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『移民がむすぶ日本と南米の歴史―帝国・開発・官民協力―』書籍発刊セミナー 開催

2026.05.20

2026年3月12日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、研究プロジェクト「南米における日本人移民に関するトランスナショナルな歴史研究:移民事業、経済開発と文化活動を中心に 」の最終成果である書籍『移民がむすぶ日本と南米の歴史―帝国・開発・官民協力―』 の発刊セミナー を開催しました。本書は、日系移民(日本人移民とその子孫) を軸とした越境的な近現代史の再考に取り組み、日本からの移民送出と南米の受入国での日系移民の経験を双方向から論じるとともに、官民一体となって行われた移住事業や移植民教育の実態についても考察しています。

開会あいさつを述べたJICA緒方研究所の峯陽一 研究所長は、日本と南米をつなぐ移民の歴史は古く、1886年に日本人がアルゼンチンに移住して2026年で140周年を迎えることを紹介。本書の編者による「遠く離れた日本と南米を行き来した人々がつないだ友好関係は、歴史から教訓を得ることで、今後ますます発展していく」という言葉を挙げ、本日の議論がその契機となることに期待を寄せました。

南米への日系移民を歴史の主体として捉える

まず、同研究プロジェクトの主査であり、本書の編者を務めた大阪大学グローバル日本学教育研究拠点のガラシーノ・ファクンド特任講師(元JICA緒方研究所客員研究員)が書籍の概要を紹介しました。日本は、明治から戦後に至るまで、ハワイ、ブラジル、南米諸国へ移民を送り出していた「移民送出国」であったにもかかわらず、移民政策や移民の経験は日本近現代史において軽視されてきたという問題意識を共有。南米への日系移民を南米と日本との間にいる歴史の主体と捉え、その移動と移住先での活動が日本と南米をどのように結び付けたか、移民が運んだモノ、作物、資本、技術などがどのような影響を与えたのか、移民が移住先でどのような役割を果たしたのかを明らかにすることが本書の目的だとガラシーノ特任講師は説明しました。

写真:書籍の編者を務めた阪大学グローバル日本学教育研究拠点のガラシーノ・ファクンド特任講師(元JICA緒方研究所客員研究員)

書籍の編者を務めた阪大学グローバル日本学教育研究拠点のガラシーノ・ファクンド特任講師(元JICA緒方研究所客員研究員)

次に、同じく編者を務めた東京科学大学リベラルアーツ研究教育院の高木佳奈准教授の進行のもと、2人の識者がコメントしました。

近代日本史が専門の北九州市立大学の大熊智之准教授は、本書の特徴は、国民国家を単位とした理解を乗り越え、送出側(日本)・受入側を総合した「越境史」から移民を主体的に分析しており、「それぞれの地域社会に移民が何をもたらしたのかを問うことで、地域と人、地域と行為の関係を再考する必要性を浮かび上がらせた」と述べたほか、「地域社会によらない移民送出のケースにも着目する必要があるのではないか」といった問題も提起しました。

小原学JICA国際協力専門員(元JICA中南米部長)は戦後の日本人移民の観点からコメントし、理念は変わりつつも開発協力につながっていく戦前移民から戦後移民への連続性や、JICAの前身の一つである海外移住事業団による移住先での円滑な定着への取り組みについても紹介。また、「移民を開発主体として評価する視点は重要である一方、移民自身が抱えた困難や脆弱性を見えにくくしてしまうのではないか」という留意点も指摘しました。

写真:コメントした北九州市立大学の大熊智之准教授

コメントした北九州市立大学の大熊智之准教授

写真:コメントした小原学JICA国際協力専門員(元JICA中南米部長)

コメントした小原学JICA国際協力専門員(元JICA中南米部長)

南米への移民を多様な視点から見つめて未来につなぐ

続いて、「移民がむすぶ日本と南米」をテーマに掲げたディスカッションでは、まず高木准教授が2014年にボリビアのオキナワ移住地で行われた入植60周年記念祭典に参加した経験を紹介しつつ、「『世界のウチナーンチュ大会』を開催するなど、今でも沖縄は移住地とのつながりが強い。オキナワ移住地のほうでも、日本語学校の生徒が“沖縄の言葉を残したい”と作文に書いていたのが印象的。移住や日系社会は、過去の歴史ではなく、未来につながるものだと言える」と述べました。

第2章「海外植民学校の教育内容と戦前期パラグアイへの入植」を執筆した早稲田大学日本語教育研究センターの名村優子非常勤インストラクターは、自身がJICAボランティアとしてパラグアイの日本語学校で活動した経験を振り返り、「JICAという組織の理論を背負いながら、現地からは“移住者”として受け止められながらの活動だった」と言及。「なぜ日本から遠く離れたパラグアイに、日本文化を継承した日系人のコミュニティーがあるのか?」という疑問が研究につながったとし、移民に関わるそれぞれのアクターの立ち位置や意図を照らし出して研究を進める必要性を示しました。

第1章「日本の南米移民事業における『官民』協力」を執筆した国際日本文化研究センターの根川幸男特定研究員は、移民事業におけるさまざまなアクターと移民との関係について言及。移民を送り出す地域同士で競争意識があったほか、移民船の中では地域ごとの居住空間が配置されたりしたことで県民意識が醸成されていった例に触れ、「そうした経験が、移住地における県人会の発足など、出身地ごとのアイデンティティーに依る起源につながったのではないか」と語りました。

第3章「救済としての渡航」を執筆した京都外国語大学のフェリッペ・モッタ専任講師は、地域を基盤としない移植民学校での経験が移民実践に与えた影響について、海外移住を指導する機関であった日本力行会(キリスト教に基づいた思想を背景にして設立された機関)を例に説明。「普遍的なキリスト教の枠組みに日本人の移住という特殊な使命を埋め込み、移住とキリスト教を体系的に結び付けた特殊な例ではないか」と述べ、非キリスト教圏である日本からキリスト教圏である北米や南米へ移住する構図について概説しました。

写真:左上から時計回りに、早稲田大学日本語教育研究センターの名村優子非常勤インストラクター、国際日本文化研究センターの根川幸男特定研究員、東京科学大学リベラルアーツ研究教育院の高木佳奈准教授、京都外国語大学のフェリッペ・モッタ専任講師

左上から時計回りに、早稲田大学日本語教育研究センターの名村優子非常勤インストラクター、国際日本文化研究センターの根川幸男特定研究員、東京科学大学リベラルアーツ研究教育院の高木佳奈准教授、京都外国語大学のフェリッペ・モッタ専任講師

質疑応答では、「調査で移民の人々にインタビューするときは、どう言語を使い分けるのか?」「“日系”という概念をどう定義しているのか?」「現在の中南米の日系人学校では日系ルーツではない子どもが多く通っているが、今後の在り方とは?」といった質問があがりました。

最後に、JICA緒方研究所の亀井温子 副所長が閉会のあいさつとして「本書を通じ、日本と南米をつないだ人々の生き様に触れることができる。そこから未来にどう目を向けていくかが問われる。本書を契機に、日系移民研究や現地日本社会との連携がさらに広がり、新たな研究や交流の可能性につながっていくことを期待している」と語り、セミナーを締めくくりました。

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