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佐藤上席研究員と成田客員研究員が気候変動下における都市洪水リスク分析結果をスリランカのステークホルダーと議論

2025.09.03

2025年6月30日~7月5日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の佐藤一朗 上席研究員と成田大樹 客員研究員(東京大学大学院教授)は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「都市洪水対策事業に関する気候変動適応効果の定量評価研究 」の一環でスリランカを訪問しました。

写真:佐藤一朗上席研究員らが研究対象流域の地方行政官と分析結果について議論

佐藤一朗上席研究員らが研究対象流域の地方行政官と分析結果について議論

気候変動の影響は年を追うごとに顕在化しており、開発途上国の多くは、その危機感から気候変動適応策への開発協力支援を強く期待しています。しかし地域や時期による気候の予測困難さや社会・経済的要因の変動などから、適応策の効果を定量的に評価することは困難です。本研究プロジェクトでは、この課題に対し、不確実な状況における意思決定支援手法の一つである「Robust Decision Making(RDM)Framework」を用いて、気候変動適応策の効果を評価する手法を提案することを目指しています。具体的には、気候の変化、都市化に伴う人口増加、土地利用変化の影響によって将来の洪水リスクの増大が懸念されているスリランカのコロンボ都市圏の流域を対象に、JICAによる技術協力で2023年に策定された雨水排水事業マスタープラン で提案された事業が気候変動適応策としてどのような効果があるか分析しています。

今回の訪問では、2024年に研究チームが実施した第1次分析結果を、本研究プロジェクトのカウンターパートであるスリランカ土地開発公社をはじめとする現地ステークホルダーと共有し、第2次分析に向けた分析フレームワークの改良に向けて意見交換を行いました。

佐藤上席研究員はさまざまなシミュレーション分析結果を示しつつ、事業成果指標として、洪水浸水深、洪水による経済損失、浸水家屋数、浸水期間、費用便益比などを挙げて説明。分析結果のまとめとして、(1)気候変動に伴い、将来、都市洪水の影響はより頻繁かつ深刻化する可能性が高いこと、(2)マスタープランで提案されている構造物対策はあらゆる将来シナリオの下で洪水被害リスクを大幅に軽減するが、一部の特に厳しいシナリオ(例:気候変動による24時間最大降雨量の大きな増加、大幅な海面上昇、本川であるケラニ川の高水位の組み合わせ)に対しては依然として脆弱性があること、(3)湿地開発のシナリオは将来の洪水リスクに大きな影響を与えること、(4)半恒久的住宅およびバラックは、その立地と構造上、洪水に対して特に脆弱であることを示しました。

写真:カル・オヤ流域とムドゥン・エラ流域を連結する細い水路。付近では頻繁に氾濫が発生する

カル・オヤ流域とムドゥン・エラ流域を連結する細い水路。付近では頻繁に氾濫が発生する

写真:河川沿いの氾濫危険地域に建つ貧困層の住宅

河川沿いの氾濫危険地域に建つ貧困層の住宅

この分析結果について、スリランカ土地開発公社は高い関心を示し、政策決定者向けに提供したいという声があったことから、ポリシー・ノート などにまとめる予定です。このようにJICA緒方研究所では、研究成果の発信だけでなく、研究の過程で得られた知見や提言をタイムリーに政策決定者や開発実務者にフィードバックすることを目指しています。また、同研究プロジェクトを連携して実施している国際水管理研究所、英国キングズ・カレッジ・ロンドン、非営利団体AmbioTEKの研究チームからもさまざまな示唆が得られました。今後は、ステークホルダーから得た意見を反映して第2次分析を行い、コロンボ都市圏の流域における気候変動影響と社会経済状況の将来の変化の可能性を踏まえ、都市洪水対策/湿地管理の選択肢の有効性と価値を評価することを目指します。

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