JICA緒方研究所

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協力隊は開発協力であり、青年育成の場:学際的研究の成果を公開シンポジウムで発表

2015年12月9日

JICA研究所は、2012年から取り組んできた研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の研究成果を発信する公開シンポジウムを2015年11月27日、JICA市ヶ谷ビルで開催しました。今年50周年を迎えた青年海外協力隊事業について、さまざまな報告がなされました。

 

青年海外協力隊事業は、日本青年の育成、日本と途上国との相互理解、開発協力という目的を持っています。協力隊の隊員は、原則2年間、開発途上国で活動します。発足以来これまで、88ヵ国に4万人以上のボランティアが派遣されてきました。

 

研究代表者の岡部恭宜客員研究員の発表
研究代表者の岡部恭宜客員研究員の発表

研究プロジェクトでは、これまでも、協力隊の歴史、人類学から見た協力隊など、テーマごとのセミナーを開催し、研究成果を公開してきました。今回のシンポジウムでは、2016年春出版予定の書籍『開発援助とグローバル人材育成のあいだ-青年海外協力隊への学際的接近』の内容を中心に、セッション1「協力隊について知る」では青年育成、とくに近年注目を浴びているグローバル人材育成と協力隊経験の観点からの報告、セッション2「協力隊の諸制度」では制度と国際比較、そしてセッション3「協力隊員がもたらす変化-開発協力の担い手」では開発協力の側面から報告がありました。

 

オープニングセッションで、畝伊智朗所長は「協力隊はJICA事業の中で最も知られている事業だが、その多様性から全体像の把握・分析は遅れていた」と説明しました。研究プロジェクトの研究代表者、岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)は「4万人の隊員それぞれに物語があり、どのように学術的に分析できるのか、その大変さを感じた。さまざまな学問や方法論から接近したわれわれの研究は、全体の理解への小さな一歩にはなったと思う」と述べました。また、50年の歴史を振り返り、目的が多様だったことが成果に結びついたのではなないかと指摘しました。

 

セッション1では、元JICA研究所研究員で協力隊員経験者の佐藤峰横浜国立大学准教授が「『めげずに頑張り続ける力』はどこから来るのか-パネルデータおよびインタビューによる分析」として、派遣前、派遣中、帰国直後に実施したアンケート結果を基に発表しました。それによると、「めげずに頑張り続ける力」に大きく影響するのは、配属先の状況(カウンターパートの有無や予算など)や現地の同僚、同期隊員などからの支援の有無であり、「めげずに 頑張り続ける人」は相談や支援のチャンネルを複数持ち、生活を楽しむなど切り替えができ、ストレスをためない人とのことでした。

 

フロアとの質疑応答
フロアとの質疑応答

続いて、元JICA研究所研究助手の須田一哉氏が、「協力隊員の類型化-参加動機から見る隊員像」として、多様な協力隊員を、応募動機により類型化した結果とその類型ごとの特徴を説明。大貫真友子JICA研究所研究員は、隊員経験でグローバル人材としての社会人基礎力が培われるか-という問題意識のもと調査を行った結果、特に「チームで働く力」が伸び、働きかけ力や創造力も伸びたと発表しました。

 

セッション2では、藤掛洋子横浜国立大学大学院教授が、「グローバル人材育成」の面から、青年海外協力隊短期派遣の可能性と課題について発表。山田浩司JICA企画部参事役が協力隊事業におけるJICA在外事務所の役割、河内久実子横浜国立大学学務・国際部国際課特任職員が米国平和部隊(ピースコー)についてそれぞれ発表しました。

 

セッション3は、開発協力の担い手としての協力隊員について、事例を交えた発表となりました。

 

細野昭雄JICA研究所シニアリサーチアドバイザーは、中米・ドミニカ共和国算数プロジェクトなどを例に、キャパシティ・ディベロプメントの視点から協力隊の貢献を分析し、相互に学び合い、従来にない新しい解決法を一緒に作り上げていった状況を説明しました。上田直子JICA青年海外協力隊事務局アジア・大洋州課長は、バングラデシュ予防接種、中米シャーガス病対策を例に、何よりも大きいのは隊員たちが行政の人々、地域の人々の「心」(感情、規範、信頼、動機、意欲など)に働きかけてきたことだと指摘。「心」とソーシャル・キャピタル(社会関係資本:人々の信頼や規範、つながりなど)の視点から、開発協力の担い手としての協力隊を分析しました。

 

公開シンポジウムの発表者ら
公開シンポジウムの発表者ら

馬場卓也広島大学教授は、広島大学がJICAから受託している「バングラデシュ国小学校理数科教育強化計画」プロジェクトに関連して、実際の学校現場での「授業研究」定着に協力隊員が一役買っていることを説明しました。

 

各研究者の発表の後、セッション1では内海成治京都女子大学教授、セッション2では小川登志夫JICA青年海外協力隊事務局長、セッション3では高野剛JICA中南米部長がコメント。全体の質疑応答の前に、岡部客員研究員が論点を整理し、JICAや在外事務所の役割が重要との指摘が多かったが、自発性や創意工夫の余地を小さくし、青年育成の効果を下げることにならないか、などと提起し、今後の協力隊事業の方向性を論点に挙げました。質疑では協力隊を経験した後の進路に関してなど人材育成の面での議論などが交わされました。

日時2015年11月27日(金)
場所JICA市ヶ谷ビル



開催情報

開催日時2015年11月27日(金)
開催場所JICA市ヶ谷ビル

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