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ナレッジフォーラム「ビジネスの力を途上国のSDGs推進につなげるためには―ブルッキングス研究所との共同研究成果を踏まえて―」開催

2025.04.03

2025年3月5日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、ナレッジフォーラム「ビジネスの力を途上国のSDGs推進につなげるためには―ブルッキングス研究所との共同研究成果を踏まえて― 」を開催しました。ブルッキングス研究所との共同研究 の成果として発刊された書籍『For the World’s Profit: How Business Can Support Sustainable Development 』の執筆者や有識者とともに、民間企業や投資家によるサステナブル・ファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)を後押しし、開発途上国の課題解決につなげる「エコシステム」をどのようにつくっていくか議論しました。

※同書は以下のページから無料でダウンロードできるほか、和文の書籍紹介もご覧になれます。

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)推進に向けたエコシステムの進化を知る

JICA緒方研究所の宮原千絵副所長(当時)の開会あいさつに続き、第一部では同書の編者や著者が内容を紹介しました。

編者の一人を務めたブルッキングス研究所シニアフェローのホミ・カラス 氏はビデオメッセージを寄せ、ビジネス、金融、政策立案者という3つのアクターに焦点を当ててまとめた同書の各章を概説。それぞれの著者による全く異なる視点からの考えを理解することで、エコシステムがどのように進化しているか把握できるのが同書の特徴と述べ、「この社会をより良くするためには民間セクターの力が不可欠」と論じました。

映像:【民間セクター】SDGs達成に向けた民間ビジネスの貢献:「For the World's Profit」書籍【JICA緒方研究所:書籍紹介】

【民間セクター】SDGs達成に向けた民間ビジネスの貢献:「For the World's Profit」書籍【JICA緒方研究所:書籍紹介】(Youtube)

同書の第11章「The Institutionalization of Corporate Contributions to the SDGs in India」を執筆したJICAの松本勝男上級審議役は、2013年に民間企業のCSR(企業の社会的責任)を義務化したインドの事例を説明。CSR事業の支出額は2022年度に5,000億円規模に達するなど大きな成果を出しており、CSR事業を行う地域や分野に偏りがあるといった課題はあるものの、企業による社会貢献の主流化やSDGs達成への寄与という点でCSR義務化の意義を強調しました。

写真:インドの事例を紹介したJICAの松本勝男上級審議役

インドの事例を紹介したJICAの松本勝男上級審議役

第13章「How the Japanese Business Community Has Embraced Sustainability」を執筆したJICA緒方研究所の佐藤一朗 上席研究員は、日本ではなぜ急にSDGsの認知度が上がったのか、SDGsの認知度向上に向けた政府、マスコミ、自治体、民間セクターによるさまざまな取り組みを紹介。ただし認知度の上昇が持続可能な社会にどの程度貢献しているかの評価はこれからとし、「SDGs推進の過程で“良き企業市民”を育成することが重要ではないか」と述べました。

写真:日本でのSDGs認知度向上の取り組みを説明したJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

日本でのSDGs認知度向上の取り組みを説明したJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

編者の一人を務めた京都大学の牧野耕司特定教授は、同書を読み解くキーワードとして、「ESG(Environment, Social and Governance:環境、社会、ガバナンス)」「サステナブル・ファイナンス」「企業による価値創造、リスク管理、説明責任の適切なバランス」を提示。ブルッキングス研究所との共同研究の中で、JICA緒方研究所は先進国や大企業だけではなく、開発途上国や中小企業にも焦点を当てた議論を大切にしたことにもふれました。

写真:書籍の説明のほか、モデレーターも務めた京都大学の牧野耕司特定教授

書籍の説明のほか、モデレーターも務めた京都大学の牧野耕司特定教授

官民が共創することで生み出せる新たな一歩

第二部では、「ビジネスの力を途上国のSDGs推進につなげるためのエコシステム作り」をテーマに掲げ、牧野特定教授がモデレーターを務め、パネルディスカッションが行われました。

