【佐藤一朗上席研究員コラム】2030年以降を見据え、新たな指標体系を模索する:SDGs指標に関する国連の専門家グループ会合が北九州市で開催
2025.11.20
JICA緒方貞子平和開発研究所には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、研究プロジェクト「2030年以降の新たな国際開発目標における指標フレームワークに関する研究 」に携わる佐藤一朗上席研究員がコラムを執筆しました。
佐藤一朗 JICA緒方貞子平和開発研究所 上席研究員
2025年11月5日から7日にかけて、福岡県北九州市で「IAEG-SDGs(持続可能な開発目標指標に関する機関間・専門家グループ) 」の第16回会合 が開催されました。この会合は、日本の総務省が主催し、世界中から専門家が集まりSDG指標について多角的な議論をしました。
IAEG-SDGs (Inter-agency and Expert Group on Sustainable Development Goal Indicators)は、国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成状況をモニタリングするためのグローバル指標体系の検討・開発、運用、見直し・改善を担っているグループで、国連の統計委員会のもとに創設されています。IAEG-SDGsは、現在28カ国のメンバー によって構成されており、メンバーの多くは各国統計機関の専門家達です。
IAEG-SDGsは定期会合(2020年以降は年に1回)を開催しており、今年2025年は北九州市で開催されました。3日間の会合の初日はメンバーのみの会合、残りの2日間はメンバーに加え、メンバー国以外の各国政府統計機関、国際機関、NGOなどの統計・データの専門家も参加する全体会合です。今回、私は2日間の全体会合に参加する機会を得ました。全体会合での発表資料と会合の模様の録画は第16回会合のページ で公開されています。
会合では、SDG指標を巡る様々な課題について話し合われました。
例えば、2025年版のグローバル報告書 に基づく世界全体のSDGsの進捗や、特定の地域(アジア・太平洋地域)や課題(ジェンダー、平和等)に着目した進捗の報告がなされ、課題が共有されました。課題のひとつとして挙げられていたのは、指標データの整備に必要な人材や資金が不足していることです。その一例として、米国国際開発庁が長年支援してきた人口保健調査プログラムへの米国政府からの支援が途絶えたことで、39のSDG指標データの収集に影響が出ているということです。指標データ整備のための活動資金の確保や人材育成・組織強化は、これまでも課題として認識されてきましたが、国際開発資金が減少傾向にある現在、これから一層重要性を増す課題となりそうです。
また、伝統的に指標データとして活用されてきた各国統計機関が整備する公式統計以外のデータの活用、新しいデジタル・ツールの活用についても、様々な議論がなされました。具体的には、地球観測衛星画像などの地理空間情報、携帯電話から発信される位置情報、市民やコミュニティ等が提供するデータの活用や、人工知能(AI)等のデジタル・ツールを利用した効率的なデータ管理・分析・コミュニケーションなどについて、各国・各機関の取組みが共有され、議論が交わされました。
IAEG-SDGsには、特定のテーマについて掘り下げて検討するワーキング・グループやタスク・チームがいくつか設置されています。その中のひとつに、SDGモニタリング体系(指標含む)の開発と運用の経験から学びを得て、将来の国際開発アジェンダのモニタリング体系構築に活かすことを目的としたタスク・チームがあります。会合の最終日の午後、このタスク・チームが取り組むテーマに対応したセッションがあり、セッションの冒頭で緒方研究所にて取り組んでいる「2030年以降の新たな国際開発目標における指標フレームワークに関する研究 」の概要と現在までの研究成果を発表する機会をいただきました。(発表資料はこちら )
発表では、SDGsの目標年である2030年より後の開発アジェンダの指標体系として、全ての国にデータ提供を求めるグローバル指標の数を、今のグローバルSDG指標(現在は234)よりもぐっと絞り込み、その代わりに各国・地域がそれぞれの政策、文脈、ニーズに応じて設定するカスタム指標の役割を強化する提案や、グローバル指標の数を指標間の相関関係を使って絞り込むための統計的手法の提案などを紹介しました。発表後の質疑応答の時間には5人の参加者から質問やコメントが寄せられ、提案された指標フレームワークに賛同するといった意見があった一方、統計的手法のみに依存してグローバル指標の絞り込みを行うことには問題点もあるので他の手法と組み合わせて使うことが必要といった指摘もありました。セッション後のコーヒー・ブレークの時間にも何人かの参加者から個別に質問やコメントをいただき、総じて研究内容への高い関心が寄せられたという感触を得ました。
2030年より後の開発アジェンダについて、国連で公式に議論が始まるのは2027年9月になる見込みですが、議論の開始に先立ち、今回のような専門家・関係者が集まる会合に参加して意見を交わしながら、より実効性が高く効率的な指標体系の在り方を模索し、これから始まる次の指標体系の在り方の議論に貢献していきたいと思います。
緒方研究所にて取り組んでいる指標フレームワークに関する研究についてより詳しく知りたい方は、ぜひ下記の研究プロジェクトページもご覧ください。
※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。
■プロフィール
佐藤 一朗(さとう いちろう)
JICA緒方貞子平和開発研究所上席研究員。1997年に国際協力事業団(当時)に入団。メキシコ事務所、ブラジル事務所、防災グループ、気候変動対策室などを経て、2022年より現職。2018~2020年にWorld Resources Instituteに出向。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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