JICA緒方研究所

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隊員の人物像に焦点-仙台で第6回青年海外協力隊(JOCV)研究セミナー

2015年8月3日

JICA研究所は、東北大学大学院法学研究科、JICA東北と共催で、2015年7月16日と17日、仙台市内で、第6回青年海外協力隊(JOCV)研究セミナーを実施しました。JICA研究所は、政治学、経済学、人類学、心理学など様々な学問の観点から青年海外協力隊事業を分析する研究プロジェクトに2012年から取り組んでおり、その成果を発信するため公開セミナーを開催しています。東京以外での開催は、第4回のJICA関西(神戸)に次いで2度目です。

 

畝所長
説明する畝所長(左から2人目)ら

今回のテーマは「青年海外協力隊と隊員の人物像」。JICA研究所客員研究員でもある岡部恭宜東北大学教授の進行のもと、隊員の参加動機と事業目的との関連性や、活動を通じた隊員の変化についての考察が発表されました。

 

1日目は、学生を主対象に、協力隊とは何か、実際の体験談など、具体的な内容を発表しました。まず、青年海外協力隊経験者である坂巻絵吏子JICA研究所企画課職員が、青年海外協力隊の概要を説明し、自身の体験談を話しました。

 

続いて、白鳥佐紀子元JICA研究所研究員が、隊員を対象とした意識調査の結果を用いて、その人物像を類型化し、参加動機と協力隊事業の目的との関連性について考察しました。協力隊事業の目的は、(1)途上国の開発支援(開発協力)、(2)相互理解の深化(国際協力)、(3)国際的視野の涵養(青年育成)の3つです。これらの目的と応募動機との間には、(1)途上国の役に立ちたい、人の役に立ちたいといった動機は「開発協力」に、(2)途上国を理解したい、外国で生活がしたいといった動機は「国際交流」に、(3)キャリアアップにつなげたい、自己を変える仕事がしたいなどは「青年育成」に合致すると分析しました。

坂巻職員
ベナンで青年海外協力隊として
活動中の坂巻職員

最後に、岡部客員研究員が、「青年海外協力隊の50年-創設と発展」と題し、協力隊創設の歴史を説明しました。討論者として畝研究所長より協力隊事業の多面性とその研究の意義について確認した後、活発な質疑応答が交わされました。1日目は約70人の参加があり、「経験談を聞く機会はないので、おもしろかった」「いろいろな角度の話が聞けてよかった」といった感想が聞かれました。

2日目は、元協力隊員、復興支援関係者、行政担当者など、協力隊と接点のある人を主対象に、分析とこれに基づく意見交換を中心に実施しました。須田一哉元JICA研究所非常勤助手が「応募動機による協力隊員の類型化-6つの隊員像」、大貫真友子JICA研究所研究員が「帰国後データに関する中間報告」をそれぞれ発表しました。

 

隊員の類型化は、1日目と同様の調査研究に基づいたものですが、応募動機に加えて、類型ごとの典型的な人物や意識により焦点を当てた分析を行いました。(1)人の役に立ちたい「慈善志向型」は、帰国後活動意向が高く、途上国は救済の相手と考え、他者信頼度が高い、(2)外国で生活したい「自分探し型」は、帰国後活動意向が低く、国内外の問題に関心が薄く、ボランティアは自己満足だと考えている、(3)自分を変える仕事がしたい「自己変革志向型」は正社員の退職参加が多く、途上国経験は少なく、不安に思うことが多い、などの分析を提示しました。

 

活発な質疑が続いた2日目
活発な質疑が続いた2日目

大貫研究員の研究は、協力隊の活動を通じて隊員にどのような変化があったのかを探り、グローバル人材育成の観点から協力隊事業を分析しようとするものです。経済産業省は、グローバル人材に求められる能力として、外国語・コミュニケーション力、異文化理解・活用力、社会人基礎力を挙げています。大貫研究員は、派遣前、派遣中、帰国時の隊員の社会人基礎力の変動を調べ、「チームで働く力」が伸び、働きかけ力や創造力も伸びていたことを明らかにしました。また、現地で社会人基礎力が伸びた隊員ほど、活動目標達成度が高く、ストレスが低かったことや、傾聴力、柔軟性、ストレスコントロール力が高い隊員ほど配属先での問題が少ない傾向がみられたことを説明しました。

 

討論者である三次啓都JOCV事務局審議役からの、「職種別に類型化すると、結果が変わってくるのでは」「女性の方がキャリアアップへの意欲や異文化への適応力が高いのではないか」といったコメント・質問を皮切りに、参加者からも研究手法や内容に焦点を当てた質問が多く出されました。2日目の参加者は約30人で、「こんな研究があるとは知らなかった。興味深い」「客観的、専門的な分析でよかった」といった感想が聞かれました。

 

岡部客員研究員は今回のセミナーの意義について、「第4回の神戸でのセミナーと同様、仙台での研究セミナーの開催によって、首都圏以外における協力隊および開発援助への関心に応えることができ、またそれを一層高めることができたのではないか」と話しています。

 

日時2015年7月16日(木) ~ 2015年7月17日(金)
場所仙台、東北大学



開催情報

開催日時2015年7月16日(木)~2015年7月17日(金)
開催場所仙台、東北大学

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