JICA緒方研究所

ニュース&コラム

カイゼン研究の到達点を学際的に検証し今後の課題を探る—国際開発学会とセミナーを共催

2019年1月28日

特集の発刊とセミナー開催を機に活発な議論が行われた

2018年12月25日、JICA研究所は、国際開発学会誌『国際開発研究』Vol.27特集「国際開発におけるカイゼン研究の到達点と今後の課題」の発刊を記念して、同学会とセミナーを共催しました。

開発途上国において、企業支援のみならず、職業訓練や保健医療、生活改善など、多数の分野で導入されている日本式の管理手法“カイゼン”。これらの取り組みが分野横断的に議論されることはこれまでありませんでしたが、上記特集の発刊により、初めて学際的なアプローチから国際開発におけるカイゼンの可能性と今後の課題が検討されることになりました。

冒頭、JICA研究所の大野泉研究所長が、「今までのカイゼン研究の到達点を披露し、今後の課題について議論していきたい」とあいさつ。続いて国際開発学会元会長の佐藤寛氏(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター・上席主任調査研究員)が、「このセミナーは、さまざまな立場からカイゼンを語り、その幅広さを共有する試み」と述べました。

特集号について説明する島田招聘研究員

セミナーでは特集の編者であるJICA研究所の島田剛招聘研究員(明治大学准教授)より今回の特集号の意図と、各論文の学術上の位置付けを紹介しました。その上で、各論文の執筆者が内容を紹介する形で進められ、まず、セッション1では「現在のカイゼン支援から」として発表が行われました。

「JICAのカイゼン支援の『これまで』と『これから』」と題した論文を執筆したJICA産業開発・公共政策部の児玉顕彦職員は、実務者の立場からJICAによる途上国の民間セクターにおけるカイゼン支援の変遷と教訓を発表しました。児玉職員は、今後の協力アプローチとして、「カイゼン ハンドブック」の公開やe-learningの推進などによるカイゼンの普及展開の加速化に加え、「急進的イノベーション」の実現を見据え、起業促進や資金アクセスの改善も含むプラットフォームを形成することで、より包括的な支援を目指すことを紹介しました。

「産業政策とカイゼン: エチオピアにおける実践と産業政策対話の経験から」を執筆した大野研究所長は、カイゼンが同国の国家プロジェクトとして成功に至った要因を分析するとともに、「カイゼン」の次のステップである「カイゼンPlus」を目指すための課題にも言及。単体としてカイゼンを捉えるだけではなく、例えば産業政策の視点を含めて包括的に考察することや、各国固有の文脈でカイゼンを普及・制度化するには「HOW」の分析も必要ではないかと問題提起しました。

「カイゼンと学習:『質の高い成長』の視座から」を執筆したJICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーは、カイゼンの最大の特徴は参加型の学習を通じて生産性を上げることにあり、企業能力の向上を通じてイノベーションにも貢献すると述べました。

セッション2では、「教育および社会開発の視点から」として発表が行われました。

「非認知的能力が職能に及ぼす影響—エチオピア縫製業労働者に見るカイゼン教育の効果」の著者の一人、名古屋大学の山田肖子教授は、エチオピアの縫製業を事例として取り上げ、カイゼン能力は短期の企業内研修では身に付きにくいが、職業訓練校や日常業務を通じた介入など長期的な教育によって成果が得られるとし、それぞれの状況でどのような能力が期待されているかを知る必要性があると発表しました。

佐藤寛氏は、「生活改善と統合的品質管理(Total Quality Control: TQC)の関係は、サクランボとチェリーか?」と題して、日本における農村の生活改善の歴史や日本の途上国援助における生活改善のアプローチなどを紹介。同様の途上国支援を展開している韓国や中国と共同研究を行い、東アジア的な開発アプローチを探ることも有意義ではないかと提言を行いました。

セッション3では、「カイゼンの歴史的検討」として発表が行われました。

「生産性向上のアメリカ対日援助の戦略と労働組合、アジアへの展開—被援助国としての日本の経験」を執筆した島田招聘研究員は、戦後の米国の対日援助について、米国が非常に明確な戦略的意図を持って生産性向上支援を行ったこと、その援助の受け入れは日本政府ではなく民間の経済同友会が主導したこと、援助のやり方が現在とは大きく異なっていたことなどを紹介しました。

「生産性/品質向上支援体制の形成・展開過程:日本・シンガポール・チュニジア」を執筆した著者の一人、拓殖大学の柳原透名誉教授は、生産性・品質向上支援体制の形成が民間団体主導だった日本、政府主導だったシンガポール、ドナー主導だったチュニジアを比較検討し、その結果を共有しました。

最後に、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われ、「AI技術によるイノベーションが進む現代、途上国開発においてカイゼンはまだ有効か」、「他ドナーを巻き込むにあたってカイゼンという言葉を使うべきか」「産業開発に役立てるためにどのようなステップがあるのか、カイゼンの成果のスケールアップをどのようにするか」「カイゼンにおいてマインドセットを変えることは重要な点であるが、昨日より明日を良くしようと思わない国においてカイゼンは役立つのか」「日本のような学校教育と企業内教育の分業体制はアフリカでもうまくいくのか」などについて活発に議論が交わされました。会場からも、これまでの成果のスケールアップの方法や日本の地域活性化活動への応用など、多様な質問が寄せられました。

関連リンク

ページの先頭へ