青年海外協力隊(JOCV)研究と人類学の関連性に焦点を当てた第2回研究セミナーを開催

2014.03.31

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JICA研究所では、研究プロジェクト「青年海外協力隊(JOCV)の学際的研究」を立ち上げ、人類学や政治学などの様々な学問から、JOCV事業の研究・分析を行っています。同研究プロジェクトの一環として、研究成果の発信やネットワークを構築する目的で不定期にJOCVセミナーを開催しており、3月19日にJICA市ヶ谷で、「地域社会を見る目-協力隊と人類学」と題したセミナーを実施しました。今回は、昨年9月19日に行われた第1回に続き、第2回目の開催となります。

冒頭、加藤宏JICA研究所所長が開会挨拶を行った後、佐藤峰研究員より、本セミナーの趣旨説明を行いました。佐藤研究員は最初に、人類学の特徴である、参与観察とインタビューによる長期の現地調査を通じて、地域の人々や社会の「ありのまま」を捉えようとする基本姿勢があることを説明しました。それが「現地の人々と共に」というスローガンに象徴されるJOCVの基本姿勢と親和性があり、研究(人類学)と実務(JOCV)の協働の可能性があることを指摘しました。

次に登壇した駒沢女子大学の亘純吉教授は、JOCVの技術顧問として派遣前研修を長年担当している立場から、「フィールドワークの知を伝える」と題した発表を行いました。研修用のJOCVハンドブックでは、求められる資質の一つに「異民族社会における人間行動様式を観察し、理解し得る文化的素養」が挙げられています。そのなかで、文化の理解がJOCV活動の前提となっていることに言及し、「文化とは何か」を問う人類学的視点からJOCV活動における意義について論じました。特に強調されたのは、「対象となる社会の人々を見るのではなく、その人々がどのように見ているかを観察」することや、「人々の、ものの見方と我々のそれとの差異と共通点の認識」という人類学的な視点の重要性です。亘教授は、こういった視点を持って初めて、1)特定の現場において固有名詞の人々との対話や交流に向き合い、試行錯誤を通じて人々の目線から諸問題の実現可能な解決策を提示できること、2)相互理解が出来ること、3)自己成長が果たされ日本社会へ還元されていくことが可能となること、つまりJOCV事業が掲げる三つの目的が果たされることを強調しました。

続いて筑波大学の関根久雄教授は、自身の隊員経験やその後の研究成果を基に、「太平洋島嶼国と青年海外協力隊-地域性の視点から」と題した隊員論ともいえる発表を行いました。関根教授は、現在民族学博物館において開発援助における感情と実践にかかる研究に携わっており、ソロモン諸島で行ったJOCVへのインタビューを用いて、JOCVの感情の変化を地域的な特性から読み解くこと試みています。太平洋島嶼地域では、豊富な自然資源があることから自給自足的生活を重視する傾向や、伝統社会での互酬的な人間関係のしがらみもあることから、「無くても何とかなる、何とかなるからやらない」と考える傾向があり、新しいことを受け入れにくい素地があることを説明しました。このような地域に派遣された隊員は、一見「やる気のない」人々の様子に自らの存在価値そのものに悩むことが多いと言われています。しかし、人類学的な相対化の視点を持つことで、「やみくもに産業振興を図るだけが道ではない」ことを理解し、また現地の人々は「やる気がない」側面もありますが、それは「寛大で優しくおおらか」であると考えるようになります。そして成果に固執しないといった感情の変化が見られると指摘しています。そしてJOCV事業の最大の成果は、太平洋島嶼国において「隊員への良好な記憶」と「ボランティア自身の成長」ではないかと発表を締めくくりました。

本セミナーには60名以上の参加があり、発表終了後のフリーディスカッションでは、JOCV事業の成果や人類学者による開発援助の見方などについて、活発な質疑応答や意見交換がなされました。

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開催情報

開催日時:2014年3月19日(水)
開催場所:JICA市ヶ谷

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