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世界政治学会2025年度総会でJICA緒方研究所の研究成果を発表

2025.09.09

2025年7月12~16日、「Resisting Autocratization in Polarized Societies」をテーマに掲げた世界政治学会(International Political Science Association : IPSA)2025年度総会 が韓国・ソウルで開催されました。JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)から参加した研究員らの発表内容は以下の通りです。

【Indispensability of Human Security in a Polarizing World】

JICA緒方研究所の研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障の実践 」と「東アジアにおける人間の安全保障とエンパワメントの実践 」の主査を務めた峯陽一研究所長と、同プロジェクトおよびその研究成果である書籍に貢献した武藤亜子 専任研究員が発表を行いました。同じく編著者を務めた中国・北京外語大学のRen Xiao教授、韓国・梨花女子大学のKim Eun Mee名誉教授、シンガポール・南洋理工大学のメリー・カバレロ=アンソニー教授も議論に参加しました。

峯研究所長は、人間の安全保障の理論的な側面を、その発展に貢献したアマルティア・セン氏や緒方貞子氏の議論や平和学との関係において論じ、さらに研究成果である書籍『Human Security and Cross-Border Cooperation in East Asia』 『Human Security and Empowerment in Asia: Beyond the Pandemic』 の概要と、JICA緒方研究所の近年の人間の安全保障研究 の成果を紹介しました。武藤専任研究員は、2冊の書籍で論じられた多様な人間の安全保障の実践について、「保護」「エンパワメント」「連帯」「信頼」といった視点から整理し、人間の安全保障の実践に関する事例研究を継続する意義を主張しました。

質疑では、安全保障の対象を「人」にシフトする人間の安全保障と、国家の安全保障が互いに補完することの有用性が改めて確認されるとともに、分極化が進む世界において、国家の安全保障が人間の安全保障より優先される場合に、人間の安全保障の実践がどのような視座を提供し得るのかなど、活発な議論がありました。

写真:議長を務めた Kim Eun Mee名誉教授(右端)、峯陽一研究所長(右から2人目)をはじめとするパネル参加者たち

議長を務めた Kim Eun Mee名誉教授(右端)、峯陽一研究所長(右から2人目)をはじめとするパネル参加者たち

【Comparative Study of South Korean and Japanese Conceptualization and Implementation of Knowledge Diplomacy towards Uzbekistan】

写真:日本と韓国の比較研究について発表したニコライ・ムラシキン客員研究員

日本と韓国の比較研究について発表したニコライ・ムラシキン客員研究員

ニコライ・ムラシキン 客員研究員は、日本と韓国がウズベキスタンに対して知識外交をどのように概念化し、実施しているかを比較する研究についてプレゼンテーションを行いました。本研究は、両国がそれぞれの開発経験をどのようにパートナー国と共有しているのか、その方法を理解する上で役立つものです。

これまでの研究では、東アジア諸国は過去数十年の間、開発に関する知識の共有を強化してきたことが示されています。ムラシキン客員研究員は、この文脈において、日本と韓国の役割は特に興味深いものであることを指摘。その理由として、両国は東アジアにおける開発経験を持つOECD 開発援助委員会(Development Assistance Committee: DAC)加盟国であり、かつては被援助国であったという共通点があることを挙げました。本研究は、韓国と日本による知識共創や知識外交に関する協力活動に参加した専門家や関係者へのインタビューと関連文書の言説分析に基づく定性的研究であり、ウズベキスタンと日本、韓国との知識共有の相互作用の特殊性や、これらの国々の二国間関係における知識の役割を明らかにすることを目指していると説明しました。

その後の議論では、外交政策研究以外の分野での「知識外交」という概念の新規性や、実務家や学者が「知識外交」という用語や「知識の共創」などの関連用語を使用する際の微妙なニュアンスの違いについて意見が交わされました。

【This is How the Media of the Smaller States View Bigger States: Comparative Analysis of Laos, Sri Lanka, Bangladesh, and Zambia】

写真:オンライン・メディアの論調を比較研究した今井夏子リサーチ・オフィサー

オンライン・メディアの論調を比較研究した今井夏子リサーチ・オフィサー

今井夏子 リサーチ・オフィサーは、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「インド太平洋の平和と開発の新ダイナミクスー途上国の中国への対処ー 」の研究成果を発表しました。本研究は、バングラデシュ、ザンビア、ラオス、スリランカの現地オンライン・メディアを対象に、中国、日本、アメリカ、そして、各事例国が属する地域における地域大国(バングラデシュとスリランカにとってのインド、ラオスにとってのタイ、ザンビアにとっての南アフリカ)との二国間関係に関する報道内容と、その論調を比較分析したものです。

今井リサーチ・オフィサーは、国内政治、経済、安全保障、国際関係(グローバル/地域)という5つの観点から、テキストマイニングと言説分析を組み合わせて調査した結果、4ヵ国に共通するメディアの主要な論点は、「経済発展」であることを示しました。一方、その論調は多様であり、政権の開放度、大国との歴史的関係、地政学の状況によって異なる点があることも明らかにしました。小国はもはや受動的な存在ではなく、自らの置かれた地政学的立ち位置を戦略的に捉え、大国に対して能動的に語る主体であることが示唆されたと述べました。

参加者からは、量的・質的調査法を組み合わせた手法や、メディアの報道分析と地政学的考察をつなげた着想に関心が寄せられ、メディア研究の可能性について活発な意見交換が行われました。

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