セミナー「強制移住と人道アクション」でデータに基づく対応、政策調整、包摂的なプログラム立案の重要性を議論
2025.06.10
2025年1月30日に行われた書籍『Forced Migration and Humanitarian Action: Operational Challenges and Solutions for Supporting People on the Move 』発刊セミナーに続き、翌31日には、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)が上智大学比較文化研究所とセミナーを共催し、強制移住と人道アクションについての議論を続けました。JICA緒方研究所の折田朋美 主席研究員がモデレーターを務め、国際機関、非政府組織、研究機関の専門家を迎えて、強制移住、強制移住者の追跡、インクルーシブな人道アクションのさまざまな側面について考察しました。
開会のあいさつに立ったJICA緒方研究所の宮原千絵副所長(当時)は、紛争、自然災害、気候変動、貧困が、継続して多面的な危機を引き起こしている状況について述べました。人道・開発・平和の連携の推進に対するJICAのコミットメントを強調し、人道支援への知見をもたらす研究者と実務者の貢献に対して感謝を述べました。
開会のあいさつに立ったJICA緒方研究所の宮原千絵副所長(当時)
JICA緒方研究所のリセット・ロビレス 客員研究員は、JICA緒方研究所による3年間の研究プロジェクト「強制移住をめぐる人道アクションの進展に関する研究 」の成果として発刊された同書のポイントと目的を説明。ジェンダー、障害者、避難民のモニタリングなど、さまざまな観点から強制移住について考察した同研究プロジェクトを紹介し、移住を余儀なくされた人々が直面する課題と人道支援の有効性について、事例を挙げながら説明しました。同研究プロジェクトでは、危機的状況にある人々のために人道アクションを適応させる必要性を強調し、危機対応における人間の安全保障の役割を浮き彫りにしているとしました。また、プロジェクトの成果である同書とガイダンスノート を通じて、研究と人道アクションの実務を結びつけることができると説明しました。
JICA緒方研究所のリセット・ロビレス客員研究員
Christian Blind Mission
(CBM)のOliver Neuschaefer氏は、CBMでの活動をもとに、障害インクルーシブな人道アクションについて発表。人道支援の方針を決定し、人道支援において障害者が対象から外れないようにする上で、国連障害者権利条約が果たす役割について述べました。
Neuschaefer氏は、アクセシビリティの課題、差別、人道支援プログラムからの排除など、危機の最中に障害者が直面する障壁を取り上げ、真にインクルーシブな人道支援を実現するためには、データ収集の改善、政策の改革、障害者団体との関係強化が必要だと訴えました。
Christian Blind MissionのOliver Neuschaefer氏
国際移住機関 (International Organization for Migration: IOM)のNikki Herwanger氏とAlexandra Bate氏は、IOMのDisplacement Tracking Matrix (DTM)を紹介。移住データの追跡と分析におけるDTMの役割について述べ、移動する人々の保護、強制移住への解決策の推進、移住経路の円滑化というIOMの3つの目標に対してDTMがどのように役立つかを説明しました。移動の追跡、移動の流れのモニタリング、登録業務、調査といったDTMの手法を説明し、その影響力の例として、2023年にリビアで「ストーム・ダニエル」と呼ばれる大雨が発生した際の対応を挙げました。
最後に、人道アクションにおけるDTMの重要性を強調し、さらなる協力を呼びかけました。DTMのデータはIOMのプログラム、人道組織、政府、開発アクターを支援し、機関間の常設委員会(Inter-agency Standing Committee: IASC)の運用ガイドラインといったデータへの責任に関する機関間の枠組みにも貢献していることを示しました。
国際移住機関(IOM)のNikki Herwanger氏
国際移住機関(IOM)のAlexandra Bate氏
IOMのGlobal Migration Data Analysis Centre のIrene Schöfberger氏とSalma Hazem Nooh氏は、子どもの強制移住に対する人道支援プログラム立案におけるデータに関する課題として、更新されない国勢調査の情報、手法の一貫性のなさ、強制移住の子どもへのアクセスの難しさ(特に接触を避けている場合)などを挙げました。これらによってプログラム設計、アドボカシー活動、資金調達が妨げられ、最も弱い立場にある子どもを支援することが困難になっているとしました。
