【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第2回】大学教員の海外留学はその後の教員の学術活動や大学の国際化にどのような効果をもたらすか?
2026.02.06
全4回の本コラムシリーズでは、「開発インパクト」を学術的にどのように測るかを紹介します。農業、教育、保健、インフラの分野を例に、多様な研究手法を取り上げながら、国際的な学術水準に基づくエビデンスが政策や事業の改善にどのように役立つのかについて考えていきます。今回は、研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究-アセアンの主要大学の教員の海外留学経験をもとに- 」について取り上げます。
20世紀末より、グローバル化の進展にともない、学術の世界は国際化し、世界の留学生数は急速に拡大しました。日本においても、文部科学省やJICAによる大規模な留学生受入れプログラムが実施されています。しかしながら、これまで、帰国した留学生が所属組織や社会に与えるインパクトについての研究は多くありませんでした。
そこで、JICA緒方研究所は、大学教員を例にとり、その留学のインパクトについての研究をおこないました。この研究では、2018年から2024年にかけて、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ベトナムの主要な大学において、大学教員の海外留学がその後の教員の学術活動や大学の国際化にどんな効果をもたらすかを調べました。研究の方法は、質問紙調査とインタビュー調査の二つです。留学経験者と非経験者の教育・研究活動や国際ネットワーク形成の違い、大学の国際化への影響などを比較、分析しました。
調査では、留学を経験した大学教員に特徴的な傾向が見られました。特に、留学経験が国際的な教育や研究に与えるインパクトは、国内での活動に与えるインパクトよりも大きいことが分かりました。外国語での授業の実施や海外の大学との交流、国際的なプログラムの開発に必要な知識や技術が、留学経験により高まったと考える教員が多くいました。研究面でも、国際学会での発表や海外の研究者との協力、外国語での論文執筆など国際的な活動への影響が大きくなっていました。
一方で、国内の教育活動にも内容や方法の変化があり、学生が主体的に参加できる授業づくりや教材開発などの工夫が進みました。こうした違いは、留学中に外国語で研究を進めた経験だけでなく、国際的な場で得た経験や自信が重要な役割を果たしていることを示しています。さらに、留学中に築いた学術ネットワークを活かし、帰国後に新しい国際的な取り組みや交流を広げる動きも見られました。
またこの調査から、次の3つの示唆が得られました。まず、大学教員の留学が教育や研究の質を高め、大学の国際化に大きく貢献するという事実を、教育政策に反映する必要があること。次に、途上国において留学の果たす役割は大きいですが、国内の高等教育も発展させる必要があり、留学促進と国内就学促進のバランスをとる必要があること。そして、留学先の国をもっと多様化し、幅広いネットワークを築いて異なる国の強みを自国の教育現場に活かすこと。これらの視点は、途上国の高等教育の発展に欠かせません。
この研究では、まず質問紙調査を実施しました。調査はオンラインで実施するとともに、本研究の協力者である現地の研究者により紙の質問紙を配布、回収、データ化するという方法も併用しました。質問は数値化可能なものと、一部記述式の質問も含めました。こうして留学経験者と非経験者、合わせて約3,000件の回答を集め、統計的な分析を行いました。
さらに、数字だけでは見えない背景を探るため、100人以上の留学経験者を対象にインタビュー調査を行いました。個別インタビューに加え、大学運営に関わる教員を集めたフォーカスグループインタビューも実施し、教員の留学経験が個人の教育・研究活動や大学の国際化にどのような影響を与えているのかを深掘りしました。こうした質的な情報は、統計データ分析から得られる示唆に厚みを加え、研究の理解をより豊かにする役割を果たしました。
本研究を進める上で最も苦労した点は、コロナ禍において質問紙調査の回答収集がなかなか進まなかったことです。研究期間を延長せざるを得ませんでした。また、大学によっては、質問紙調査を大学独自のシステムを用いて実施したことにより、収集したデータが統計的な分析に適さない形式になり、データクリーニングに多くの時間を要したという苦労もありました。しかしこうした研究に必要な作業を丁寧に行うことで、最終的に大規模なデータから信頼性の高い分析結果を得ることができました。
この研究成果は学術書籍として出版され、2025年には北米の比較・国際教育学会(Comparative and International Education Society: CIES)で学会賞を受賞しました。現在はフォローアップ調査として、日本に留学したインドネシアの大学教員を対象に国際的な人材の往来について新たなインタビュー調査を行っており、学術論文等の執筆も進行中です。こうした知見は、留学プログラムや教育政策の改善にも役立つと期待されています。
※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。
■プロフィール
日上 奈央子(ひかみ なおこ)
JICA緒方貞子平和開発研究所リサーチ・オフィサー。大阪府公立中学校理科教員、JICA青年海外協力隊モンゴル国理科教育職種、JICA人間開発部基礎教育グループ基礎教育第一チームジュニア専門員などを経て、2021年より現職。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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