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JICA緒方研究所・地経学研究所共催ナレッジフォーラム「相互利益の視点から再考するODAの役割」開催

2026.06.04

国際秩序が大きく揺らぐ中、政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)の在り方を模索する議論が盛んになっています。2026年4月13日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、国際文化会館地経学研究所(Institute of Geoeconomics: IOG) ナレッジフォーラム「相互利益の視点から再考するODAの役割」 を共催し、これからのODAが目指すべき役割について議論しました。

「相互利益」を軸にした日本の ODA の強みとこれから

開会のあいさつで国際文化会館の神保謙常務理事/APIプレジデントは、ODAを取り巻く環境が大きく変化し、OECDの2025年暫定値によるとDAC参加諸国のODA総額は前年比23.1%減と過去最大の落ち込みとなった一方、DAC非加盟の12の公的供与主体によるODAは133億ドルに達するなど、開発協力の担い手が確実に多元化していると指摘。「相手国を対等なパートナーとして尊重し、主体性と自立的発展を支えながら、日本自身の安全保障や経済の強靭性、さらには国際公共財の維持にもつなげる“好循環”を生み出すアプローチこそ、日本のODAの価値であり、“相互利益”ではないか」と述べました。

【セミナー】相互利益の視点から再考するODAの役割(ナレッジフォーラム:神保謙 国際文化会館常務理事・開会あいさつ抜粋)(YouTube)

続いてJICA緒方研究所の亀井温子 副所長がセミナーの趣旨を説明後、議論の導入・論点の提示として、JICA緒方研究所の原田徹也 主席研究員(JICAフランス事務所長)がODAの役割をめぐる欧州の議論を紹介。イギリス、ドイツ、フランスといった欧州主要国のODA予算が縮小する中、ODAの目指すものとして①最貧国や脆弱層など「最もニーズがある層」への支援、②気候変動や感染症対策などの地球規模課題、③自国利益の追求という三元論の中で議論されており、特に③の高まりとともに「相互利益(Mutual Interest)」という言葉が頻出していると述べました。また、英国が「ドナーから投資家へ」「グラントから知見提供へ」といったODAアプローチを転換する「Four Shifts」を提唱したり、中国も南南協力強化を強調したりと、欧州や中国が日本型ODAのアプローチに接近しつつあることも指摘しました。

写真:欧州でのODAの現状を説明したJICA緒方研究所の原田徹也主席研究員(JICAフランス事務所長)

欧州でのODAの現状を説明したJICA緒方研究所の原田徹也主席研究員(JICAフランス事務所長)

官民学の視点から見た「相互利益」につながる日本のODAとは

亀井副所長がモデレーターを務めたディスカッションでは、日本のODAの「相互利益」への貢献と重視すべき価値、「相互利益」の観点から見た日本のODAの役割、必要なアクションなどについて、官民学それぞれの立場から議論が交わされました。

IOGの相良祥之主任研究員は、戦後80年の国際秩序の変遷を振り返りながら、現在、価値や法の支配に基づくリベラルな国際秩序は大きな転換点にあり、パワーに基づく取引重視型の世界秩序へ移行していると指摘。日本がこれまでの開発協力で積み上げてきた信頼を「ソフトパワー」と評価し、日本の国力として位置づける視点が必要だと述べました。今後については、①日本がかけがえのない国となれるような戦略的不可欠性の向上、②日本が積み上げてきた技術のグローバルサウスへの適応、③日本の貢献を言語化した発信、④グローバルヘルス分野などでのオファー型協力の必要性を示しました。

