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『流域コモンズを水銀汚染から守れーウルグアイにおける統合的流域水質管理協力の20年』

  • #プロジェクト・ヒストリー

南米大陸の南東部に位置するウルグアイ。同国は1990年代から2000年代にかけて、国際機関や民間の支援により農業や牧畜業を振興したことで世界有数の牛肉輸出国へと変貌するなど、高度経済成長を遂げました。しかしその影響で、河川の水質劣化という課題に直面します。そこでJICAは2003年以来、モンテヴィデオ首都圏での水質管理強化計画の策定のほか、同国人口の6割近くが住み、飲用水や生活用水源、そして農牧業や工業などの産業用水源として重要な役割を担っているサンタルシア川流域の水質管理を支援してきました。

そして2013年、同書の著者である吉田充夫氏は、中南米諸国向けの第三国研修「河川流域水質管理」コースに講師として参加していたとき、ウルグアイ環境総局長から「水俣病を経験し、多くの知見や技術を持つ日本に、ウルグアイの水銀汚染対策を支援してほしい」との打診を受けます。サンタルシア川下流で、工場排水による高濃度の水銀汚染が発見されたからでした。

こうして2015年からは、水銀汚染の調査と対策に焦点を当て、詳細調査、汚染源の特定、総水銀・有機水銀分析、環境リスクの評価、対策計画の策定、住民の合意形成、対策工事の実行 という一連の環境汚染対策のための支援を実施。その際には、水俣病の経験から得た教訓から、情報公開、予防原則、汚染者による対策費用の支払いといった基本原則が適用されました。その結果、水銀汚染の現状把握や汚染メカニズムが明らかにされ、被害者を一人も出さずに、住民の合意のもとで水銀汚染を封じ込めることができたのです。

なぜ短期間での成功につなげることができたのか?同書でその答えを探し求めた吉田氏は、水資源が基本的人権としてウルグアイの憲法に記されたこと、経済成長下でサンタルシア川流域を「流域コモンズ(共有地)」として管理できるようになったこと、多数の関係者のネットワーク化による統合的な水質管理の発展とキャパシティ・ディベロップメントが実を結んだこと、気候変動対策への課題などを挙げつつ、約20年にわたる同国での取り組みを振り返っています。ウルグアイ側のパートナーである環境総局や日本側の関係者の声も散りばめられ、ウルグアイの水を守るために奮闘した人々の葛藤や模索、そして喜びまでもが生き生きと伝わってくる一冊です。

著者
吉田 充夫
発行年月
2024年7月
出版社
佐伯コミュニケーションズ
言語
日本語
ページ
194
関連地域
  • #中南米
開発課題
  • #環境管理
  • #水資源
  • #自然環境保全
ISBN
978-4-910089-40-9