北アフリカと南ヨーロッパでについての事例研究では、人道的責任の所在が明確でないこと、子どもの移住者のニーズと対処戦略に関するデータが限られていることによる保護措置の不足が示されました。これは人道支援と長期計画の作成に影響を及ぼすため、こうした課題に対処するには、代理指標、マクロレベルとミクロレベルのデータの統合、業務の中で得たデータの活用といった解決策が有効だと述べました。
IOM Global Migration Data Analysis Centre(前職)のIrene Schöfberger氏
IOM Global Migration Data Analysis Centre(前職)のSalma Hazem Nooh氏
Internal Displacement Monitoring Centre (IDMC)に所属していたLouisa Yasukawa氏は、国内避難民(Internally Displaced Populations: IDP)の追跡におけるIDMCの役割について発表しました。世界の国内避難民は、その数で難民や亡命希望者を上回るにもかかわらず、メディア、研究、政治的議論では、国外移住者に比べて注目を集めにくいことを強調しました。
また、UNHCR勤務時にエクアドルで携わった、再定住を求めるコロンビアとベネズエラからの難民への支援についても振り返り、そうした難民の多くは、越境する前に、複数回、国内避難民となっていたことを指摘。Yasukawa氏は、社会から取り残されたグループが直面するリスク、人道支援プログラムへのアクセスにおける障壁、インクルーシブなプログラム立案、アクセス可能な情報、ジェンダーや障害のインクルージョンを実現できる手法に関するトレーニングの必要性を強調しました。
Internal Displacement Monitoring CentreおよびUNHCR(前職)のLouisa Yasukawa氏
Platform on Disaster Displacement (PDD)プログラムマネージャーの Lorenzo Guadagno氏は、災害による強制移住に関する世界的政策を各国の対応に結びつけるというPDDの役割について述べました。自然災害や気候変動による強制移住は、災害の前、災害の最中、災害後にわたって起こり得るため、短期的にも長期的にも脆弱性を生み出す可能性があるものの、政策では見落とされていることを指摘しました。
Guadagno氏は、PDDはバングラデシュやフィジーなどの国々で政策策定を支援し、IOM、UNHCR、赤十字社との連携を通じて、災害への備え、避難訓練、避難所の管理に取り組んでいると説明し、ケニアなどの複数の国で実施されている国境を越えた避難訓練の事例も紹介。最後に、災害による強制移住への対応を強化するため、政策策定、意識向上、現地での備えが継続的に必要であることを強調しました。
Platform on Disaster Displacement プログラムマネージャーの Lorenzo Guadagno氏
プレゼンテーションに応えてコメントを述べた上智大学国際教養学部のDavid Slater教授は、さまざまな研究者を動員して重要なトピックに取り組んだ本書への賛辞を述べる一方で、学術界を超えて、より広い人々に声を届ける必要性も強調しました。JICA、UNHCR、IOMなどの組織が、さまざまな講義の実施やコースへの資金提供、さらにグラフィックノベル、映画、ゲーム化(ゲーミフィケーション)といった新たな手法を通じて大学や学生との交流を広げることを推奨しました。学生たちは現実世界の課題に取り組みたいという熱意を持っているものの、取り組むためのプラットフォームが限られるという問題も提起しました。
また、最前線で活動するNGOにとっては、学術研究に取り組む時間とリソースが不足しているとし、資金源として企業との提携を提案しました。最後に、当事者と共に研究を行うことの必要性を強調し、難民や亡命希望者が学生と連携して研究を進める上智大学のプロジェクトを紹介。より幅広い層の人々に研究成果を伝えるため、あらゆる人に届く新しい方法を見つけることが重要だと強調し、コメントを締めくくりました。
コメントした上智大学国際教養学部の David Slater教授
プレゼンテーションの後には参加者からの質疑応答があり、活発な議論が行われました。
当日の動画は、以下のリンクよりご覧いただけます。
セミナーのプログラムはこちら からご覧いただけます。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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