写真:ディスカッションのモデレーターを務めたJICA緒方研究所の亀井温子副所長

ディスカッションのモデレーターを務めたJICA緒方研究所の亀井温子副所長

写真:ディスカッションに参加した国際文化会館地経学研究所の相良祥之主任研究員

ディスカッションに参加した国際文化会館地経学研究所の相良祥之主任研究員

早稲田大学政治経済学術院の戸堂康之教授は、日本のODAには被援助国が経済発展することによって日本企業の市場拡大や対外直接投資を促す呼び水効果があり、サプライチェーン強靭化や経済安全保障の強化につながるなど、日本と被援助国相互の経済発展・経済安全保障に大きく貢献しているとし、インドネシアでの鋳造産業への技術協力やエチオピアでの森林管理・農民学校・森林コーヒー認証支援、日本の中小企業のベトナムでの海外展開支援などのエビデンスを示しながら説明。また、国内外の環境の変化にもふれ、今後必要なこととして、グローバルサウスとの知的連携、日本国民と被援助国への相互利益のアピール、アフリカへの支援拡充を強調しました。

約170ヵ国で事業を展開するダイキン工業株式会社東京支社渉外室の岩澤佳奈主事は、JICA民間連携事業を通じてナイジェリアで行った空調の省エネ規制導入支援を紹介しました。同国では省エネ規制の整備・運用が不十分で、インバータ空調機が従来機に比べて約50%の省エネ性能を持ちながらも、市場で適切に評価されない課題がありました。そこで同社は、製品の普及にとどまらず、JICAと連携し、空調の省エネ制度の設計・運用の仕組みづくりを支援しました。こうした制度面からのアプローチは、電力需給の改善や温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)排出削減への貢献に加え、高効率技術が正当に評価される市場形成の促進につながり、ビジネスと公的利益の両立を可能にするODAの好例だと述べました。当事例も踏まえ、日本のODAについては、短期的な企業収益などを指標にするのではなく、対象国が直面する社会課題の解決から出発して、課題解決に必要な制度やルール、市場の基盤を整えていき、結果として公的利益とビジネスの両立を図ることが重要であり、また、その経済波及効果についてもビジョンを策定し、対外的にクリアに発信することでODAのより一層の理解促進につながるのではないかと述べました。

写真:ディスカッションに参加した早稲田大学政治経済学術院の戸堂康之教授

ディスカッションに参加した早稲田大学政治経済学術院の戸堂康之教授

写真:ディスカッションに参加したダイキン工業株式会社東京支社渉外室の岩澤佳奈主事

ディスカッションに参加したダイキン工業株式会社東京支社渉外室の岩澤佳奈主事

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部の大野容子グローバル政策提言ヘッドは、市民社会が担ってきた相互利益への貢献として、平和、環境、国際保健といった地球規模の利益を創出するNGOが増えたことで日本への信頼構築と国際的評価の向上に寄与し、日本の政策への市民の民主的な関与と参画を促す役割を果たしてきたことを説明。また、日本が国際社会でどのような存在であるべきかという観点から、「中立で、誠実で、信頼されるミドルパワー」を提示し、直接的軍事行動を避け、人類がこれまで積み上げてきた英知を尊重し、国際的ネットワークを構築することこそが、包括的・持続可能な形で日本の安全保障につながるのではないかと述べました。

質疑応答では、「地域社会や中小企業にとってのODAの価値とは?」「国際協力のリターンをどのように日本社会に伝えていくべきか?」といったさまざまなテーマで議論が続きました。最後に、JICAの吉田昌弘理事が「共創・革新・環流」というキーワードを掲げ、多様なパートナーと連携して新たな価値を創出し、その成果を日本国内の活性化にもつなげていく重要性を語り、フォーラムを締めくくりました。

写真:ディスカッションに参加したセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンアドボカシー部の大野容子グローバル政策提言ヘッド

ディスカッションに参加したセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンアドボカシー部の大野容子グローバル政策提言ヘッド

写真:閉会のあいさつを行ったJICAの吉田昌弘理事

閉会のあいさつを行ったJICAの吉田昌弘理事

このフォーラムの動画は以下からご覧になれます。

YouTube

動画: 【セミナー】相互利益の視点から再考するODAの役割(ナレッジフォーラム:全編)

【セミナー】相互利益の視点から再考するODAの役割(ナレッジフォーラム:全編)

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