JICA緒方研究所

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第7回青年海外協力隊(JOCV)研究公開セミナーで「隊員のネットワークと信頼の構築」などの研究成果を発表

2016年5月16日

JICA研究所は、様々な学問の観点から協力隊事業を分析する「青年海外協力隊の学際的研究プロジェクト」の成果を紹介するためのセミナーを開催しています。その第7回目として、公開セミナー「協力隊員はどのような人たちか-意識調査のデータから」を2016年4月24日、協力隊経験者による「協力隊まつり」のプログラムの一環として、同まつり実行委員会とJICA地球ひろばとの共催で開催しました。

大貫研究員による発表

北野尚宏JICA研究所所長の開会のあいさつに続き、研究代表である岡部恭宜JICA研究所客員研究員(東北大学教授)が、「応募動機による協力隊員の類型化-6つの隊員像」と「協力隊員のネットワークと信頼の構築」について、大貫真友子JICA研究所研究員が「協力隊と社会人基礎力」について、意識調査のデータを基に発表しました。また協力隊経験者で特定非営利活動法人「開発メディアganas」の長光大慈代表、同じく経験者でJICA青年海外協力隊事務局海外業務第一課の松舘文子職員が、自身の経験をまじえてコメントしました。

このうち、「協力隊員のネットワークと信頼の構築」は、社会科学で近年よく使われる社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という概念を用いて、協力隊員の意識調査データの分析を試みました。岡部客員研究員はこの調査で、新たにできた親しい友人の数(日本人を含む)と冠婚葬祭などの行事に参加した回数を「ネットワーク」の指標に、派遣先の近所の人および同じ組織の同僚に対する信頼度と、任期中に現地に溶け込めたと感じた経験の有無を「信頼」の指標としました。新たにできた親しい友人は平均5.5人で、冠婚葬祭には平均3.84回参加しており、近所の人や同僚に対する信頼度の平均も信頼できる対象であることを示す2.0以上(1.0~4.0のスケール)の2.76となり、88パーセントの隊員が任期中に現地に溶け込めたと感じた経験をしている。岡部教授は、それぞれのデータとその意味するところをこのように説明し、「協力隊員は、ネットワークと信頼、つまり社会関係資本を任地で形成している」とまとめました。

同僚とともに活動する隊員=ガーナ(写真:久野武志/JICA)

岡部客員研究員はさらに地域ごとの比較研究を行い、(1)親しい友人の数には大きな違いはないが、太平洋島嶼(しょ)地域では相対的に少ない、(2)行事への参加回数は地域で差があり、アジアが一番多く、次いで太平洋島嶼地域、アフリカ・中東の順で、中南米が一番少ない、(3)現地の人々への信頼度は地域間であまり差はない。任期中に溶け込みの実感のなかった隊員は、アフリカ・中東と太平洋島嶼地域で比較的多いと分析しました。

長光代表は、環境教育実施のために派遣されたものの、配属先に積極性がみられなかったため、自分からフリーペーパーを作ったり、日本の話をしたりといった行動を起こし、そのうちそれに対する配属先以外からの反応が出てきた体験を紹介しました。このコメントについて岡部客員研究員は、自発的行動と相手からの応答が「動的情報の創造」、すなわちネットワークとなっていったと解説しました。またボランティア活動のネットワークの参加者に、決まった役割はなく、状況や条件に応じて役割が変化していく「伸縮的分業」という特徴がみられるとも分析しました。

コメントする松舘職員(左)と長光氏

松舘職員は、自分が協力隊に参加したころは、キャリアアップのために協力隊に参加するという考えは思いつきもしなかったと話し、民間企業との連携事業にかかわった経験も踏まえ、企業側も協力隊参加者の人間力の向上やリスク回避のスキルに注目している、と指摘しました。

参加者からは、職種による違いや、帰国後、時間がたってからの調査の有無などについて質問がありました。岡部客員研究員は、応募動機による類型化で職種による分析を試みたが、職種による一定の傾向は見られなかったと回答。大貫研究員は、目標達成の自己評価について、日本語教師や理数科教師などの教育関係では自己評価が高く、コミュニティ開発では自己評価が低い傾向がみられたとしました。本研究では、帰国後数年の調査については、今のところ実施はされていないが、その重要性や、適切なタイミングについては、研究者の間で議論されているとの報告がありました。

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