外務省の「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議 」の座長を務めた政策研究大学学院大学の大野泉 名誉教授(JICA緒方研究所シニア・リサーチ・アドバイザー)は、「本書を通じて、リスク管理の重要性、エコシステム・アプローチの有用性、インパクト評価の手法や基準の在り方といった課題が横断的に浮き彫りになった。さらに、開発途上国でのサステナブル・ビジネス推進のためには、開発協力アクターや現地アクターがエコシステムにより積極的に参画することが重要」と指摘。また、同有識者会議による提言も紹介し、官民の継続的な対話と共同の場づくりの重要性を強調しました。

写真:オープンなエコシステムづくりが重要と述べた政策研究大学学院大学の大野泉名誉教授

オープンなエコシステムづくりが重要と述べた政策研究大学学院大学の大野泉名誉教授

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社の渋澤健CEOは、「インパクト投資」の変遷を解説し、従来の「リスク」と「リターン」に加えて「インパクト」を測定し、課題解決を資本主義における評価尺度にしていく必要があると説明。開発途上国へのインパクト投資に向けた政府機関と民間セクターの取り組みの事例として、経済同友会とアフリカ開発銀行によるファンド運営会社である株式会社and Capitalの設立や、世界各国から100社以上が参加するグローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ(トリプルI)も紹介しました。

写真:インパクト投資について解説したシブサワ・アンド・カンパニー株式会社の渋澤健CEO

インパクト投資について解説したシブサワ・アンド・カンパニー株式会社の渋澤健CEO

公益財団法人味の素ファンデーションの高橋裕典氏は、味の素株式会社が2009年にスタートさせた離乳期の子ども向けサプリメント(KOKO Plus®)を通じたガーナ栄養改善プロジェクトを紹介。持続可能なエコシステムになるよう有償での販売にこだわり、苦節10年をかけて官民が連携したことで、ガーナのビジネスを通じた栄養改善のソーシャルインフラとなったと説明しました。JICAが関与した母子手帳プロジェクトと、KOKO Plus®の全国での官民連携活動をベースに、ODAを触媒とした異業種の民間企業三社の共創により、栄養×ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)×人材育成をデジタルトランスフォーメーション(DX)で加速させる日本らしいアプローチが可能になったことも紹介しました。

ガーナでの取り組みを紹介した公益財団法人味の素ファンデーションの高橋裕典氏

ガーナでの取り組みを紹介した公益財団法人味の素ファンデーションの高橋裕典氏

JICAの平田仁上級審議役は、SDGs実現のためには巨大な資金ギャップが発生している一方で、民間企業が社会課題の解決に直接貢献する事例が増えていると指摘。JICAが民間企業との共創を通じて社会課題解決を推進している事例として、キルギス やタイなどでの取り組みを紹介し、「JICAが共創することで開発途上国での民間ビジネスがより大きくなっていくことを目指す」と述べました。

写真:民間企業との共創についてのJICAの取り組みを説明したJICAの平田仁上級審議役

民間企業との共創についてのJICAの取り組みを説明したJICAの平田仁上級審議役

続くパネルディスカッションでは、キーワードの「エコシステム」を掘り下げ、大野名誉教授は「開発協力のさまざまなアクターと民間企業が受発注の関係を超えて『共創』できるチャンスはたくさんあり、お互いの強みを生かすオープンなシステムの構築が必要」、平田氏は「さまざまな企業やアイデアをつなげるプラットフォームづくりや、投資環境整備といった政策制度づくりをJICAが担っていきたい」とコメント。渋澤氏は「援助に頼りきると予算が途切れると終わってしまうかもしれないが、企業が価値を作り出し、売り上げと利益につながることに、資本家が支えることでエコシステムが回り始める」と述べ、高橋氏も「継続するためには、その商品などが持つ価値が現地にとって“なくてはならないもの”にする必要がある」と応じました。さらに、日本の強みや未来への展望についても、それぞれの視点から意見が交わされました。

YouTube

当日の動画は以下からご覧になれます。

動画:JICA緒方研究所ナレッジフォーラム 「ビジネスの力を途上国のSDGs推進につなげるためには」―ブルッキングス研究所との共同研究成果を踏まえて―

JICA緒方研究所ナレッジフォーラム 「ビジネスの力を途上国のSDGs推進につなげるためには」―ブルッキングス研究所との共同研究成果を踏まえて―

当日のプログラムなどは、以下からご覧ください。

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