オックスフォード大学と東京大学の現場から考える大学教育のこれから—ナレッジフォーラム第10回開催

2022.02.15

2022年1月18日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は第10回ナレッジフォーラム「コロナ禍における留学生と大学教育~オックスフォード大学と東京大学の事例から」をウェビナー形式で開催し、ウィズコロナ・ポストコロナにおける留学および大学教育の在り方を議論しました。今回は、オックスフォード大学の苅谷剛彦教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)と、東京大学の高原明生教授(JICA緒方研究所研究所長)の対談形式で進められました。

留学生受け入れの現状を説明したJICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー

まず、JICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員による開会あいさつに続き、研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究—アセアンの主要大学の教員の海外留学経験をもとに—」に携わるJICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーが、コロナ禍での日本と英国の留学生受け入れ状況について説明。「英国では、2020年には留学生ビザ発行数が減少したものの、2021年はコロナ前の2019年を上回り、留学生が入国している。それに対して、日本は2020~2021年にかけて留学生がほとんど入国できていない。しかし、オックスフォード大学も東京大学も、コロナ禍でも留学生の在籍者数は微増している」とデータを示しました。

続いて、モデレーターを務めた萱島シニア・リサーチ・アドバイザーが、両大学の留学生受け入れの動向について質問。苅谷教授は「他大学では留学生の減少が財政的インパクトを与えたケースもあったが、オックスフォード大学ではもともと明確な“留学生”という別枠を設けて受け入れているわけではないため、コロナの影響をほとんど受けなかった」と述べた一方、高原教授は「東京大学の留学生の在籍者数は増えてはいるが、日本に入国できず、それぞれの母国でオンライン授業を受けている人が多い」と述べ、実感を交えた現状を報告しました。

オンライン教育のメリットやデメリットについては、高原教授は“新しいチャレンジ”とした上で、「密な交流ができない、キャンパスライフが体験できない、実習ができない、留学生は留学の意義を感じにくいなどマイナス面はあるものの、ウェブ会議システムやLINE、Slackなどのアプリケーションを駆使することで、対面授業よりも教員と学生が密なコミュニケーションをとれた事例もある。遠隔地からでも授業に参加できるというプラス面もあり、可能性を感じている」と語りました。一方、苅谷教授は「英国の場合は、基本的には留学生を入国させ、対面で授業や指導を行っている。状況によってはリモートになるものの、オックスフォード大学ではそもそも5、6人規模のゼミのような授業が多いため、リモートでの指導でも影響はあまり感じなかった」と述べ、日本の大学において主流である大人数の講義とは異なる、授業スタイルによる違いが浮き彫りになりました。

また、実習やフィールドワークができないのは両教授に共通した悩みではあったものの、苅谷教授は「コロナは、各国の政治、文化、社会、国民の反応など、いろいろなものを映し出している。日本の政治家がコロナに対してどう反応をしたか、コロナに関連する言葉やニュアンスが国によってどう違うかなど、通常の世界では見えなかったことを研究し始めた学生もいる」と、コロナ禍だからこその動きについても語りました。

オックスフォード大学の苅谷剛彦教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)は英国と日本の大学の違いを指摘

東京大学の高原明生教授(JICA緒方研究所研究所長)はコロナ禍での授業の工夫を紹介

さらに、日本の大学が留学先としての魅力を高めるための方策として、苅谷教授は「教員と学生、学生同士がパーソナルな関係を築けるほか、学業以外の多様な経験ができるのが日本の大学の良さ。学問的な側面だけで大学の役割を見てしまうと、その良さが見えにくくなってしまう」と視点を拡大する必要性を挙げました。また、高原教授は「留学先としての魅力を高める上で、卒業後の就職も重要。国内では留学生に日本語力を求める企業が多いが、英語力だけでも就職できる機会を増やすべき。日本社会全体が英語でのコミュニケーション力を上げていくことも重要な条件ではないか」と提起しました。

最後に、萱島シニア・リサーチ・アドバイザーが「国費留学生の入国が一部認められるなど状況は変わりつつあるが、私費留学生も早く来日できるようになってほしい。また、開発途上国において遠隔でも授業を受けられるIT環境の改善など、新しい大学教育を届けるための努力も続けていきたい」と述べ、フォーラムを締めくくりました。

【JICA緒方貞子平和開発研究所ナレッジフォーラム】
国際開発に関心をもつ多様な関係者が定期的に集い、自由闊達に議論する場として、JICA緒方貞子平和開発研究所が2019年1月に立ち上げました。国際開発動向や開発協力に関する内外の知見を多様な関係者で共有・相互学習し、新しいアイデアを生み出していくKnowledge Co-Creation Platformとして機能することを目指しています。

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