ブルンジ: エスニック紛争の予防に「権力分有」は有効 — 武内進一上席研究員

2010.11.24

地球上で決してなくならない紛争。アフリカ中部のブルンジとルワンダではかつて同じように、「フツ」、「ツチ」という2つのエスニック集団を対立軸に激しい紛争が起こりましたが、その後の情勢と紛争予防に効果的な政治制度のあり方を探るべく、JICA研究所の武内進一上席研究員は2010年10月25日から11月16日までの約3週間、ブルンジで現地調査を実施しました。

ブルンジの事例をルワンダと比較

隣接するブルンジとルワンダはともに、エスニシティに起因する紛争が20世紀後半に激化し、両国合わせて100万人にも上る死者、200万人以上の難民を出すなど大惨事を引き起こしました。

現在は両国とも一定の秩序は保たれています。しかしその政治体制は対照的です。ルワンダでは、内戦に勝利したツチ系の「ルワンダ愛国戦線(RPF)」が権力を独占しているのに対し、ブルンジは05年に、エスニック集団ごとに政治ポストの割合を定めた「権力の分有」(表参照)を盛り込んだ憲法を制定しました。

今回の調査では、ブルンジが選択した政治体制である権力分有が施行から5年経ち、その効果を現地の人々の話をもとに分析することです。これは、JICA研究所の「アフリカにおける暴力的紛争の予防」研究プロジェクトの一環であり、世界でも希少なブルンジの事例研究を通じ、紛争の予防策を見出そうとするものです。

武内上席研究員は現地で、第一副大統領府官房長(ツチ系)や第二副大統領府副官房長(フツ系)、フツ系政党「ブルンジ民主主義戦線(FRODEBU)」の議長、ツチ系政党「国民進歩連合(UPRONA)」の議長、地方のコリーン(最小の行政単位)長、国際機関の担当者など合計40人以上を対象に聞き取り調査しました。

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現地調査の移動中に車窓から見たブルンジの典型的な町。フツとツチが混住している

その結果、まず明確になったのは、ブルンジ政府の権力分有政策をすべてのヒアリング対象者が支持し、その中身は実際に順守されているという現状です。そしてそれを掘り下げて分析していくと、興味深い現状が見えてきました。

プラスの効果としては、エリートの間に限れば、政治闘争のあり方が変わったということです。武内上席研究員は「エスニシティはもはや重要なファクターではなくなっている。ツチかフツか、という単純な対立軸は消えたのでは」と指摘します。

「エスニックな対立軸」が政治から外れたという事実は、紛争予防にとって大きな意味を持ちます。紛争にはさまざまな要因がありますが、なかでもエスニシティに起因する紛争は、ブルンジとルワンダの悲劇であらわになったとおり「動員力が強くて危険」という特徴があります。多くの場合、民衆を動員するのはエリート層です。

権力分有でも与党は支配を強めていた

その一方で、権力分有政策には限界があることも今回の調査で浮き彫りになりました。武内上席研究員が指摘するのは、権力分有という枠組みがあっても、政権与党「民主主義防衛国民会議・民主主義防衛勢力(CNDD-FDD)」は重要なポストを占めることで、権力の独占傾向を強めていたという意外な事実です。権力独占に伴う汚職も顕著で、CNDD-FDDに対する失望や怒りの声は大衆レベルでも増えています。

こうしたことを背景に、CNDD-FDDと同じフツ系政党の「解放国民勢力(FNL)」はテロ活動を展開し、CNDD-FDDとの対立を深めています。FNLをはじめとする複数の政党は、10年に実施された一連の選挙をボイコットし、候補者を出さなかったという事実からもその深刻さはうかがわれます。これは、エスニシティに代わる新たな対立軸となっています。

また、権力分有が効果をもたらさない分野もあります。「脆弱なガバナンス」と「低い生活水準」がそれに当たります。

CNDD-FDDはこれまで、医療や教育を無償化するなど、大衆の支持を獲得するための政策を打ち出し、支持基盤を固めてきました。しかし財政上の問題から、こうした「バラマキ政策」がいつまで継続できるかは不透明です。前述の汚職のひどさも政治不信につながるだけに、紛争の要因となりかねません。

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首都ブジュンブラの中心地に建つモニュメント。右はンダダエ元大統領(フツ)で、左は、ブルンジの独立運動を率いたルワガソレ皇太子(ツチ)。2人とも、過去の紛争のなかで暗殺された

治安の悪さを問題視する声もあります。武内上席研究員に対して、UPRONAの議長は「ブルンジは、ルワンダと比べて治安が悪い。強権的なルワンダの体制のほうが望ましい。アフリカに民主主義は無理。ブルンジもルワンダのように、警察当局の取り締まりを厳しくして治安を回復させるべき」と明言しました。この発言の意味するところについて武内上席研究員は「現行憲法の下ではツチが政権をとることは不可能。不満を示唆しているのでは」と推測します。

庶民レベルの生活水準では、貧困をいかに克服できるかが紛争予防の大きなポイントです。失うものがなければないほど人々は紛争に向かう傾向が強くなるのは過去の研究でも証明されています。

50万のフツ難民が国外から帰還中

エスニック紛争に発展する危険があるという点で最大の懸案事項は「土地問題」です。72年の内紛では、20万人ものフツが虐殺されたといわれ、50万人に上るフツ難民が国外に脱出しました。新政権の発足後、難民は徐々に帰還し始めていますが、30年以上も離れていた土地はすでに別の人に占有されています。ツチが占拠しているケースも少なくありません。

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ツチの国内避難民キャンプ

しかしそのツチも、93年の内紛ではフツに襲われました。村を追われて、今でも国内の難民キャンプで生活しているツチ難民もいます。土地が限られる中、農民同士がいかに平和的に妥協できるのか。この問題がエスニックな性格を帯びる可能性は拭い去れません。

以上の考察から、武内上席研究員は「ブルンジでは、権力分有制度の導入によってエスニックな問題が完全に解決したとまではいえないが、エリートレベルでは沈静化した。エリートの権力闘争の中で動員の道具としてエスニシティが利用される恐れも当面なくなった。対照的に、より強権的な政治体制をとるルワンダは、現状ではブルンジより治安が安定しているものの、いったん紛争が起きればエスニシティを通じて多くの人々が動員され、膨大な犠牲を出す危険は消えていない」との見解を示しています。

関連研究領域:平和と開発

関連研究プロジェクト:アフリカにおける暴力的紛争の予防

関連ファイル

開催情報

開催日時:2010年10月25日(月)~2010年11月16日(火)
開催場所:ブルンジ

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