栄養改善のための取り組み事例

マルチセクトラルなアプローチによる栄養改善への取り組みの事例

モザンビークMultisectoral Enhancement for Nutrition Upgrading

モザンビークは5歳未満児の子どもに占める慢性的な栄養不良の割合が他のアフリカ諸国に比べて高く、栄養改善、特に妊娠中の母親と乳幼児を対象とした取り組みが急がれます。特に国内でもっとも貧困率が高いニアッサ州では、一人一人の生活やニーズに注目し、分野横断的な栄養改善への取り組みを検討するため、2019年から2020年にかけて住民の栄養状態に関する世帯調査を実施しました。その結果、ニアッサ州における発育阻害の削減のためには、「成長過程の適切な時期での補完食の開始」が鍵となるであろうという結果が得られました。各分野のプロジェクトで「栄養改善」という目標を共有し、マルチセクトラルに取り組んでいきます。

参考

日本の栄養改善の経験に関する事例研究「栄養改善・IFNA 推進に資する我が国の優良事例に係る情報収集」

JICAは日本の栄養改善の経験を途上国で活用するという観点から、県別データを用いて戦後日本の栄養状態改善に影響を与えた要因を分析しました。その結果、戦後の日本の栄養状態改善に影響を与えた要因は、経済発展による所得向上のほか、公衆衛生(妊産婦指導等)、公衆栄養(栄養指導等)、農村開発(生活改善普及員の配置等)、生活環境(水道の普及等)、教育(学校給食等)など多部門に渡る様々な施策が含まれることが明らかとなりました。このことから、栄養状態の改善には、単一の施策でなく、マルチセクトラルな視点が必要であること、また、経済成長が本格化する前の国々にとっても、適切な政策・施策により栄養状態の改善が可能であることが示唆されました。

この研究を通じて確認された、マルチセクトラルな取り組みが栄養改善の成功要因のひとつであったという日本の経験・実績を、途上国での栄養改善にむけた取り組みにも活用していきます。

参考

「南アジア地域マルチセクトラルで取り組む栄養改善(世銀連携)」研修コース

経済成長が進む一方、農村地域の貧困との格差が広がる南アジアは、低栄養と過栄養の二重栄養問題をかかえる国が多い。

本コースでは農業、保健、水衛生といったマルチセクトラルな切り口で栄養改善に取り組むべく、中央および地方政府機関の関連行政官が実施計画を立案・実施するのに必要な知識と能力を強化することを目的としています。各国から複数セクターの研修生参加に加え、各国で実施中の世銀の栄養・農業案件の関係者も参加し、同じ研修で情報交換・議論を進めることを通じて、帰国後、JICA・世銀・政府の栄養改善関係の事業連携促進による相乗効果も狙っています。

保健分野の協力を通じた栄養改善の事例

ブラジル日系病院連携協議会-「栄養士プロジェクト」

日本の医療技術、サービスを学んでもらうことを目的に、JICAはブラジルの日系6病院の代表を日本に招きました。それがきっかけとなり、これまであまり交流がなかった日系病院同士がつながり、2018年5月、日系病院連携協議会が発足しました。さらにこの協議会の話し合いの中で、新たに「栄養士プロジェクト」が開始。第1回の協議会でサンタクルス病院が「日本が誇る健康食としての和食をブラジルに普及させることを目指して病院食に和食を取り入れよう」と提案したことから始まったものです。

その後、JICAの協力のもと、九州大学で日本の病院食について学ぶ研修を実施し、参加した帰国研修員が中心となり和食レシピ本「日本の味」をポルトガル語、スペイン語、日本語の3ヶ国語で制作しました。日系以外の病院にも紹介し、健康食としての和食を広めることで、社会全体の健康増進を目指しています。

グアテマラ「プライマリ・ヘルス・ケアを通じた母子栄養改善プロジェクト」(2022年1月~2026年1月)

グアテマラは依然栄養不良の問題を抱えており、特に貧困率の高いトトニカパン県及びキチェ県では5歳未満児の慢性栄養不良(発育阻害)は深刻な状況です。加えて成人・子どもともに過体重、肥満が増加しており、同国は低栄養と過栄養が併存する栄養不良の二重負荷の問題を抱えています。本プロジェクトでは、プライマリ・ヘルス・ケアサービスを提供する保健医療従事者とコミュニティ人材の能力を強化し、コミュニティ人材によるマルチセクトラルな活動を実施することにより、母子栄養の改善を図ります。

モンゴル「学校給食導入支援プロジェクト」(2021年11月~2025年11月)

