーシブな参加型計画アプローチも紹介。強制移住が発生している状況では、脆弱なグループの有意義な参加と能力開発が重要であると述べました。
JICAガバナンス・平和構築部平和構築室の大井綾子室長
参加者からの質疑応答が続き、活発な議論が行われました。
このセミナーの動画は、以下から視聴できます。
また、このセミナーのプログラムはこちら からご覧いただけます。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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