モンゴルの子どもの栄養状況は、初等教育課程の児童(6歳~11歳)のうち7.3%が発育阻害、2.8%がやせ型と分類される一方、22%は肥満とされ、低栄養・過栄養が混在した状況となっていることから、栄養バランスを確保した食事の提供が課題となっています。本プロジェクトは、教育・農業・保健といった多分野の関係者と協働し、マルチセクトラルなアプローチを取り入れながら、1)入手可能な食材による栄養バランスのとれた給食を提供する環境整備、2)地域特性に基づく給食の提供体制の整備、3)安全で栄養バランスのとれた給食を提供する行政機能の強化を通じ、全国の初中等学校で安全で栄養バランスのとれた給食を提供する準備を整えることを目指して活動しています。

農業分野の協力を通じた栄養改善の事例

タンザニア「SHEPアプローチを活用した県農業開発計画実施能力強化プロジェクト」(2019年1月~2023年12月)

タンザニアで農業は、約7割の人口が従事し、GDPの約25パーセントを占める重要なセクターです。農村人口の約8割は農業に依存して生活していますが、必ずしも市場のニーズを意識したものではないため、収益性が低く、農家の所得向上につながっていません。本プロジェクトでは、同国政府の園芸優先地域において市場志向型の営農に転換することを念頭に、タンザニアにおけるSHEPアプローチ(TANSHEP)を確立させるべく活動しています。活動の一環として、野菜市場拡大と地域母子栄養改善に資することを目的に野菜消費促進キャンペーン(栄養教育、調理実習)、野菜レシピ集の作成を実施しています。

マダガスカル「食と栄養改善プロジェクト」(2019年3月~2024年3月)

マダガスカルでは、5歳未満児における発育阻害の割合が49%と世界で5番目に高い水準にあり、栄養不良が深刻な課題です。本プロジェクトでは、住民の8割が農業を営む中央高地において、農家の所得向上の方法を探り、増えた所得を栄養価の高い食物の購入に充ててもらうことや、家庭菜園で栄養価の高い作物を育て、食事の栄養バランスを改善することを目指して、JICA専門家が現地で活動中です。

ナイジェリア「連邦首都区における栄養改善能力向上プロジェクト」(2019年2月~2024年2月)

ナイジェリアでは、5歳未満児の慢性、あるいは急性の栄養不良が深刻で、この時期の栄養状態は後々の発育・発達に影響を与えます。栄養状態改善に向けて、国レベル、地方レベルで省庁横断的な食料・栄養委員会が設置されているものの、集落レベルでの包括的・実践的な活動との連携は不足している状況です。この協力では、同国中央部に位置するアブジャの連邦首都区において、栄養改善のマニュアル、ガイドライン作成、普及員の能力強化を行うことにより、食を通じた効果的な栄養改善の取り組み方法を見出し、その実施のための体制の構築を図ります。

関連情報

水衛生分野の協力を通じた栄養改善の事例

モザンビーク「ニアッサ州持続的給水システム及び衛生促進プロジェクト」(2021年5月~2026年5月)

モザンビークでは、内戦時に破壊された社会インフラの整備が進んでおらず、中でも村落部における安全な水や衛生施設へのアクセスは南部アフリカの中でも低い水準にあります。ニアッサ州は人口が増加している一方で新規給水施設の建設が進んでいないために、給水率が全国の中でも特に低下傾向にあります。

本プロジェクトでは、対象郡における給水・衛生状況の改善のため、管路系給水施設の設計・施工監理や維持管理能力を強化し、そのノウハウを他の郡に普及・導入することを目指します。合わせて、家庭内での水の適切な保管方法も伝えていきます。これらの活動により、水・衛生状況が悪いために病気になる人が減り、栄養状況の改善にもつながっていくことが期待されています。またニアッサ州で同時に展開される、保健や農業など他の分野のプロジェクトと連携を図り、栄養改善にかかるマルチセクトラルなアプローチの実現を目指します。

教育分野の協力を通じた栄養改善の事例

マダガスカル「みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクト(フェーズ2)」(2020年7月~2024年3月)

マダガスカルでは、5歳未満児における発育阻害の割合が49%と世界で5番目に高い水準にあり、栄養不良が深刻な課題となっています。本プロジェクトでは、活動の一環として、米の確保が難しい農業端境期(例年12月~3月)に子どもたちに十分な食事を与えたいという保護者・地域住民のニーズに応えるべく、コミュニティの資源を活用した自主学校給食を支援してきました。食材、食費、調理人材などの情報や自主給食が子供の教育・栄養改善に果たす役割とその成果をより分かりやすくコミュニティに発信することで、地域住民の参加や資源動員が増大し、自主学校給食が以前より継続的に実施されるようになりました。

  • プロジェクト概要

海外協力隊との連携

世界各国に派遣されている海外協力隊も途上国の栄養改善に取り組んでいます。栄養士隊員や農業関連職種隊員をはじめ、小学校教育隊員やコミュニティ開発隊員など様々な職種の隊員が現地のニーズに応じて草の根レベルで活動をしています。隊員の活動はヘルスセンター等における母親や家族に対する母子栄養指導、教育現場における食育支援、水に起因する疾患を減らし、栄養不良となる状態を招かないように行われる衛生啓発活動(水の防衛隊の活動等)など多岐にわたります。

マダガスカル料理分科会

マダガスカルでは、有志のJICA海外協力隊が「料理分科会」を立ち上げ、栄養豊富な料理の普及を通じた栄養改善活動に取り組んでいます。マダガスカルで身近に手に入る食材を使った料理をみんなで集まって開発し、それぞれ任地に持ち帰って普及しています。こうした活動の結果作られた料理本はマダガスカル保健省の公認を得て、同省に供与されました。

関連情報

民間セクター等との連携による栄養改善の事例

(1)ガーナ国離乳期栄養強化食品事業化準備調査(株式会社 味の素)

ガーナの農村部では、一般的な離乳食koko(ココ:発酵したトウモロコシから作られたおかゆ)の栄養が偏っており、低身長や貧血に苦しむ子供が多くいました。そこで、離乳食に加えるだけでミネラルやたんぱく質などの栄養素を補える栄養サプリメント"KOKO plus"を開発。低価格での販売や、母子手帳とあわせた配布を通じて、栄養不良の予防を目指しました。

(2)ベトナム「栄養士制度普及・促進事業」(株式会社味の素/公益財団法人味の素ファンデーション)

ベトナムには栄養の専門家が少なく、正しい栄養知識が国民に伝えられていないため、栄養や衛生管理に関する正しい知識を持った人材の育成が求められていました。そこで日本の栄養学の教育手法や管理栄養士の国家資格を参考に、ベトナムにおける栄養士制度を創設し、栄養バランスの取れた学校給食の普及などに貢献する人材育成の基盤をつくりました。

JICAと株式会社味の素によるプロジェクトが終了した後も、公益財団法人味の素ファンデーションが事業を継続しました。現在ではハノイ医科大学に栄養コースが開講し、ベトナム初の栄養士を輩出するという成果を挙げています。

参考

(3)バングラデシュ国「ユーグレナ・クッキー事業準備調査」(株式会社ユーグレナ)

バングラデシュのスラム地域に居住する最貧困層の子どもたちは、ビタミンA、B12、亜鉛、鉄分等の栄養素が不足し、それに起因する低体重、発育不全、貧血が重大な問題となっています。ユーグレナ社は、2014年からバングラデシュの最貧困層の子どもたちが通う学校に、栄養価の高いユーグレナ入りクッキーを届けています。「ユーグレナGENKIプログラム」と名づけたこの活動での提供数は、累計1,000万食にものぼります(2020年9月末時点)。

この活動を持続可能なモデルとするために、JICAとの連携事業で同社は、バングラデシュの中間層以上にユーグレナ入り食品を販売し、そこで得られた利益で最貧困層の子どもたちにユーグレナ入りクッキーの提供を拡大するサイクルを検証する調査を実施しました。同時に現地の医療調査機関を通じた血液検査や身体測定も行い、事業の改善につなげることができました。同社の活動には、クッキー配布の他に、食育や衛生教育も含まれており、マルチセクトラルな取り組みから子どもたちの栄養改善を目指しています。

参考

(4)カンボジア国における子どもの栄養改善1000日アプローチプロジェクト(草の根技術協力、特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会)

カンボジア国内のなかでもプレアビヒア州は、子どもの栄養状態が著しく劣悪な地域ですが、低体重や栄養不良に関する認識がない親が多く、多くの子どもたちが十分な栄養をとることができていません。JICAは、「シェア=国際保健協力市民の会」と協力し、カンボジアの保健センターや保健ボランティアらとともに現地コミュニティでの乳幼児健診を実施し、栄養改善のための介入を行っています。また、適切な栄養に関する啓発活動と離乳食教室の共同開催や、州内でとれる食材を使った離乳食レシピの開発などを行っています。